第12話 変わる


結局、父さんと母さんはこの街を出て東京に行く事にした。


しっかりと退職金も貰えているし、家も売りに出すからお金には困らない、ゆっくりしながら就活をするそうだ。


話し合って俺はこの街で1人暮らしをする事にした。


家賃や生活費は親が出してくれるから困らない。


「もし、住みにくかったら何時でも来て良いんだからな」


「そうよ、何時でも来るのよ!」


「大丈夫だよ!父さん、母さん」


「そうか、まぁお前が決めたんなら何も言わない」


「貴方がそうしたいなら…頑張りなさい!」


「頑張るよ」


正直言えば、只の意地だ。


此処を出ていけば、気分は楽になる。


だが『逃げたくない』そう思っただけだ。


両親の荷物を纏め、見送り…俺の1人暮らしが始まる。


かなり狭めのワンルームのマンション。


揉めた時の為に全国チェーン店の不動産屋に相談して同じく大手の持ち物タイガーズマンションにして貰った。


一応は、トイレ、お風呂、室内洗濯機置き場にキッチンがついている。


必要な物は家から持ち込んだから、生活には困らない。



◆◆◆


引っ越したから取り敢えず、報道関係者は来ない。


だが、相変わらず…学校では陰口は聞こえてくる。


「なんで黒木なのよ…大樹くんや大河くんが死んでなんで彼奴が生きているの」


「黒木が死んで塔子ちゃんが生きていれば良かったのに…」


ムカつく…此奴らは俺が死んだ方が良い…そう思っているのかよ。


心の中で何かが弾けた気がした。


『そいつらはお前が死んだ方が良いって言っているのよ? なぜ怒らないの?』


気がつくと俺は傍にいた女の胸倉を掴んでいた。


「きゃぁぁぁぁーーー」


「おい、何をしているんだ!」


思いっきり胸倉を掴んで吊り上げたから、ブラウスのボタンが数個飛んだ。


「お前、今、俺が死んだ方が良かった!そう言ったよな? 俺に…喧嘩売っているんだよな!」


「やめろ、良いから降ろせ…」


「お前も、俺が死んだ方が良いって言ったよな? だったらお前等全員敵だよな!」


「ごご、ごふ…ごめんなさい…」


「喧嘩する気も無いのかクズが!」


俺はそのまま降ろすと女はへたり込んだ。


「今迄は我慢してやった! だが『死んだ方が良かった』って言われれば誰だって腹が立つ…これは喧嘩を売っているんだよな? この位の事はされても仕方ないだろう?」


「だからと言って此処迄する事ないだろうが!」


「俺が生き残った事で、俺の父さんは仕事を解雇だし、母さんはパートを辞めさせられた…この街で仕事にはつけないかもしれないから出ていったよ…これは大したことないのか? 毎日下駄箱には『なんでお前が生き残ったんだ』そんな手紙が多数入っている…なぁ、教えてくれよ! これが大した事無いのか?」


「ごめんなさい…もう言わない…よ」


「悪かったよ、俺が悪かった」


「それじゃ償いにならないな…そうだな、謝るなら逆の事言えよ!」


「「逆?」」


「『大樹や大河が死んで黒木くんが助かって良かった』『塔子が死んで黒木くんが助かって良かった』これを大声で言えば許してやるよ! これで公平じゃ無いのか?」


「そんな…」


「俺は」


「あ~ムカつく! 言わねーなら、償いにならないから、女、お前を俺は許さない! このままボコってやるよ…」


「ひぃ…言います…言えば良いんでしょう…大樹や大河が死んで黒木くんが助かって良かったぁぁーーー、これで良いんでしょう」


「はぁ~聞こえないな、俺は大きな声で言えって言ったんだぜ」


「大樹や大河が死んで黒木くんが助かって良かったーーー! これで良いんでしょう…ヒクグスッ」


「ああっ良いぜ、大樹も大河も死んだ方が良い、なんて随分嫌われていたんだな…もう陰口言わなければ何もしねーよ…それでお前は?」


「俺は言わねーよ」


「そうかい」


ガスッドガッ…


俺は男に腹パンを入れた。


「ううっ、お前いきなり」


「人に『死ね』って言ったんだ!殴られても仕方ないだろう?今日はこれで良い…次言ったらこんな物じゃすまさないからな」


「ううっ…解った」


俺は一体何をしたんだ?


女とはいえ、完全に俺、吊り上げていたよな…


スキルもジョブも無いのに、何故、こんな事が出来る。


解らない。


「まぁ、俺も悪かった…今度から気をつけてくれれば良い」


俺はそそくさとその場を立ち去った。





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