第41話 別にもう一本買わなくてもこれを飲めばいいじゃない

「それで何から乗る?」


「まずは飛行船に乗りたいわね、上から園内が見渡せそうだし」


「オッケー、そうしよう」


 俺達は早速乗り場へと向かい始める。パンフレットによるとその名の通り飛行船の形をしたモノレールのような乗り物で高さ7.5mあるレールの上を進むらしい。


「やっぱり夏休みだからそこそこ並んでるな」


「まあ、どうせ時間はたくさんあるんだし気長に待ちましょう」


 俺と真里奈は順番待ちをしながら適当に雑談をし始める。


「そう言えば夏休みが終わったらすぐに修学旅行だよな」


「ええ、沖縄は初めてだから楽しみだわ」


「ああ、俺もだ」


 ちなみに修学旅行の行き先は北海道と沖縄、京都の三択だった。京都へは同士社大学のオープンキャンパスで行く予定だったため除外し、北海道と沖縄の二択でかなり迷っていたのだが真里奈の希望で後者を選んだ。

 何気に飛行機に乗るのは人生初なためちょっと緊張していたりもする。そんな話題で盛り上がっているうちにどんどんと列は進んでいき俺達の番がやってきた。


「おいおい、まさかの人力かよ」


「そうみたいね」


「てっきり自動で動いてくれるのかと思ってたぞ」


 シート下にはペダルが付いており自分達で漕がなければ前に進まないようだ。


「見晴らしも良いみたいだし、ゆっくり漕げば良いんじゃないかしら」


「だな、景色を楽しみながら進もうか」


 俺と真里奈は同時にペダルを漕ぎ始める。ところどころで止まって写真を撮っていたため完走までに時間は掛かったがかなり楽しめた。


「次は絶叫系に乗りたいわね」


「色々あるみたいだけど、どれにする?」


「まずは軽めの奴からで行きましょう」


「ならこれとかどうだ?」


 俺はパンフレットの中に書かれていたスタースピナーというアトラクションを指さす。スタースピナーは床の土台がメリーゴーランドのように回り、それに加えて星型の座席が前後ろ回転するアトラクションのようだ。


「へー、中々面白そうね」


「よし、決まりだな」


 俺達は早速スタースピナーの列に並ぶ。先程と同様雑談してしばらく待っているうちに順番が回ってきた。


「見た感じはそんなに怖くなさそうね」


「だな、案外大した事ないかも」


 そんな事を口にしながら座席に座る俺達だったがすぐにスタースピナーの恐ろしさを知る事となる。稼働ブザーが鳴り響くと同時に座席がゆっくりと動き始めるわけだがその揺れ幅の強弱が中々曲者だった。

 少しゆらゆらしているだけかと思いきや急に地面と上半身が垂直になる程揺れ、油断していたところで突然一回転だ。俺と真里奈は盛大に平衡感覚を狂わされてしまった。


「……全然軽くなかったのは気のせいかしら」


「……可愛い名前と見た目に騙されたら駄目って事がよく分かった」


「……回転し過ぎてもう訳分からないんだけど」


 スタースピナーを降りた俺達は近くのベンチで完全にダウンしている。


「酔った時は炭酸が効果的らしいから買ってくる」


「分かったわ」


 俺はベンチから立ち上がると近くの自動販売機でコーラを買う。遊園地料金で少し高かったが背に腹はかえられない。


「ほら、買ってきたぞ」


「買ってきたぞって一本しかないじゃない」


「あっ……」


 何も考えずに一本しか買わなかったが、よくよく考えたら二本必要だ。酔っていたせいであまり頭が働いていなかったのかもしれない。


「まあ、いいわ。貸しなさい」


「ああ」


 俺の手からひったくるようにコーラの入ったペットボトルを取った真里奈はゴクゴクと飲み始める。そんな様子を見つつカバンから財布を取り出そうとしていると真里奈から腕を掴まれた。


「別にもう一本買わなくてもこれを飲めばいいじゃない」


「えっ、いいのか?」


「カップルなんだからそのくらい普通でしょ、それともまさか私が口を付けたコーラは飲めないとか言うんじゃないでしょうね?」


「いや、そんな事はないぞ」


 そう言って俺は真里奈が差し出してきたペットボトルを手に取って飲む。以前であれば抵抗があったかもしれないがもはや間接キスごとき何の躊躇いもない。多分本当のカップルになって距離が近くなったおかげだろう。


「次は絶叫系以外がいいわね」


「そうだな、出来たら穏やかな奴がいい」


 パンフレットを見ながら二人で話した結果、パンダカーに乗る事にした。これなら絶叫要素も無いはずなので安心して乗れるはずだ。


「小さい子が多いわね」


「基本的には子供向けだからな」


 パンダカー乗り場は幼稚園児や小学生くらいの子供で溢れかえっていた。ただ大学生くらいの男女も普通に乗っていたため俺達が乗っても問題はないはずだ。


「才人、ちょっと乗ってみなさいよ」


「こんな感じか?」


「よく似合ってるじゃない」


「いやいや、似合ってはないだろ」


 真里奈がニヤニヤしながらパンダカーに乗っている俺の写真を撮っている事を考えるとむしろやばい絵面になっている気しかしない。


「それに乗って学校に通学したら人気者になれるんじゃない?」


「死ぬほど悪目立ちするし、絶対捕まる未来しか見えないんだけど」


 パンダカーで学校に通学なんてしていたら間違いなくSNSにアップされるだろう。ある意味人気者になれるかもしれないが黒歴史になる事は間違いなしだ。


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昼休みに公開したつもりになって完全に忘れてました←

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