第16話 あの地獄の日々が愛だったのか...


ボクシング部の件は注意こそされたが、問題には成らなかった。


法律的には問題は無い筈だ。


格闘技などのスポーツで傷害を負わせても基本犯罪にはならない。


そういう法律がある。


今回の場合はしっかりと顧問がレフリーをしていた。


そして俺は素人で相手はインターハイ2位のプロ予備軍。


絶対に問題が無い筈だ。


もし、これが問題になるなら、鶴橋が俺を怪我をさせた場合のみだ。


『プロに近いボクサーが、素人を無理やりリングにあげて叩きのめした』


恐らく、この場合のみ罰が下される。


つまり、この勝負を挑んだ瞬間、鶴橋は詰んでいた…そう言う事だ。


しかし…俺は一体どうなっているんだ?


「ステータス」


やはり、異世界では無いせいかステータスが表示されない。


だが、どう考えてもジョブなのかスキルなのか解らないが力が宿っている。


だが、自分自身の凶暴性が増した気がする。


異世界に転移する前の俺ならきっと、こんな事はしない。


最初の時点で、悪口を言われても放って置いた筈だ。


それに…多分ボクシング部には一緒に向かわないで、どうにか逃げ出した可能性が高い。


俺は平和主義で喧嘩なんかした事は殆どなかった。


こんな所で座っていても仕方ない…ジュースも飲んだし…


『どうかしら? 吸血公主とキングインキュバスになった気分は…』


幻聴が聞こえてきた…


『幻聴では無いわ…私達の声はさんざん聞いた筈よ…尤も貴方は恐怖で顔を引き攣らせていたけどね』


この声は恐らくバンパイアやサキュバス…


『正解…』


まさか、この能力は、ジョブでもスキルでも無くバンパイアやサキュバスの能力なのか…


だから喉が渇き、下半身がたぎるのか…


そしてこの残虐性もそのせいか…


それなら納得だ、バンパイアやサキュバスの能力なら女神が与えた能力じゃないから体に残っていても可笑しくない。


『それも正解』


だが、この声はなんだ…まさか、この体は乗っ取られるのか…


『そんな事はしないわ…まぁ説明してあげるから聞きなさい』


頭の中に聞こえる声は俺の意思を無視して話し始めた。


『勇者によって魔王様が倒され…魔族の敗退が決まったあの日、庇護を失った我々はあの場所を破棄して逃げ出す事を決意しました…今迄と違い、これからは日陰者として人族に追われる日々…恐らくは何時か狩り尽くされ滅ばせる…』


此奴らもあいつ等の被害にあっていたわけだ。


『それで愛おしい貴方に運命を託したのです』


愛おしい?


俺はエサだった筈だ。


『それは違うわよ!愛し方は違うけど、あれは私達なりの愛なのよ…血の契約に元づいた吸血方を行い…血族に迎える、その方法をしっかりととっていたわ』


そうだったのか…その割には地獄のようだったが…


『サキュバスも同じリリと言われる階級のサキュバスが貴方の精を吸い、仲間に迎え入れる…そういう事だったのよ』


あれが愛…


手足を捥ぎと取られて吊るされて…どSも良い所だ。


『愛よ! だけど、貴方の血や精は贄としても最高だったのよ。それこそ始祖クラスのバンパイア、サキュバスが取り合うほどにね』


怖い愛し方もあったものだ。


『バンパイアもサキュバスも複数回も吸う物は愛する者…同族に迎える者なのよ…そう言う訳で貴方はもう我々の同族…もしかしたら、我々はもう討伐されて、最後のバンパイア公主、サキュバスの始祖の能力を持つ存在かも知れないわ』


最後のバンパイア、最後のサキュバス、あっ男だからインキュバスか…


『そう言う事…これは貴方の血の中にある、只の私達からのメッセージ…すぐに薄れて、二度と声が聞こえる事は無いわ』


そうか…俺はこれからどうすれば良いんだ。


『好きにしなさい…敵が居ない世界で自由に生きると良いわ』


好きにか…


『自由気ままに人生を楽しめば良いの…仲間を増やして従えるも良し…まぁ任せるわ…これだけは間違いないで…アレはあれでも愛だった…それじゃ…』


声が頭から消えていった。


あの地獄の日々が愛…そう言われてみれば…彼女達は絶世の美女だった。


こう思えるのは俺がバンパイアやインキュバスになったからか。


◆◆◆



「ちょっと顔を貸してくれ!」


嫌な声が聞こえてきた。


今度は一体、なんなんだ。

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