第48話 ああ、僕と才人は深い絆で繋がった仲だから
始業式と午前中の実力テストが終わり昼休みになった途端、女子を中心にしたクラスメイト達は空の席へと大挙して押し寄せた。そして次々に質問を投げかけ始める。
「長門君って、前はどこの学校だったの?」
「何か部活とかはやってた? 運動系? 文化系?」
「ちなみに今付き合ってる彼女とかはいる?」
「前の学校は札幌にあるありふれた普通科の高校だったよ、部活とかは特にやってなかったんだよね。よく驚かれるけど実は彼女って今までいた事ないんだ」
それに対して空は嫌な顔一つせずにこやかに全て答えていた。そんな様子を俺は真里奈と少し離れたところから一緒にぼんやりと眺めている。
「才人のいとこ、朝もそうだったけど相変わらず凄まじい人気ね」
「ただでさえ転校生なんて珍しいっていうのにあの容姿だからな」
身長は俺よりほんの数センチ高いくらいだが色白で中性的な甘いルックスはまるで王子様のようであり、身内の俺から見ても本当に綺麗な顔と思うレベルだった。本当に俺や歩美と同じ血が流れているのか疑わしいほどだ。
「もう一人の方も今頃めちゃくちゃ苦労してるんじゃない?」
「だな、多分翼も似たような感じになってると思う」
翼は真里奈に匹敵するほどの美少女のためきっと男子達から質問攻めにされているに違いない。そんな事を考えながら机の上に弁当箱を広げる。夏休み前と同様、昼食は真里奈の手作り弁当だ。
「おっ、今日はサンドイッチを作ってきたのか」
「ええ、ハムチーズレタスサンドと卵サンドを作ってきたわ。わざわざ才人のために作ってあげたんだからしっかり味わって食べなさいよね」
「勿論だ」
「分かれば良いのよ、じゃあ食べましょうか」
お手拭きで手を拭き終わってからサンドイッチを食べようとしていると、空が俺達の席にお弁当箱を持ってやって来る。
「やあ、才人と八雲さん。僕も混ぜてもらってもいいかい?」
「ごめん、悪いけど才人と私は二人きりで食べる約束をしてるから。それに長門君なら一緒に食べてくれそうな人はたくさんいるんじゃない?」
真里奈は普段クラスメイト達に接している時のような比較的お淑やかな態度で断ろうとした。空なら別に俺達とじゃなくても一緒に昼食をとりたいと思っているクラスメイトはごまんといるに違いない。
せっかく転校してきた初日なんだから交流や友達作りも兼ねて俺達以外のクラスメイト達と過ごした方が良いと思う。
「皆んなが僕の事を誘ってくれるのは嬉しいんだけど残念ながらその気持ちには応えられそうにないんだよね」
「えっ、何でだ?」
「だってお昼はやっぱり才人と一緒に食べたいからさ」
空は相変わらずにこやかな表情でそんな言葉を口にした。それを聞いていたクラスメイト達が次々に声をあげる。
「ねえ、長門君と霧島君ってどういう関係なの?」
「あっ、もしかして昔からの知り合いとか?」
「そう言えば霧島君の事をさっき才人って呼んでたもんね」
「普通親しい関係じゃないと名前で呼ばないよね」
空が俺のいとこである事を知っているクラスメイトは真里奈と航輝しかいないため気になるのは当然だろう。だからクラスメイト達の疑問に答えようとするわけだが、俺が口を開く前に空はとんでもない爆弾発言をする。
「ああ、僕と才人は深い絆で繋がった仲だから」
確かに俺と空はいとこであり八分の一は血の繋がりがあるため深い絆があるという表現はあながち間違いでもないだろう。
だが今の発言はどう考えても聞いていた全員にとんでもない誤解を与えかねない。案の定教室のあちらこちらから驚きの声があがり始める。
「えっ!?」
「二人はそんな関係だったの!?」
「霧島君は真里奈と付き合ってるんじゃないの!?」
以前真里奈が俺と付き合い始めた事を宣言をした時と同じくらい教室内は騒然となった。他のクラスから俺達の教室前の廊下に何人も野次馬が集まって来るほどの騒ぎにまで発展している。
「いやいや、皆んな変な勘違いをしてるみたいだけど空はただのいとこだからな」
俺は慌ててそう弁明するがクラス内の騒ぎは収まりそうになかった。一部の女子達は俺と空のどっちが攻めか受けかなどという妄想話で盛り上がっており本当に勘弁して欲しい。
「ち、ちょっと才人。深い絆で繋がった仲っていうのは一体どういう事よ!?」
「どういう事かって言われても誤解としか言いようがないんだけど……」
「……ひょっとしてまさかそっちの気があったの?」
「いや、それだけは断じてそれは無いから」
真里奈からも思いっきり詰め寄られてしまい、もう何もかもがめちゃくちゃだった。教室中の視線が俺と空に集中しているせいで居心地も最悪だ。
午後からある実力テストを全て投げ出して家に帰りたい気分になっている。てか、こんな状況になってるっていうのに空はよく平気そうな顔をしていられるな。
結局俺は昼休みの間中ずっと真里奈やクラスメイト達の誤解を解くために奔走したわけだが、果たしてどれだけ効果があったのかは分からなかった。
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