第15話 VSボクシング


「おい、お前シャレにならない事をしてくれたな!」


なんで俺に絡んでくるんだ?


俺はこんな奴知らない…まさか此奴も大樹や塔子絡みの奴か。


「なんかようですか?」


「なんかようですかじゃねーだろうが!お前だろう今朝、暴力振るった奴は!」


女? 男? どっちの事だ!


解らないな。


「あのさぁ、男と女どっちの事? まぁどっちでも良いけど、あれは彼奴らが俺に『死ね』と言って喧嘩を売ってきたからだぞ」


「口で言っただけで殴る事はないだろうが」


「お前さぁ、俺は多くの人間に喧嘩を売られているんだ…ただ、あの事故から生き残っただけで…俺の周りに凄い数の敵が出来た…1人対1人やそこらじゃない、最低でも百近い人数の敵が出来たんだ、一人一人に対応なんて出来ないな」


「だからって言って女の子の服が切れる程締め上げたり、お腹に大きな痣が出来るような暴力は可笑しい、頭が可笑しいのか?」


「それで結構!彼奴らは碌なもんじゃない、父さんも母さんも職を奪われてこの街を出た…そいつ等の仲間なんだ…手加減なんて出来るか?」


「なっ、それは関係ないだろうが」


「俺には同じだ…全部が敵なんだよ…」


「そうか…だが弟を殴ったお前を俺は許せない」


「なら、殴るのか? 俺はお前に何もしていないよな? 弟の話ならもう怒られてきたから終わりだろう…」


「いや、そうはならない、俺がするのはボクシングだ」


「ボクシング? 俺はそんな物はしない」


「いや、来てもらう! 俺は、鶴橋賢吾ボクシング部のキャプテンだ来ないなら解るよな?」


囲まれている。


周りに20人は居るから行くしか無いな。


「解った、仕方ないからボクシングで相手してやるよ! ただ、後で難癖付けられたら困るから、審判としてしっかり顧問に見て貰う事、そしてこれはあくまで試合だ…それでいいなら良いよ」


「お前ボクシングの経験があるのか?」


「無いな…」


本当に面倒くさいな。


◆◆◆


「小柴先生、悪いが試合をするからレフリーを頼む」


「おい、鶴橋、そいつは一般人だろう、止めておけ」


「先生、文句言うなら俺はもうこの部活辞めるわ…それで良いのかい」


「はぁ~悪い癖が出たな、仕方ない…怪我させるなよ…悪いな、これでも鶴橋はインターハイ2位、辞められると困るんだ、気の毒だが止められない、その代り16オンスのグローブにヘッドギアをつけるから勘弁してくれ」


此奴、顧問の癖に止められないのか…


残念ながら試合ならルール違反さえしなければ問題ないよな。


「ヘッドギアは要らないな…一番軽いグローブで良いよ」


「お前、死ぬ気か? 鶴橋はインターハイ2位で卒業後はプロになる予定だ…今受けてもプロ試験に余裕で受かる実力なんだ…悪い事言わねーから」


「小柴先生、そいつが良いならやらせてやれよ…手加減するから」


「馬鹿な奴だキャプテン相手によ、俺らでもやらねーよ」


「秒殺だなこれは」


「絶対に1R持たねーよ」


「鶴橋、手加減はするんだな」


「幾ら俺でも、素人相手に余り酷い事はしねーよ」


「そう、ならば良し…悪いな、怪我しても文句を言うなよ」


「いや、別に良い、ただ俺は怪我をしても文句言わない代わり、そちらも怪我しても文句言うなよ…それで良いんだよな」


「ああっ、それで良い、もしかして格闘技経験があるのか?」


「空手を少しな」


「そうか、だが…まぁ良い」


此奴をぶっ倒したら…絡まれなくなるか…


◆◆◆


パンツを貸して貰いグローブを嵌めて貰い、リングに立った。


「良いか、このゴングが鳴ったらスタートだ」


「何ラウンドとか無いのか?」


「馬鹿言うな、鶴橋相手に1ラウンド立っていられたら褒めてやるよ」


「そうか、逆にそいつが1ラウンドもったら俺の負けで良いぞ」


「お前馬鹿にしているのか? 手加減してやらねーからな」


「ああっ、それで良い…本気で来いよ、後で言い訳されても困るからな」


「貴様殺してやるーーー」


「鶴橋、お前」


「もう許さねー」


カーン。


「掛って来いよ、おらぁぁぁーーー」


俺はそのまま、距離を詰め殴った。


勿論、鶴橋はしっかりガードしていたが…


メキャッ


ガードした腕が確実に骨折したのが解る。


まだ、静止が入っていない。


そのままがら空きの顎に軽くアッパーを入れた。


鶴橋はそのまま宙を舞いリングに叩きつけられた。


「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーっうがうがっうがぁぁぁーー」


腕は骨が飛び出し、顎も多分砕けたな。


こっちの事情も知らないで首を突っ込むからこうなるんだ。


俺はあいつ等に殺され掛かり地獄のような日々を送っていた。


あいつ等は異世界で楽しく生活している。


知らないのは解っている。


これは八つ当たりだ…


だが、悪いな彼奴ら側に立つなら許せないんだ。


「鶴橋―――っ、おい、ああっ誰か救急車」


「それじゃこれで良いんだろう…帰るわ」


「お前、此処迄の事して放って帰るのか?」


「リングに上がってレフリーが居る試合で、俺は違反はしていない! だったら、文句はないでしょう?格闘技の試合はルールを守って行えば死亡しても責任は問われないと聞きました…まして相手はインターハイで2位、俺は素人…何か問題でも?」


「無いが…人間として…間違っている」


「俺は絡まれて仕方なくボクシングをして、勝っただけ…手加減したけど怪我をした…俺が格闘技未経験だったら、あの姿は俺だった…最初に怪我しても文句言わない約束だった筈だよな」


「うがぁぁぁぁぁーーーーっ痛ううがぁぁぁーー」


「弱いくせに絡むからこうなるんだよ…死ねば良かったのに…」


「「「「「「「「「「お前―――っ」」」」」」」」」」


「あのなぁ、事情を知らないから怒るんだろうけど、俺は毎日『お前が死ねば良かったのに』そう言われていたんだ、あまりにしつこいから怒ったら、そこのアホが絡んできた…たかが1回言われた位で何故怒るんだ?」


もういいや…


面倒くさいから、相手にせずボクシング部を後にした。

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