第17話 賭け試合
ジャージ姿やTシャツ姿の男が数人。
そして、その後ろに黒服の男が10人程いる。
「なんだ、おめーらは!」
「我々も、そこの少年に用事がある…だが、そちらの要件が終わってからで良い…」
「そうか、なら良いや」
どうやらジャージ姿の男達と黒服の男たちは仲間ではないようだ。
「あの…顔かせと言われても、心当たりが無いので、失礼します」
「お前に無くても俺達にはあるんだ…鶴橋賢吾の件だ」
「ああっ、あれならもう済んだ話だろう?仕方ないから試合を受けて俺が勝って終わった!多少の怪我をさせたが、試合中なんだ、問題無いだろう?」
「両腕複雑骨折、顎粉砕骨折…それが多少だと!ふざけるな!もう賢吾はボクシングが出来なくなったんだぞ」
「それがどうした?格闘技をしているんだ!仕方ない話だ、それともボクシングは格闘技にあらずダンスだとでも言いたいのか?」
「舐めやがって、お前を鶴橋3兄弟の兄貴二人が呼んで来いって言うんだ…黙ってついて来い」
可笑しい。
賢吾の下に弟が居たから、もしそうなら、4兄弟の筈なのに、まさかの人違いか…
「それなら人違いじゃないか? 賢吾には弟がいたから、4兄弟になる筈だ」
「末っ子はボクシングをしてないから3兄弟なんだ」
「成程」
「御託は良いから付いて来い!」
「嫌、普通についていく訳ないでしょう? なんのメリットも無いんだから…それじゃ!」
「ま待て!」
俺はスマホを取り出し電話を掛けようとした。
「あっ警察ですか? 今、まさに誘拐…」
「ちょっと待て、メリットがあれば良いんだな…ちゃんとメリットを出すから…その電話を切ってくれ」
「へぇ~どんなメリット?」
「金を出す…1万…1万出すから」
「話にならない…そうだな5万円だ!5万円出すなら、ついて行ってやるよ!」
どうやら、どうしても付いてきて欲しいようだ。
ジャージの男たちはあっさりと5万円を払った。
元から電話なんて掛けていないんだけどね。
遠巻きに見ていた黒服の男がクスクス笑っているのが見えた。
此奴ら、全く繋がりが無いみたいだ。
「さぁ、5万円払ったんだ…ついて来てくれよ」
白いバンに乗るように言われた。
バンの横を見ると大橋ボクシングクラブと書かれている。
賢吾が3人の中で一番年下だとすれば兄2人は『プロ』の可能性が高い。
最悪、そいつ等とやりあわないといけないのか?
それより、不味いのは『これ』だ。
自分がバンパイアとインキュバス両方であるのを意識してから、喉の渇きと下半身の疼きを感じる。
最悪、下半身の疼きを治める為に…風俗にでも行くか…
今迄行った事ないが、そうでもしないと静まらない…
白いバンに乗って30分…やはり予想通り、大橋ボクシングクラブについた。
「こんな所で、何をしようって言うんだ?!」
「さぁね…此処はボクシングジムだぜ! ボクシングをするんじゃねーのかな?」
「そう…」
「此奴、ようやく怖気づいたみたいだぜ! もう遅い!」
「別に…」
「はははは…虚勢はるのもやめろ…東洋チャンプと世界チャンプが待っているんだ怖くないわけねーだろうが…」
世界チャンピオン…小物じゃないか…
◆◆◆
「悪いな…俺は此処のジムの会長をしている大橋ってもんだが…」
「そんなのは良い、早く、そのインチキ野郎をリングにあげろや…血祭りにあげてやんよ!」
「誰ですか? あんた…」
「俺の事しらないの? 俺の名は 鶴橋健四郎、お前がインチキで潰した賢吾の兄だ!」
「インチキ? 正々堂々の試合で倒しただけだ!試合で怪我しただけでイチャもんつけるのか?」
「はん?あんなのインチキに決まっている、どうせグローブに細工したんだろが!」
「そんな事していない!バンテージを巻いたのもボクシング部員だったし、ボクシングの顧問がレフリーで確認したんだ、そんな事出来る物か!」
「あんっ…馬鹿かお前? ガードの上から腕を殴って複雑骨折、顎を殴って粉砕骨折、そんな事ライト級の東洋チャンピオンの俺でも出来ない、プロが出来ない事を素人が出来る訳無いだろうが!」
「俺はボクシングは素人だ、だが空手が少し出来る…だから骨ぐらいは簡単だ」
こう言って置いた方が無難だな。
「馬鹿か~そんな事出来る訳ないだろうが! もし出来るって言うなら、俺と試合してみろよ! そんな事出来るなら俺にも勝てるだろう…」
「そんな俺の得にならない事、なんでしなくちゃいけないんだ? 悪いが帰らせて貰う」
「俺とやるのが怖いのか?このペテン野郎が!」
「お前なんか楽勝…だけど、俺にメリットがねーからやらないんだ…あんたプロだろう? プロはお金にならない事はしないだろう?」
「ちょっと、あんた健四郎が怖くて逃げる気なんでしょう?」
なんでこんな所に天使翔子が居るんだ?
