08:D
「……へぇ。よくここが分かったわね」
別に試すつもりはなかったものの、たった1枚の、それに建物が写っている写真だけで時間通りにこの場所に現れた男を見て、私は少し感心してしまった。
「小さい頃、このビルの隣にある公園によく親と遊びに来ていたんだ。それにわざわざ日時指定まで書き込んじゃってさ。せっかくのお誘い、乗らないとアホだろ?」
「サイズの合わないスニーカーはちゃんと返したからね。私の足は26.5よ!」
正直なところ、また会って話がしたいと感じていた。エリアの外は縛りが多く、とても息苦しい世界だと教えられてきた。でも目の前にいるこのマヌケ面を見ていると、これが野良猫とかに遭遇した人間の気持ちなのかなとも思えてくる。
「投げ飛ばしておいてなんだけど……名前、聞いてなかった」
男は不意に笑い出す。
「お前らはどうか知らないが、
こっちじゃ先に名乗るのが礼儀って言われてるんだぜ?」
出た、礼儀。古臭いしきたりにムッとしながらも、私から名乗ることにした。
「Joanna Dys More(ジョアンナ・イス・モア)。“お前”じゃなくてイスよ、イス」
「ふーん、僕は悠だ。鬼月悠(おにづき ゆう)。
イスは日本語上手いけど、アメリカ国籍とかなの?」
途端に慣れ慣れしくなるこの男に、正直ちょっと引いてしまう。やはり他人との距離感が近い……。
「ベースの遺伝子がイギリス系だからよ……」
「そっか。僕はこのあと自警団に呼び出されてるけど、君のことは何も報告してない。……また会えるかな? 場所はそこの公園で」
私は右手を軽く上げて応えると、男を見送りエリアに戻った。
つづく
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