組織

僕は、白賀岩に指示された場所に着くと、指示された通り到着の連絡をした。

「あ、丸路です。着きました。」


「分かりました。あ、いたいた。切りますね。」ツーツー


「暢さん、どうもです!」


「あっ、すみません。遅くなってしまって。」


「とんでもないです。迷いますよねー。それに急でしたし、こちらこそ申し訳ありません。」


「いえいえ。すみません。今日はどうされたんですか。」


「今日は、我々の事務所の様子を見ていただこうかと思いまして。」


「事務所ですか。」


「はいっ。そこのマンションなんですけど、他のメンバーとの顔合わせを兼ねて、と思いまして。」


「顔合わせ、、、、。」

組織自体に興味はなかったが、『二ホンらしさ』というワードに親近感が湧き、

あのファミレスの日から、何度か白賀岩とはやり取りをしていた。

ただ、事務所に行くということは聞いていない。

ファミレスで、また話をするくらいに思っていた。


「みんな活動は真面目にやってますけど、穏やかでフレンドリーなので心配しないでくださいね。」


「あっ、はい。」

僕が緊張して、少し顔が引きつっていたのを察してか、

白賀岩が優しい笑顔で声を掛けてきた。


「じゃあ、行きましょうか!」


マンションのフロントの係りの人に、白賀岩が何かしらのカードを見せていた。

「どうぞ、お入りください。」


「普段は階段で行くんですが、今日はエレベーターで行きましょう。」


― ウィーン ―


目的の階に着き、エレベーターの扉が開く。


「こちらの階の、アカツキの間になりますね。」


「今日は4名ここで活動をしています。潟矢さん、十真替さん、大塚さん、素根さんですね。4人にはお伝えしているので、部屋に入ったら改めて紹介しますね。」


「よろしくお願いします。」


― ピピピピッ ―

『アカツキの間』と書かれた扉の前に着き、白賀岩が扉の前に付けられたボタンを押している。


― ガチャ ―

「どうぞ。」

扉の鍵が開く音と同時に、白賀岩は扉のノブを持ち、ゆっくりと扉を開いた。


部屋を除くと、

40帖ほどの広さだろうか、

カップルとか2人組くらいの人が暮らすにはちょうど良さそうな普通の広さの部屋に、デスクとパソコンがそれぞれ5台ほど置いてあるが、それ以外のものはほとんど見当たらないといって良いほどの、質素な様子がうかがえた。


その5台のうち4台を、先ほど名前を伝えられた4名であろう方々が使用している。

5つのデスクはそれぞれ感覚を置いて、部屋に配置され、4人は黙々とパソコンに向かっている。


「皆さん、お疲れ様です!暢さんをお連れ致しました。」


「ど、どうも。」僕はもぞもぞと会釈をする。


「皆さん、軽く自己紹介をお願いできますか。」白賀岩は僕の肩をポンポンと軽く叩きながら、4人に向けて言葉を掛けた。


「はあーい。」4人一斉に返事をし、その場で立ち上がる。


「それでは、右から、素根さんからお願いします。」


「素根あかりです。27歳。趣味は、趣味探し。普段は、銀行員をしています。」

少し低めの慎重に、肩まで伸びたきれいな黒髪。

僕の首の方を見ながら話をしている控えめな印象とは反対に、

瞳はカラーコンタクトを入れているのだろうか、若干青味がかかっている。

― あと、趣味が趣味探しって何だろ。 ―


「十真替ひとし。52歳。市役所で働いています。ここに来たのは3か月前なので、まだまだ勉強中です。宜しくお願い致します。」

僕よりも10センチほど高い、おそらく180センチくらいはあるだろうか。

髪型は角刈りで、少し白髪交じりで、清潔感のある生真面目そうな印象を受ける。

白賀岩とは、また違った格好良さを感じる。


「大塚やすはると申します。定年後特にすることもなく、暇をしていた時にこちらに参加することになり、もう5年程になりますかね。どうぞ宜しくお願い致します。」

定年後5年というと70代後半だろうか、それにしては僕の想像する高齢者像とは違い、背筋もまっすぐだし、身なりも言葉もしっかりしている。


「潟矢えり。専業主婦。以上。」

おそらく30代後半だろうか。

まっすぐ僕の方を見つめる視線は、もはや睨み付けるといってもいいほど、冷たく感じる。

スラーっとした体格に、キリっとした目つきがより一層、冷たさを感じさせる。


「ありがとうございます。それでは、暢さん宜しくお願い致します。」


「あ、はい。

丸路暢です。私立のカタクリ大学の2回生です。ルクススヴァルというコーヒーショップでバイトをしています。宜しくお願いします。」


「暢さんもありがとうございます。

皆さんこれからチームとして、お世話になるかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願いしますね。」


『はあーい』『よろしく』とまばらに挨拶をされ、

僕も慌てて、「宜しくお願いします。」と頭を下げる。


「はい。では、皆さんお忙しいところ失礼しました。私たちは戻りますね。暢さん、それでは行きましょうか。」と扉の前まで誘導される。


― ガチャ ―

白賀岩は丁寧に両手で扉を閉める。


「暢さん、すみませんでした。急で。」


「いえいえ。すごく緊張しましたが。」


「そうですよね。すみません。でも、いい機会だったので、つい。」


僕は更にいえいえと右手を顔の前で左右に振りながら、

「それにしても、4名で色々やってるんですね。すごいですね。」と続けた。


「あー。今日はあそこには4名でしたね。でも、まだまだたくさんいるんですよっ。」


「そうなんですか。」


「はいっ。少しずつ紹介していきますね。できる範囲で。」


「よろしくお願いします。」


「あっ、そうだそうだ。これ、お渡ししておきますね。」

白賀岩は、そう言って交通カード、僕の自宅最寄りからこの駅までの1年分の定期が入っているものであった。


「えっ。いや、これは、、、。」


「これから頻繁に来ていただくことになるかもしれないので。どうぞ遠慮なくお受け取りください。」

白賀岩は、間髪入れず、

「それでは、また。すみませんが、今日はこちらで失礼いたしますね。」


「えっ。っと、はいっ。それじゃあ。すみません、ありがとうございます。」

僕は一礼をした後、白賀岩に背を向けて歩き始めた。

先ほど渡された交通カードが緊張の手汗で滑って落としそうになったので、急いで財布に保管した。

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