第37話 えっ、才人ってまさか人妻に興味があったの!?
たこ焼きを食べ終わった後も二人で色々と勝負をしているうちに気付けば花火大会の開始時間の二十分前になっていた。
「今回も私の方が強かったわね」
「次は絶対負けないからな」
勝負は真里奈に勝ち越されてしまったが普通に楽しかったため良しだ。そんな事を話しながら歩いていると小学生低学年くらいに見える女の子が泣きそうな顔で立っている姿が目に入ってくる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、お母さんもどこいったの……?」
口ぶり的に恐らく迷子になってしまったのだろう。会場内がこれだけ混雑していれば迷子になってしまうのも無理は無い。
周りは女の子に哀れみの目を向けてはいたものの、誰も助けようとはせずそのまま通り過ぎて行っていた。俺は居ても立っても居られなくなり女の子に声をかける。
「大丈夫か? ひょっとしてはぐれちゃった?」
「う、うん。お母さん達が急に居なくなっちゃったの」
突然話しかけられて驚いた様子の女の子だったが小さな声でそう答えてくれた。すると隣にいた真里奈が優しい表情を浮かべながら口を開く。
「じゃあお姉ちゃん達が助けてあげるわ、だから心配しないで」
「本当?」
「ああ、俺達に任せてくれ」
もしかしたら花火の開始時間に間に合わなくなる可能性もあるが今は女の子を助ける事が最優先だ。俺達は女の子と一緒に入り口にある花火大会の本部へと向かい始める。
下手に広い会場内をうろうろ歩き回って女の子の保護者を探し回るよりも本部に連れて行った方が手っ取り早いと判断したためだ。
「お兄ちゃんは才人でこっちのお姉ちゃんは真里奈。君の名前は?」
「
「へー、鈴華ちゃんって名前なのね。今は小学生?」
「うん、小学一年生」
やはり小学生だったらしい。歩きながら鈴華ちゃんと色々話しているうちに色々な事が分かってきた。最近県外から東京に引っ越してきたばかりのようで今日は家族と花火大会に来たらしい。
「そっか、夏休みが終わったら新しい小学校に行くんだ。じゃあ頑張って新しい友達を作らないとね」
「うん、鈴華頑張る」
鈴華ちゃんは警戒心が解けたのか真里奈と楽しそうに話している。ちょっと前まで泣きそうな顔をしていたので元気になってくれて本当に良かった。
少しして本部のあるテントに到着した俺達は事情を説明して迷子の呼び出し放送をかけてもらう。とりあえずこれで一安心だろう。
ただ保護者が迎えに来るまでは鈴華ちゃんも不安だろうと思った俺達は一緒に待つことにした。そこには最後まで見届けたいという気持ちも含まれている。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんは付き合ってるの?」
「ええ、そうよ」
「じゃあラブラブなの?」
「ああ俺達はラブラブだぞ」
鈴華ちゃんからの純粋な質問に俺がそう答えると真里奈は少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。それからしばらく楽しく三人で会話をしていると慌てた様子の女性が本部に駆け寄ってくる。
「あっ、お母さん」
「鈴華良かった。いつの間にかはぐれちゃったから心配したのよ!」
「隣にいるお姉ちゃんとお兄ちゃんに助けてもらったんだ」
どことなく鈴華ちゃんと顔立ちが似ているなと思っていたら、やはり母親だったらしい。あれ、でもどこかで見た事ある顔な気がする。
「迷子になった娘を助けていただいてありがとうございました」
「いえいえ、私達は当たり前の事をしただけですから」
「そうですよ、困った時はお互い様ですし」
深々と頭を下げてくる鈴華ちゃんのお母さんに対して俺達それぞれそう口にした。これで鈴華ちゃんも無事にお母さんと再会できた事だし一件落着だ。
「鈴華ちゃん、お母さんと再開できて良かったわね」
「うん。お姉ちゃんとお兄ちゃん、ありがとう」
「今度はお母さん達とはぐれないようにな」
そう言って俺は別れを惜しみつつも鈴華ちゃんを見送った。そして俺達は観客席に向かって歩き出す。
「やっぱり良い事をした後は気持ちいいわね」
「だな、花火の開始時間にも何とか間に合ったし本当に良かった」
そんな事を話しつつも俺は少しだけモヤモヤとした気持ちになっている。
「ちょっと浮かない顔をしてるけど一体どうしたのよ?」
「いや、鈴華ちゃんのお母さんの事がさっきからずっと気になっててな」
「えっ、才人ってまさか人妻に興味があったの!?」
「そ、それは誤解だ」
本気でドン引きした表情をした真里奈に慌てて否定した。確かに綺麗な人ではあったが人妻狙いとかマニアック過ぎるだろ。
「じゃあさっきの発言はどういう意味よ?」
「多分だけど以前にどこかで会った事ある気がしてさ」
だがどこで会った事があるのか全く思い出せそうになかった。もしかしたら俺が子供の頃に会った人なのかもしれない。
「思い出せないって事はそんなに関わりが無い人じゃないの?」
「それが何回も会った事あるような気がするんだよ。でも全然思い出せなくて」
まさに痒いところに手が届かないような気分であり、とにかく気持ちが悪くて仕方がない。
「まあ、そのうち思い出すかもしれないし花火を楽しみましょう」
「そうだな」
どれだけ頑張っても思い出せそうになかったため俺は考えるのを辞めた。ちなみに鈴華ちゃんのお母さんの正体は意外な形で判明する事になるのだが、その事を今の俺はまだ知らない。
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