第46話 あの時助けてくれたお兄ちゃんとお姉ちゃんがどうしてここにいるの?

 昼食を終えてからも引き続き二人で勉強をしていた俺達だったがいつの間にか十七時前になっていた。


「……もうこんな時間か」


「集中し過ぎてたせいか全然気が付かなかったわね」


「時間ってこんなあっという間に過ぎるもんなんだな」


 事前に話していた通り今日は十六時半で勉強を切り上げる予定だったのだが、気付けば三十分近くもオーバーしてしまっている。

 真里奈は罵声を浴びせながら毒を撒き散らすいつものスタイルで俺に勉強を教えていたが相変わらず分かりやすかったためかなり捗った。

 だから夏休み明けの実力テストは結構良い成績が期待できるかもしれない。


「そろそろお客さんも来る頃だろうし私は帰るわね」


「オッケー、今日は玄関までしか見送れないけどそこは勘弁してくれ」


「別に気にしなくて良いわよ、まだ明るい時間だから一人で帰っても危なくないでしょうし」


 そんなやり取りをしながら真里奈と一緒に玄関まで歩いて行く。そして玄関から外に出て真里奈を見送ろうとしていると家の前に車の一台の車が停まるのが見えた。多分お客さんが到着したのだろう。


「じゃあまた明日」


「ああ、気をつけて帰れよ」


「ええ、帰ったらまたメッセージ送るわね」


 お客さんが来た事に気付いた真里奈はそう言い終わるや否や足早に立ち去ろうとしていたが、チラッと車の中を見た瞬間突然声を上げる。


「鈴華ちゃん!?」


 鈴華ちゃんってどこかで聞いた事がある名前だなと思っていると、助手席から小学校低学年くらいの女の子が驚いたような顔をして降りてきた。

 その顔を見て俺は板橋区の花火大会で迷子になっていたところを助けた女の子が鈴華という名前だった事を思い出す。


「あの時助けてくれたお兄ちゃんとお姉ちゃんがどうしてここにいるの?」


「どうしてってここが俺の家だし」


「って事はお兄ちゃんが鈴華の親戚のお兄ちゃん?」


「「えっ!?」」


 親戚のお兄ちゃんという言葉を聞いた俺と真里奈がポカンとした顔をしていると運転席から鈴華ちゃんのお母さんが驚いたような顔で降りてくる。


「あの時鈴華を助けてくれたあなたが才人君だったの!?」


「……はい、そうですけど」


「昔と雰囲気が違うから全然気付かなかったわ」


 鈴華ちゃんのお母さんが一人盛り上がっている姿を見て俺はとある可能性に気付く。かなり遠方に引っ越しをしてしまったため十年以上会ってないが俺には三人のいとこがいる。

 二人は俺と同い年だがもう一人とはかなり歳が離れていて直接会った事がないため顔を知らない。と言う事はまさか。


「なあ、めちゃくちゃ今更なんだけど鈴華ちゃんってなんて苗字なんだ……?」


「鈴華の苗字は長門ながとだよ」


 どうやら鈴華ちゃんは俺のいとこの一人で間違いないようだ。鈴華ちゃんのお母さんにどこか見覚えがあった理由にもようやく納得がいった。

 鈴華ちゃんのお母さんと俺は叔母と甥という関係であり小さい頃に何度も会っていたのだから見覚えがあるのも当然だ。


「って事はそらつばさもここに来てるのか?」


 俺がそうつぶやいた瞬間、後部座席から二人組の男女が降りてくる。


「勿論僕と翼も来てるよ」


「才人君、やっほー。めちゃくちゃ久しぶり、確かに雰囲気は昔と結構違うね」


 最後に会った小学生低学年の頃と比べて二人ともかなり成長してはいるが昔の面影もちゃんと残っていた。やはり目の前に立つ二人は俺のいとこである長門空ながとそら長門翼ながとつばさのようだ。


「ねえ、状況がよく理解できないんだけど……」


「あっ、ごめん」


 真里奈が完全に置いてけぼりになっていた事にようやく気付いた俺は慌てて説明し始める。


「そこにいる空と翼、鈴華ちゃんは俺のいとこなんだよ」


「そうなの? それにしては才人と全然似てない気がするけど」


 真里奈は空と翼、鈴華ちゃんと俺の顔を見比べながらそう口にした。確かに三人とも割と平凡な顔立ちをしている俺や歩美と比べてかなり美形だ。真里奈に匹敵すると言っても過言では無い。

 血の繋がりはあるはずなのに一体どこでこんなにも差がついてしまったんだろうか。そんな事を考えていると空と翼が話しかけてくる。


「ところでその子は誰?」


「それ私も気になってた」


「ああ、真里奈は俺の彼女だ」


「えっ、才人君彼女いるの!?」


「へー、そんな美人な子を彼女にするなんて才人も隅に置けないな」


 空と翼は口々にそう声をあげた。二人とは何年も会っていなかったはずなのに不思議と全くそんな気がしない。恥ずかしさや気まずさなどは全くと言って良いほど無かった。


「そう言えば今日は何しに来たんだ?」


「あれっ、姉さんには事前に伝えてたはずだけど何も聞いてない?」


 俺が空と翼に疑問を投げかけると叔母さんは不思議そうな表情を浮かべる。


「はい、母さんからは特に何も聞いてないです。それどころか今日誰が来るかすら教えてくれませんでしたし」


「実は私達、ちょっと前に東京に引っ越して戻ってきたの。だから姉さん達にその挨拶をしにね」


「私と空、鈴華も夏休み明けからこっちの学校に転校する事になったんだ」


「ちなみに僕と翼は才人と歩美ちゃんと同じ学校らしいからよろしく頼むよ」


「えっ、マジで!?」


 空と翼が俺達の学校に転校してくる事を考えると夏休み明けは学校が一段と騒がしくなりそうだ。

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