第42話 いやいや、今さっき中に入ったばかりじゃん

 パンダカーを堪能した後も引き続きフリーフォールやメリーゴーランドなど複数のアトラクションに乗った俺達だったが、その次にどこへ行くかで激しく揉めていた。


「やっぱり夏と言ったらお化け屋敷だろ、せっかくだから行こうぜ」


「そんな子供騙しの幼稚な仕掛けしかないようなところに行ってもどうせつまらないから却下よ」


「いやいや、ここのお化け屋敷はかなり本格的らしいから」


「才人に何と言われても私は行かないわ」


 お化け屋敷へ行く事をさっきから提案しているのだが、真里奈は全力で拒否している。何故嫌がっているのかに関しては非常に単純だ。

 それはお化けが怖いからに他ならない。まあ、真里奈は絶対にその事を認めようとはしないだろうが。だから俺はあえて真里奈を煽るような言葉を口にする。


「あっ、ひょっとして怖いのか?」


「そ、そんな事ないわ」


「そっか、やっぱり真里奈は怖いんだな。ごめんごめん、じゃあお化け屋敷は辞めとこうか」


「全然これっぽっちも怖くなんて無いから」


「別に強がらなくても良いんだぞ」


「強がってないわ、そこまで言うならお化け屋敷くらい行ってやるわよ」


 負けず嫌いな真里奈は俺の思惑通りそう口にした。うん、想像以上にチョロいな。それからしばらくしてお化け屋敷の前に到着したわけだが、真里奈は相変わらず強がっている。


「楽しみね、入る前からワクワクとドキドキが止まらないわ」


「さっきから震えてるように見えるのは俺の気のせいか?」


「こ、これはえっと……そう、貧乏ゆすりしてるだけよ」


 明らかに無理のある言い訳をする真里奈だったがあえてそれ以上は突っ込まなかった。順番待ちをしている間も相変わらず震えていたためちょっと心配になってくる。

 だがあれだけ俺に対して威勢の良い事を言った手前、もはや後には引けなくなったようで結局中に入る事となった。


「な、中は結構薄暗いのね……」


「お化け屋敷だからな、これで明るかったりしたら雰囲気ぶち壊しだろ」


「……確かにそうね、もうそろそろ出口かしら?」


「いやいや、今さっき中に入ったばかりじゃん」


 真里奈は恐怖のせいか支離滅裂な事を口にしている。歩いて移動するウォークスルー型のお化け屋敷で何の演出も無くすぐに出口だったらクレーム間違いなしだ。

 ちなみに浅草フラワーパークのお化け屋敷は怨霊の徘徊する不気味な武家屋敷という設定になっているため中はかなり凝った作りになっている。

 震える真里奈の手を握って進んでいると左右が障子に挟まれた細長い通路に差し掛かった。そろそろ何か起きそうだと思っていると案の定左右の障子から勢いよく複数の手が飛び出してくる。


「きゃあぁぁぁぁ!」


 俺とは違い全く心の準備が出来ていなかったらしい真里奈は大きな悲鳴をあげて思いっきり俺に抱きついてきた。


「おいおい、いくら何でも大袈裟に驚き過ぎだって」


「し、障子から手が出でくるなんて聞いてないわ。手を出すなら事前に予告してから出しなさいよ」


「そんなのもはやお化け屋敷じゃないんだよな……」


 仕掛けが発動する前にわざわざその予告してくるお化け屋敷とか一体どこの誰が得するんだよ。それはそれである意味めちゃくちゃ話題になりそうな気はするが。

 そんな事を思いつつお化け屋敷の中を進んでいく俺と真里奈だったが、突然起きあがってきた落武者に追いかけられたり突然赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきたりと仕掛けは盛りだくさんだった。


「おっ、そろそろ出口が近いっぽい」


「や、やっとここから出られるわ……」


 ようやく出口の明かりが見えたため、真里奈は明らかに安心したような表情になる。だがお化け屋敷は出口が見えて安心したところを脅かしてくるパターンが非常に多い。

 俺はそう真里奈に警告をしようとしたのだが、運悪くそれよりも前に天井から血まみれの生首が落下してくる。


「いゃあぁぁぁぁ!」


 真里奈は俺の手を思いっきり引っ張るとそのまま出口に向かって全力で走り始めた。女性とは思えないほど強い力で引っ張られた事を考えると間違いなくお化け屋敷が相当怖かったに違いない。


「……思いっきり叫び過ぎて流石に疲れたわ、そろそろ休憩にしましょう」


「そうだな、時間もちょうど良いから昼食にしようか。色々と食べるところはあるけど何が食べたい?」


「うーん、どうしようかしら」


 俺と真里奈はパンフレットを見ながらお互いに何が食べたいかを話し合う。俺と真里奈の食べたい物はそれぞれ違っていたが、フードコートなら両方とも食べられる事が分かったためそこへ行く事にした。


「あっ、そうだ。どうせなら頼んだ料理をシェアしない?」


「良いな、それなら二人で色々と食べられるし」


 食べ物のシェアという恋人らしいイベントにちょっとだけ憧れを持っていたため俺としては大歓迎だ。


「よし、決まりね。じゃあ早速行くわよ」


「だからあんまり強く手を引っ張るなって」


 さっきまで恐怖で怯えていたのがまるで嘘かのように真里奈は元気に戻っていた。もしかしたら真里奈も恋人らしいイベントをもっと色々と体験したかったのかもしれない。その後俺達は仲良く二人で昼食をとった。

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