07:U
詰所に寄ろうとも思ったが、強打した背中の痛みが残っていたため僕は家に帰ることにした。先月のバイト代も消え、散々酷い目に遭ったものの、先ほど会った女の子が気になってしょうがなかった。人生初の、本物のカプセラーで、超強い、女の子。
「名前くらい聞いておけばよかった……」
週明けの月曜日。まだ痛む背中をさすりながら登校していると、後ろから駆け寄ってきたクラスメイトから声をかけられた。
「ついに出たらしいな、噂のカプセラーがさぁ! しかも女だって?」
しまった、あの恥ずかしいやり取りを誰かに見られていたのだろうか? 詰所には寄らず、報告も上げていない。一瞬かなり焦ったものの、僕は平静を保って彼に聞き返した。
「何の話?」
気まずそうに僕が返事をするのと同時に、別のクラスメイトが割り込んできた。
「お前さぁ……自警団からの通知を切る癖、いい加減直せよ。
先週末の騒動を知らないんだろ」
しまった、またスマホの通知を切っていたっけ。毎日届く警備区域のお知らせに訓練のスケジュール。終いには団長便りだ。ことあるごとに着信を繰り返すこの鬱陶しいアプリを僕は毎回切っていた。だが友人たちの話を総合するに、あの晩の全貌がなんとなく掴めてきた気がする。
「で、その女はカプセラーと断定できるの?」
「隣の地区の自警団、5人が秒で倒されたんだって。2メートル越えの壁も跳び越えて、あっという間に逃げ去ったって話だ。身体強化が施された人工生命体の典型例だと思う」
なるほど。そもそも、僕がどうこうできる相手ではなかったのだ。しかしあの子とは会話が成立した。コミュニケーションは取れる相手なのだ。また会って話がしたいな、なんて呑気なことを考えつつロッカールームに入ると、棚の上に見覚えのある物を発見する。
あの晩、女の子に盗まれた僕のスニーカーと、中に差し込まれた1枚の写真を。
つづく
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