天使翔子(あまつかしょうこ)は黒髪のセミロングにスレンダーな体のモデルだ。
顔は幼く見えて可愛いが、タバコを未成年の時に吸っていたのやヤンキーだった過去がバレて最近TVで見なくなった。
俺も実はファンだった。
「あんた、もしかして天使翔子か?」
「だったら、なに?!」
「健四郎、天使翔子を賭けるなら、やってやっても良いぜ」
自分でも少しゲスだと思うが、今の俺は血も精もどちらにも飢えている。
どうにかしないと、そのうち無差別に人を襲いかねない。
それに翔子は、男関係でも沢山問題を起こしていたから、罪悪感は無い。
此奴がホスト通いでタバコを吸っていた写真を見た時は…泣いた。
でも容姿は本当に清純で可愛いんだよな…
「馬鹿か? 女なんか賭けられるかよ…それに翔子は…」
「良いぜ、やろう! 私を賭ければやってくれるんだよね?」
乗って来た…
「良いぜ、期間は1か月、あんたを自由にさせて貰う…あとで逃げられると困るからAVや風俗と同じ契約書を交わさせてもらう…黒服の人、用意してくれないか?」
「お前、俺達を誰だと思っているんだ?」
大体、誰か想像は着く…恐らくはこんなヤバそうな感じの奴は塔子絡みだ。
違うかも知れないが、塔子が似たような車に乗っていたのを見た事がある。
仮にも塔子は財閥の令嬢、その関係者なら…こんな書類なんて簡単に作る伝手はあるだろう。
「南条財閥の関係者だろう? もし、書類を作ってくれるなら借り1つだ…今日は野暮だが、明日以降誘いに来れば無抵抗でついていく。だが用意してくれないなら、殺されてもついて行かない」
「約束だからな…裏切るなよ」
これで準備は出来た。
「さぁ、もう逃げられないね!そう言えば受けないと思ったんだよね! 健四郎はボクシングの東洋チャンピオン負けるわけ無いじゃない?馬鹿じゃ無いの? 弟くんの賢吾くんは二度とボクシングが出来ない体になったんだ!そのけじめをつけて貰うよ!商品は私なんだから、ルールは動けなくなるか、命乞いするまでにするから…良いよね? 健四郎、此奴、弟くんみたいにしてやんな」
やっぱり元ヤン…これが素かよ。
少しは罪悪感があったんだけど…もう全く無い。
「そうだな、良いぜ受けた…これでもう、何も言い訳できねーな」
「ラッキー…それしか言わない」
流石は南条財閥、すぐに弁護士が来てくれて書類を書きあげた。
健四郎側は『死のうが怪我しようがお互いに保証を求めない』そう追加していた。
黒服の男たちは、この書類を書き終わりサインが終わると弁護士の先生と共に帰っていった。
◆◆◆
バンテージを巻いて貰い、グラブをつけた。
8オンス…相当な恨みだな。
一番、軽いグローブだ。
「これで文句はないだろう?リングに上がれ!」
「ああっ、だが、最初に言っておく、バンテージを巻いたのもこのジムの人間、グローブを嵌めたのもこのジムの人間だ、これなら、後でイカさまとか言わないよな?」
「ああっ、大丈夫だ、大橋会長も確認した文句ない」
「それじゃ、サッサと終わらせようぜ、今日はその女を抱くんだからな…」
「お前、死んだぜ」
カーン。
ゴングが鳴った。
「これがボクシングのジャブだ、プロでも簡単には躱せない」
確かに速い。
賢吾とは比べられない程速い。
シュシュっと音がする。
だが、バンパイアの本能が『ゴミ』そう言っているような気がする。
女も貰えるし、悪いから手加減してやるか。
「当たってない様だね!それじゃこっちも行くか…亀岡流飛竜拳」
しっている、空手好きの爺ちゃんの名前とゲーセンで聞いたような名前を言いながらアッパーを繰り出した。
賢吾の事があるから、手加減した。
手加減したのに健四郎は垂直に素っ飛んで5メートルはあるだろう天井に激突。
ガコーン、バキッ。
凄い音と共に天井のパネルと共に落ちてきた。
「あがっあががががーーっあがっ」
痛さで健四郎が転げまわっている。
そうか、今は夜。
バンパイアは夜行性だから強くなっているのか。
「此奴、気を失って無いし、まだ降参してない…目下ダウン中だけど、この場合は攻撃して良いんだよな」
それを大橋会長に聞くと、タオルを投げ込んできた。
「それは?」
「負けだ…」
「そう、それじゃ翔子は貰っていくからな」
なんだか悪役みたいだが、仕方ない。
俺はバンパイアでインキュバスなんだから。
「約束は守る…好きにすれば…」
青ざめ、体を震わせる翔子の手をとり、俺は大橋ボクシングクラブを後にした。
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