第40話 あっ、大丈夫とは思いますけど赤ちゃんだけはまだ作らないでくださいね

「才人朝よ。今すぐ起きなさい」


「……相変わらず起こし方が激しいな。もう少し優しく起こしてはくれないのか?」


 花火大会から一週間が経過した今日、俺はいつものように真里奈から叩き起こされていた。偽装から本物のカップルにランクアップを果たしたのだからもう少し優しくしてくれても良いのではないだろうか。


「最初は優しく起こそうとしてたわよ、でも全然起きてくれなかったから仕方なく強硬手段に出たってわけ」


「えっ、そうなのか?」


「分かったらさっさと準備してよね」


「オッケー」


 俺はベッドから起き上がると洗面所へと向かい顔を洗って寝癖を直す。そしてダイニングテーブルに準備されていた朝食を食べてから部屋へと戻る。

 そしてパジャマから以前真里奈に選んでもらったTシャツとズボンに着替えて準備完了だ。今日は真里奈と浅草フラワーパークという遊園地へ行くためカバンの中は財布とスマホだけで大丈夫だろう。


「準備できた、じゃあ行こう」


「ええ」


 俺達が部屋を出て玄関へと向かっていると、これからどこかに外出しようとしているらしい歩美と遭遇する。


「歩美も出かけるのか?」


「うん、これから友達と図書館で夏休みの宿題をする予定だから」


「そうなのね、今日もかなり暑いらしいから気をつけて行きなさいよ」


「はい、真里奈さんとお兄ちゃんもデート楽しんできてください」


 そう言い終わると歩美は玄関で靴を履く。そしてドアノブに手をかける歩美だったが、何かを思い出したようでくるりと後ろを振り向く。


「あっ、大丈夫とは思いますけど赤ちゃんだけはまだ作らないでくださいね。この歳で叔母さんになるのは嫌なので」


「ちょっ!?」


「な、何言ってんのよ!?」


 歩美の口から出たとんでもない発言を聞いた俺達は二人揃って顔を真っ赤に染める。そんな俺達の様子を見た歩美はニヤニヤした顔で家から出て行った。


「……やっぱり歩美には敵わないな」


「……そうね」


 どうやら俺も真里奈も歩美に弄ばれたらしい。歩美の事は絶対敵に回してはいけないと改めて認識した。それから気を取り直した俺達は家を出て駅に向かって歩き出す。


「そう言えば才人は宿題の進捗ってどうなってるの?」


「後はオープンキャンパスのレポートと三百字以上六百字以内で夏休みの思い出を書く英作文が残ってる」


「見事に面倒なやつばかり残ってるわね」


「そうなんだよ、とりあえず後回しにし続けたら見事にその二つが残ったって感じだな」


「勿論分かってるとは思うけどちゃんと終わらせなさいよね」


「ああ、居残りさせられるのは怠いし」


 そう、夏休みの課題を終わらせなければもれなく放課後の教室で教師数人による監視のもと居残りさせられる事になるのだ。怒られて内申点が下がった上に居残りまでさせられる事だけは絶対に避けたい。

 まあ、まだ夏休みは半分くらい残っているためよほど手抜きをしない限りは問題なく終わるはずだが。


「先に言っておくけどもし夏休みが終わる一週間前までに全部終わってなかったら私が朝から晩まで監視して宿題をやらせるから」


「何で一週間前までなんだよ? もう少し遅くても良い気がするんだけど」


「残り一週間は夏休み明け初日にある実力テストの勉強時間に使うからに決まってるでしょ」


「いやいや、実力テストは基本実力で受けるんだから別に勉強なんてしなくても良いだろ」


 現に中学生の頃から今まであった実力テストは文字通り全て実力で受けて来た。すると俺の発言を聞いた真里奈は呆れたような顔になる。


「定期テストと比べて実力テストの成績があんまり良くないと思ったらそういうカラクリがあったのね。分かったわ、今後は私が徹底的に勉強させてあげるから覚悟しなさい」


「うわっ、余計な事言わなきゃ良かった……」


 真里奈から実力テストがあるたびに勉強をさせられる事が確定したため今からめちゃくちゃ憂鬱だ。口は災いの元とはまさにこの事だろう。

 そんな事を思っているうちに駅に到着した俺達は浅草フラワーパークの最寄駅である浅草駅を目指して電車で移動し始める。

 浅草駅へは数十分電車に揺られているうちに到着したため結構すぐだ。そこから商店街の中を通ってしばらく進んでいくと江戸時代風の門が見えて来た。


「あそこが入り口か」


「映えそうな写真が撮れそうだわ」


 真里奈はカバンからスマホを取り出すと入り口の門を撮り始める。浅草フラワーパークは江戸時代末期に開園された日本最古の遊園地だったはずなのでその辺りには力を入れているのだろう。

 入り口で入園料を払って中に入るとメリーゴーランドやジェットコースターが目に飛び込んできた。


「やっぱり遊園地って感じがしてめちゃくちゃ良いわね」


「だな、遊園地なんて結構久しぶりに来た気がするからちょっとワクワクしてる」


 俺も真里奈も普段よりもややテンションが高い。まるで子供に戻ったような気分だ。


「アトラクションは乗り放題のフリーパスを買うかのりもの券を買うかで乗れるみたいだけど真里奈的にはどっちが良い?」


「うーん、そうね。せっかくここまで来たんだからアトラクションにはたくさん乗りたいし、フリーパスにしましょう」


「分かった」


 俺達はチケットハウスでフリーパスを購入すると手首に巻き付けた。

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