第11話 戻って来ても (ここで鬱パートは終わります)


同級生が全員行方不明。


生存は絶望…その事から学校から連絡があり隣のクラスC組に編入させられる事になった。


元々帰宅部だから、同級生以外に知り合いは殆ど居ない。


此処から、また始めれば良い。


そう思ったのだが…甘かった。


◆◆◆


「黒木さん!ちょっと良いですか?話を聞かせて下さい!」


「一体フェリーでなにがあったんでしょうか?」


「海に放り出されて…あとは解りません」


「他の同級生については何か解らないんですか?」


「解りません…遅刻するので失礼します!」


異世界で楽しくやっているよ…


それが言えたらどれ程、楽なのか…


どうせ言っても誰も信用等してくれない。


フェリー事故の唯一の生き残りとしてマスコミに追っかけられている。


しかも、遺体が見つからない事と行方不明に暫くなっていた事から『カルトな事件』としてネットでも取り上げられて、周りが煩い。



それを我慢して逃げるように学校に通うが…それだけじゃない。


学校に着いたら着いたで…


下駄箱にはまず手紙が入っている。


ラブレターでは無く、大樹たちの取り巻きからのムカつく手紙だ。


そのまま、見ないでゴミ箱にぽいする。


そこから、クラスまでも煩くて仕方が無い。


「ねぇ、なんであんたが生き残って、大樹や大河が行方不明なのよ!」


「解らないよ…記憶に無いんだ…」


「チェッ…死ぬなら黒木が死ねば良かったのに…」


「雅子ちゃん、別に黒木くんが死んだって、大樹くん達が助かったわけじゃ無いよ…黒木くん…行って…ゴメン」


「…」


「本当に黒木じゃなくてよ!塔子さんや平城さんが生き残った方が良かったのに…なんでお前が生きているわけ?」


「本当にそう思うよ」


「それに此奴事故にあった時の記憶が無いんだろう…1人だけ助かって何かしたんじゃないのか…きっと見捨てて逃げたんだ」


「おい、滅多な事言うなよ…黒木、悪い…此奴塔子さんに憧れていたから…」


「ああっ」


そいつらは俺を地獄に突き落とし…今頃、のうのうと暮らしているよ!


そう言いたいが言っても誰も信じてくれないだろう…


「そうか…」


構っていても仕方ない。


だから、適当に返している。


いい加減にしてくれ。


帰ってきてまで俺の足を引っ張るな。


あの5人は人気者だったから、彼奴らが行方不明で俺が助かったのが気にくわないのか…軽い嫌がらせが多い。


殆ど接点の無い、女の子に「大樹くんを返してーーーっ」と泣かれた日にはムカついて仕方が無かった。


お前の好きな大樹くんは今頃お姫様とパコパコしている。


そう言いたくなった…


『つまらない』


学校に来ても面白くない…


無気力状態で授業を受け…嫌な目で見られながら休み時間を過ごす。


直接、暴力を振るわれたり、嫌がらせこそ受けないが『なんであんただけ生き残ったの?』そんな目で見られる日々。


これが楽しい訳ないだろう。


あの女神に同級生、何処まで俺を苦しめるんだ…


◆◆◆


「あなた、大丈夫?」


「駄目だ、きょう正式にクビになった…」


「そんな…」


「そういうお前も何だろう?」


「ええっ…今月いっぱいで辞めて欲しいって…」


父さんがクビになる理由。


それは、父さんが勤めている会社が大樹の父親が経営している会社だからだ。


母さんが働いているスーパーのオーナーも大河の親が経営しているスーパーだった。


「父さん、母さん!」


「仕方ない、仕方ないんだよ…」


「そうね、仕方ないわ」


話しを聞くと強引にというわけでは無く…


どちらも『見ていると悲しくなるから』そういう理由だった。


「自分の子供が返って来ないのに…家だけ理人が帰ってきたから見ているのが辛いんだとさぁ…」


「私の所も同じよ…困ったわ…」


「何だよ! それ…」


幾ら怒っても仕方が無かった。


父さんはちゃんとした手順で退社になった。


早期退職という扱いで解雇予告手当に和解金、そして早期退職金という名目で合計500万円が貰えるそうだ。


母さんも急に辞めて貰う条件で1か月分プラスのパート代が貰えるそうでどちらも法律上問題はなく、寧ろ破格と言えた。


ただ、問題は…


この街で暮らすには『大樹』『大河』『塔子』『聖人』の親と関わらないと生きていけない。


それぞれが、この街の権力者だから…恐らく辞めた後は…もう何処も雇ってくれないだろう。


「俺は、理人が帰ってきてくれて幸せだ…だがあの人たちの子供は帰ってきていない」


「そうね…家を見て辛いと言うのは解るわ」


結局、うちの両親はこの場所を離れる事を決めた。


だが…俺は納得できなかった。


『彼奴らは異世界で幸せに暮らしている…被害者は俺だ』


こんな状況で返されて、此処でも理不尽な思いをする…


こんなのは許せない。


体が少し熱くなるのを感じた。


少し喉が渇いた気がした。


「父さん、母さん…俺、卒業まで頑張りたい」


此処を離れれば、多分今よりは楽になる…それでも…


「「理人」」


「だって、高校の編入って難しいし、また費用が掛かるでしょう? 残り2年も無いから、そこ迄頑張らせてよ」


両親は悩んだ末、1人暮らしを許してくれた。


俺は何をこれからしたら良いのか解らない…だが此処で逃げるのだけはしたくなかった。



※ ようやく鬱パートは終わります。




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