第37話 これしか選べない

「他の女の臭いがする…」


翔子はこういう事に対する感覚が鋭い。


正直に言った方が良い。


俺は…もう『愛する事は出来ても』誰か1人に縛られる事はもう無理だ。


これは気持ちの問題じゃない。


種としての本能だ。


インキュバスとしての食料となる『精』がもう、翔子1人じゃ足りない。


「…」


「ねぇ、理人!黙ってないで言ったらどうなの?」


「…」


どうする…此処迄来たら、話すべきなのかも知れない。


だが、それは自分が人間ではない『化け物』だと言う事を伝える事だ。


俺は…人間として生活して居たい。


だが、それはもう難しい。


もう、人間として暮らせるキャパを越えてしまった。


「翔子…もし、俺が人間じゃ無かったらどうする?」


「話をそらさないで、今話しているのは他の女の…」


話しを遮った。


「その説明をする為に必要な事なんだ、答えて欲しい」


翔子はどう答えるのだろうか…


「それ…本当に必要なの?」


「ああっ…」


「そう、私は理人が人間じゃ無くても好きだよ! その気持ちは変わらないわ…」


「そうか? だが、俺が化け物で、その化け物が生きる為に『他の女を抱く事』が必要だとしたらどうだ?」


「解った!それ、浮気の言い訳でしょう…」


「違うよ…」


どうするか?


もう言うしか無いな…


どうする?


「俺は人間じゃない…」


「人間じゃない…なんの冗談?」


「冗談じゃない…俺は、バンパイアだ!」


良く考えて、俺は半分だけ話す事にした。


バンパイアだって『精』を吸う…そんな話もある。


「バンパイア、冗談でしょう?」


「冗談じゃ無いんだ…ほら」


俺は、牙を伸ばした口元を見せた。


「牙がある…それ本物?」


「ああっ、本物だ、心当たりはあるんじゃないか?」


「確かに、言われてみれば…私の首筋に噛みついていたし、それなのに血がすぐに止まっていたわ」


「それで、どうしたい? 俺は化け物バンパイアだ…そして生きていく為には『精』が必要だ…今迄は、翔子1人で大丈夫だったが、より力がついたせいか、1人じゃもう無理になったんだ…俺は翔子が好きだ! だが…他の女も生きる為に抱かないと生きていけない」


「そんな…」


翔子が悲しそうな顔をしているのが良く解る。


だが、これはもうどうしようもない。


「ごめんな…俺には、翔子を引き寄せる事も突き放す事も出来ない…翔子が選んで良い、どんな結末でも俺は受け入れるから…」


「そう…解ったわ、考えさせて…」


「ああっ、ごめん」


俺には、何もいう資格は無い…


次の日の朝起きるとベッドに翔子は居なかった。


やっぱり…


仕方ないよな…


◆◆◆


もうどうして良いか解らない。


本当に悔しい…


私は束縛癖がつよく…もし付き合うなら『浮気をしない』それが絶対に譲れない条件だった。


今迄、付き合った男には浮気をしたら別れる。


そう言って…浮気をした奴とはそっこー別れてきた。


『どうすりゃ良いのよ!』



バンパイアだったんだ…


ううん、元から気がついていた。


抱かれる時の感覚…


首筋を噛む癖。


化け物じゃ無ければ、特殊性癖のある男って事だ。


私は理人が好き…


浮気されても、自分の主義を曲げても良いと思える位好き。


1度や2度、浮気されても許せる位…


駄目だ…どうすれば良いのよ。


部屋を飛び出しては見たけど…


思い浮かぶのは理人の事ばかり…


駄目だ…体が理人を求めている。


もう、どんな男に抱かれても満足できない…


きっと、私は、もう理人無しでは生きていけない。


理人無しで生きられない私は…


それがどれ程悲しい道でも…


『理人がいる生き方』を選ぶしかできない…


「帰ろう…」


私は泣きそうになるのを堪えて理人の元に帰る事にした。

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