第14話 関わらない


「幾らなんでも暴力的すぎないかね?」


教室に戻ろうとした所を、担任の緑川先生に捕まり職員室に連れていかれた。


「それは認めます…ですが、お前が死んでいた方が良い…なんでお前が生きていたんだ…そういう事をしつこく言われれば…流石に我慢の限界が来ます」


「理由は解らんでもないが、流石に女の子に掴みかかり、それを咎めた男子の腹を殴るのはやり過ぎだ」


「緑川、お前なんで生きているの? お前なんかいない方が良いんだよ!死ねよ…大嫌いなんだよ!とっとと死ね!おいぼれが!」


「黒木、貴様! 教師を馬鹿にしているのか!」



緑川の怒声が職員室に響き渡った。


「先生だって怒るじゃないですか? それにその手、俺に掴みかかっていますよ!」


「ああっ…すまない」


「これが俺の日常です…たった1回じゃない、沢山の生徒から、そう言われているんです! 怒って当たり前じゃないですか? 『死んだ方が良い』そう書かれた嫌がらせの手紙は山ほどあります…これ読んで貰えます?」


『なんでお前が生きていて塔子ちゃんが死ぬわけ? お前なんて死ねば良かったのに』


そう書かれた手紙を読ませた。


「これは…」


「こう言う手紙が山ほどあるんですよ! これって100人を超える大掛かりなイジメじゃ無いんですかね」


「そこ迄の事じゃ無いだろう」


「だけど、俺が毎日浴びせられる悪口を1回されただけで、先生は怒ったじゃないですか? 何百回も危害を加えられた生徒がたった2回やり返しただけで怒られるのですか?」


何故、こんな風に言い返せる。


「だが、手を出した事には変わりないだろう」


「だったら、良いですよ! 俺が2人に謝っても…だけど、もし俺が2人に謝ったら、俺は『学校中の生徒から虐めにあっている』と手紙をつけてマスコミに話します…これは嘘じゃないから仕方ないですよね! どちらが悪いか公平な判断をして貰いましょうか?」


「緑川くん…これはどう考えても黒木くんは悪くないと思うよ!確かに毎日のように、死ねと言われれば誰でも怒るよ…そう思わないか?」


「五所川原教頭…ですが…」


「確かに暴力はいけませんが、先に悪口を言って喧嘩を売ったのはその2人でしょう? それなら今回はお互いに悪いで良いんじゃないですか? 黒木くんもそれなら良いでしょう」


「それなら、問題はありません」


「それじゃ、緑川先生とこれから話しますから、もう授業に行きなさい」


「はい」


可笑しいな。


何故、こんな事迄頭が回るんだ。


しかも、緑川先生を追い詰める時も『楽しく感じた』なにか奪ったスキルに良い物があったのかも知れないな。


◆◆◆


「緑川くん、頼むよ!」


「五所川原教頭ですが…」


「良いですか?黒木くんはあの事故からの生還者で今マスコミが注目しています…我が校にイジメがあるなんてマスコミに言われたら大変な事になりかねません! 一クラス全員が行方不明になった事故の唯一の生き残りを沢山の生徒が虐めていたなんて話になったら、来年の入学数にも響きますし、この学校の看板にも泥を塗る事になります」


「ですが、その生徒の方は、この街の権力者の親族を持つ子が…」


「やはり、そうでしたか…ですが、もう関わり合いにならない事ですよ」


「あの…」


「よいですか?数が多すぎるし、その親に権力者を持つ子が居るから黒木くんを担任の貴方も学校も庇えない、逆に黒木くんを責めたらマスコミにリークされる…その状況で我々が出来るのは『どちらにも肩入れしない』それしか出来ません! 警察沙汰にでもならない限り黙認、それしかありません」


「本当にそれで良いのでしょうか?」


「黒木くんに嫌がらせする生徒の数は100じゃ利かない、それは解っているでしょう? それを貴方止められますか?出来ないでしょう!そのイジメの事実を証拠として彼が押さえてしまっている以上彼が今回みたいに手を出してしまっても咎められない!そりゃそうでしょう?彼にしてみればやり返しただけ、それに彼が手紙やイジメの証拠を元に『イジメられたからつい手が出ました』そういう話になれば大事になり聞き取り調査を学校側はしないとならない…その結果100名以上の生徒によるイジメがあったと証明される可能性がある」


確かに教頭先生の言う事は尤もだ。


だが…


「なら私達はどうすれば良いのでしょうか?」


「どちらにも着かず関わらない…それが一番です! 警察沙汰にでもならない限り放置です…良いですか緑川先生、絶対に関わってはいけませんよ」


確かに、思った以上に大変な事になる。


関らないのが無難だな。

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