第43話 さっきのは才人に対する私なりの愛情表現ってやつよ
昼食を食べた後も引き続き二人で遊び続けた結果、いつの間にか浅草フラワーパークに来てから四時間近くが経過していた。
「遂に最後のアトラクションね」
「ああ、後は観覧車にさえ乗れば完全制覇だな」
「思ってたよりも早く園内を回れたからちょっと意外だったわ」
「だな、俺ももっと時間掛かると思ってたし」
夏休みでそこそこ混雑していたとはいえそこまで広い遊園地では無かったため四時間あれば遊ぶには十分だったようだ。
観覧車にも当然待ち時間はあったが他のアトラクションに比べて圧倒的に回転率が良かったため待ち時間はわずかだった。
係員の指示に従ってゴンドラに乗り込むと、ゆっくりと上がり始める。他の遊園地の観覧車と比べると少し小さめらしいが、上からの眺めが普通に良かったため全く気にならなかった。
「フラワーパークって上から見たらこんな感じなのね」
「夜に乗ったら色々ライトアップされて夜景が綺麗だったかもな」
「確かにSNS映えしそうだわ」
そんな会話をしながら景色を眺めているうちにゴンドラはどんどんと上昇していきもうすぐ頂上だ。すると真里奈は突然シートから立ち上がって俺の目の前までやってくる。
「ねえ才人、ちょっとだけ目を閉じてくれないかしら?」
「別にいいけど何でだ?」
「いいから黙って私に従いなさい」
「分かった」
真里奈からの命令に俺は何の意図があるのかと少し不思議に思いつつも言う通りに目を閉じた。そして次の瞬間、突然唇に柔らかい感触がする。
突然の事に驚いた俺が目を開けると真里奈の真っ赤な顔が至近距離にあった。なんと真里奈は俺にキスをしてきたようだ。
「……急にどうしたんだよ?」
「さっきのは才人に対する私なりの愛情表現ってやつよ」
「あまりに突然過ぎたから驚いたぞ」
「まさか嫌だったって言うつもりはないでしょうね?」
真里奈は普段通りの強気な態度を取りつつもどこか不安そうな表情を浮かべていた。そんな様子を見た俺は真里奈を抱き寄せて唇を奪う。俺の行動に驚く真里奈だったが受け入れてくれた。
「これが俺の答えだ」
「……才人の癖にちょっとかっこいいじゃない」
「俺の癖にってのは一言余計だ」
せっかく頑張ったのだからもっと素直に褒めてくれても良いのではないだろうか。まあ、でも以前よりも真里奈との距離がかなり近付いたように感じているので良しだ。
しばらくして観覧車を降りた俺達はお土産屋に寄って買い物をしてから出口へと歩き出す。
「この後はどうする?」
「うーん、まだ帰るには少しだけ早い時間だから迷うわね」
「だよな」
思っていたよりも早く遊び終わってしまったため時間が中途半端なのだ。
「あっ、そうだわ。最近浅草に豆柴カフェが新しくオープンしたみたいなんだけどせっかくだから行ってみない?」
「へー、中々面白そうだな。そこに行こうか」
目的地が決まった俺達はスマホの地図アプリを見ながら豆柴カフェを目指して歩き始める。浅草フラワーパークから徒歩五分くらいの距離にあったため割とすぐだった。
早速店内に入り受付を済ませた俺達はそれぞれ注文した飲み物を手に持って豆柴達のいるエリアの中へと入っていく。
店内は畳風の床にちゃぶ台というレトロなデザインになっていた。適当に座って待っていると豆柴達が俺達の近くに寄ってくる。
「尻尾を振っててめちゃくちゃ可愛いな」
「そうね、かなり人懐っこい感じがするわ」
豆柴の頭を真里奈は撫でているが特に嫌がっているような様子はない。それどころか真里奈の膝の上に乗ってくつろぎ始めている。
「歩美と何回か猫カフェに行った事があるけど、その時は向こうから全然寄ってこなかったからえらい違いだな」
「猫より犬の方がフレンドリーってイメージがあったけど本当だったみたいね」
「確かに猫はかなりツンデレな性格だって言うしな」
ツンデレは基本ツンでありデレてくれるまでが中々大変なので、猫カフェでたかだか数十分程度戯れたくらいでは駄目なのだろう。
まるでどこかの誰かさんにそっくりだ。そう思っていると真里奈が俺の方をじとっとした目で見つめている事に気付く。
「今私に対して何か失礼な事を考えてなかったかしら?」
「べ、別にそんな事はないぞ」
真里奈の言葉を聞いた俺は慌ててそう誤魔化した。もしかしたら表情に出ていたのかもしれない。
それからしばらく豆柴達と遊び続けていたわけだが、気付けばあっという間に制限時間の三十分が経過していた。時間の延長は出来ないシステムになっているため名残惜しいが出るしかない。
「またね」
真里奈はそう言って近くにいた豆柴の頭と背中を撫でてお別れをしていた。会計を済ませて店の外に出た俺達は自宅へと帰るために浅草駅を目指して歩き始める。
「今日は楽しかったわね」
「だな、久々に遊園地で遊べて豆柴カフェでも癒されたからもう今日はお腹いっぱいだ」
「残りの夏休みも全力で楽しむわよ、来年の今頃は受験勉強でそれどころじゃないでしょうし」
「ああ、今年のうちにしっかり遊んでおかないと損だしな」
こうして俺達の夏休みのとある一日は幕を閉じた。
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