第3部

第47話 実は転校生って俺のいとこなんだよ

 とうとう楽しかった夏休みも終わり今日から学校が再開する。小学生の頃から毎年のように思っていた事だが夏休み明け初日の今日が一番憂鬱だ。


「才人起きなさい……ってもう起きてたのね」


「何故か今日は早く目が覚めたんだよ」


「そんなに学校始まるのが楽しみだったのかしら?」


「そんなわけないだろ」


 俺はいつものように朝から部屋へとやってきた真里奈とそんな会話をしていた。それから制服に着替えて朝食を済ませて家を出る。


「そう言えば今日から才人のいとこ二人が転校してくるのよね?」


「だな、どこのクラスになるかは知らないけど同じ学年だから真里奈もどこかで関わる事があるかも」


「空と翼って名前だったと思うけど、私達と同じ学年って事はあの二人って双子なの?」


「そうそう、男女の双子って結構珍しいよな」


「確かにそうね」


 双子と聞くと同性同士のイメージが強いが空と翼の場合は異性だ。それに一卵性ではなく二卵性のため双子と言ってもめちゃくちゃ似ているわけではない。


「母さんもあいつらが東京に戻ってきたって事を知ってたならもっと早く教えてくれても良かったのに」


「才人のママは昔からサプライズが好きだったし、あんたの事を驚かせたかったんでしょ」


「めちゃくちゃ驚いたから母さんの目論見は大成功だな」


 そんな話をしながら二人で歩いているうちに学校へと到着した。席に着いてリュックサックの中から筆記用具などを取り出していると航輝が話しかけてくる。


「よお才人、八雲さんとはすっかり元通りになったみたいだな」


「あの時は助かった。LIMEのメッセージでも送った通り真里奈とはちゃんと仲直りできたから」


 同士社大学のオープンキャンパス後に真里奈とギクシャクしていた件は航輝にも相談していたため気にしてくれていたのだろう。


「それは良かった、また何かあったら相談くらいは乗れるから遠慮なく言ってくれ」


「ありがとう。まあ、何も無いのが一番だけどな」


「それは間違いない」


 何度もあんな状態になる事だけは本当に勘弁して欲しい。


「あっ、そうだ。才人にビッグニュースがあるんだけど聞きたいか?」


「ビッグニュースって一体何だ?」


「さっき職員室に行った時にたまたま聞こえてきたんだけど今日からうちのクラスに転校生が来るらしいぞ」


「へー、うちのクラスなのか」


「……あれ、あんまり驚かないんだな」


 航輝は意外そうな表情を浮かべた。多分俺がもっと驚くと思っていたに違いない。


「うちのクラスって事までは知らなかったけど転校生が来るって話自体は少し前から知ってたし」


「えっ、一体どこでそんな情報をゲットしたんだ?」


「実は転校生って俺のいとこなんだよ」


「そうなのか!?」


「ちなみにうちの学校に転校してくるいとこは二人いるんだけどさ、どっちが来るんだ?」


「いや、小耳に挟んだだけだから詳しい詳細までは知らない」


 とりあえず空か翼のどちらかが俺のクラスに来るらしい。朝のSHRで転校生の紹介があるはずなのでその時に分かるだろう。


「なあ、転校生してくる才人のいとこ二人ってどんな感じの奴なのか聞いてもいいか?」


「双子の兄妹で兄の方が空、妹の方が翼って名前だ。二人とも明るくてフレンドリーな性格だからクラスにもすぐ馴染むと思うぞ」


「そっか、転校生って新しい環境になって中々馴染めないタイプもいるからそれだと安心だな」


 しばらく航輝とその話題で盛り上がっているうちにチャイムが鳴り響き、それと同時に担任の松島先生が教室へと入ってきた。松島先生は教壇に立って教室内が静まり返ったのを確認すると口を開く。


「おはよう、今日から学校再開だが皆んな元気そうで安心したよ。知っての通り始業式が終わったら実力テストになるから今のうちに机の中に入ってる余計な物は片付けておくように。それから……」


 松島先生は始業式や実力テストについてなどの伝達事項を話し始めるがクラスメイト達の多くは適当に聞き流している様子だった。

 まあ、伝達事項は既に知っているような内容がほとんどなため仕方がない事だろう。だが松島先生が次の言葉を口にした瞬間教室内に大きなどよめきが起こる。


「それと今日からこのクラスに転校生が来る事になった、長門君入ってきてくれ」


 松島先生がそう言い終わると教室前方の扉が開いた。そして転校生が教室の中へと入ってきたわけだが、その瞬間女子達から黄色い歓声があがる。どうやら俺のクラスに転校してきたのは空のようだ。


「いきなりにはなるが、皆んなの前で自己紹介よろしく」


「初めまして、家族の転勤で札幌から引っ越してきました。今日からこのクラスでお世話になる長門空です、皆さんよろしくお願いします」


 にこやかに自己紹介をした空に対して多くの女子達は熱い眼差しを送っている。それに対して一部の男子達は面白くなさそうな表情を浮かべていた。

 急にめちゃくちゃイケメンな転校生が現れて女子達の視線を独り占めにしていたらそうなってしまうのも仕方がないだろう。

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