05:U

教室の施錠を忘れたばかりに、とんだ災難に遭ってしまった。

僕の目の前にいるこの女が、噂で聞いた『カプセラー』に違いない。イメージしていたのとはだいぶ違うが、カプセルから大量生産されたという人工生命体。それがこの女の正体なのだろう。


先ほどは努めて平静を装ったものの、目にも止まらぬ速さでスマホを蹴とばされたことで、僕は少なからず動揺をしていた。カプセラーというのは詰所で聞いていたよりもずっとずっと、身体能力が高いようだった。


身柄を確保する訓練はひと通りやったつもりだが、通用する気がしない。むしろ、あっさり負けてしまう予感さえする。これでは救援も呼べそうにない。


「わかった、通報はしない。だからその、スニーカーだけは返してくれないか? 少ないバイト代で、先週買ったばかりなんだ」


正攻法で歯が立つような相手ではないことは十分理解できた。僕は警棒を腰のポーチにしまうと、こう提案してみた。女が靴を脱ぐその一瞬の隙を狙って……。


「じゃ、これは返すけど他のロッカーからサイズが合うのは持っていくわ。裸足じゃ帰れないから、それくらい見逃してよね」


女がスニーカーの紐をほどこうとしゃがんだ瞬間、僕は飛びかかった。 しかし、この動きも読まれていたようで、掴みかかった右腕を逆に取られ、そのまま綺麗に投げ飛ばされてしまう。


硬い廊下に背中を打ちつけ、激しい痛みで呼吸ができない。

こんなに強いなんて聞いてない。それに、こんなに痛い思いをするなんて。


「約束を破った罰。このスニーカーは履いて帰るわ。

あと……本当に邪魔はしないで」


そう言うと僕が落としたスマホを踏みつけて割り、そのまま渡り廊下のドアを開けて外に出て行く女。慌てて身体を起こして後を追うも、すでに闇夜に消えたあとであった。


背中には鈍痛が走り、スニーカーも取られてスマホは粉々。

散々なファーストインプレッションとなったが、これが彼女との最初の出会い。




つづく

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