第36話 あっ、ひょっとして間接キスを気にしてるの?

 会場の最寄駅で電車を降りた俺達は屋台を見て回り始める。まだ花火大会開始の一時間以上前だというのに会場内はかなり賑わっている様子だ。


「ねえ才人、せっかく屋台もたくさん出てるんだし勝負しない?」


「そう言えば昔から真里奈とお祭りとか花火大会に行ってた時はいつもやってたな、勿論受けて立つぞ」


「決まりね、負けた方が勝った方に何か奢るって条件でどうかしら?」


「ああ、それで大丈夫」


 早速俺達は近くにあった射的の屋台に向かう。そして屋台の店員にお金を支払ってからルール説明を聞く。

 どうやら倒した的の点数で景品が貰えるというシステムになっており、配点の高い的ほど小さいらしい。


「真里奈の事ボコボコにしてやるよ」


「何言ってんの、勝つのはこの私なんだから」


 それから俺達は横並びに立ってコルク銃を撃ち始める。俺は無難に当てやすい的だけを狙ってコツコツと点数を稼ぐローリスクローリターンな方法を選んだ。

 それに対して真里奈は得点の高い小さい的を狙うハイリスクハイリターンの戦法を取っていた。この辺りは完全に俺達それぞれの性格が表れている。


「やっぱり小さい的を狙って一気に点を稼ぐのがセオリーよね」


「いやいや、ここは手堅く堅実なのが正解に決まってるだろ」


 そうやって俺達はバチバチにお互いに煽り合う。昔から屋台で真里奈と勝負をする時はいつもこんな感じだったのでちょっと懐かしい。

 結局射的は真里奈が最終的に小さい的を二連続で倒した事によって一気に抜かれてしまい俺の負けという結果で終わってしまった。


「……あそこで二連続とか運良すぎだろ」


「運も実力のうちよ、じゃあ約束通り奢って貰おうかしら」


「分かったよ、それで何を奢ればいいんだ?」


「ちょうど甘い物が食べたかったしあそこのベビーカステラにするわ」


「オッケー」


 俺は真里奈とともにベビーカステラの屋台まで足を運ぶ。そんなに混んでいなかったためすぐに買うことが出来た。


「どこかに座らない?」


「そうだな」


 俺達は空いていた芝生にゆっくりと腰を下ろす。隣からベビーカステラを食べる真里奈の姿をぼんやり眺めていると、爪楊枝に刺さったそれを差し出してきた。


「ほら、特別に才人にもあげるわ」


「おいおい俺にくれるなんて一体どういう風の吹き回しだよ、なんか裏がありそうでめちゃくちゃ怖いんだけど」


 俺が驚いた表情を浮かべていると真里奈は心外と言いたげな顔で口を開く。


「私にだってそのくらいの優しさくらいあるわよ」


「なあ、熱とかあったりする?」


「もしかして才人は私に引っ叩かれたいのかしら?」


「じ、冗談だって。有り難く貰うよ」


 そう言って俺は爪楊枝の先に刺さっていたベビーカステラをパクリと食べる。


「うん、甘くて美味しい」


「最初から黙って素直に食べなさいよね」


 そう口にしつつも真里奈はどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。それから少ししてベビーカステラを食べ終えた俺達は次の勝負をするためヨーヨー釣りの屋台へと向かい始める。


「今度は絶対俺が勝つからな」


「残念だけど勝ちを譲るつもりは無いわ」


 そんな会話をしているうちに屋台の前へと到着した。花火大会の時間が近づき始めたという事で会場内の人通りは増え始め屋台も混雑し始めている。

 だがヨーヨー釣りは運良く順番待ちする事もなくすぐに始められた。先程の射的とは違い今回は点数では無く取った数で勝負をしているため俺も真里奈も慎重に手を動かしている。


「……あっ」


「これは勝負あったな」


 かなりの接戦を繰り広げていた俺達だったが真里奈の集中力が先に途切れたらしくこよりが千切れてしまったのだ。


「さて、真里奈に何を買って貰おうかな」


「なるべく安い物にしなさいよね」


 先程は甘いベビーカステラを食べたため今度は味の濃い物が食べたい。


「たこ焼きにしようかな」


「才人に奢るのはこれが最後だから」


「はいはい、買いに行くぞ」


 真里奈の言葉を軽く流しながらたこ焼きの屋台に並ぶ。しばらくしてたこ焼きを買い終わった俺達は再び空いていた芝生に座る。


「真里奈も食べていいぞ」


「本当に良いの?」


「ああ、初めからたこ焼きなら分けやすいと思って選んだしな」


 さっきのベビーカステラも何だかんだ俺が半分くらいは食べたため流石に分けないのは不公平だと思ったのだ。


「やっぱりまだちょっと熱いな……」


「本当かしら? ちょっと食べさせなさい」


 たこ焼きを一口だけ食べた俺が熱さで顔を少し歪めていると真里奈が爪楊枝ごと横取りしてきた。そのまま真里奈は俺が食べかけのたこ焼きをパクりと食べる。


「別にそんなに熱くないじゃない、才人は大袈裟ね」


「……いや、平然と何やってるんだよ」


 突然の真里奈の行動に驚いた俺は思わずそう声を上げた。思いっきり間接キスになっているが真里奈は恥ずかしくないのだろうか。


「あっ、ひょっとして間接キスを気にしてるの? もっと凄い事をやったんだからそんなの今更でしょ」


「そ、そうかもしれないけどさ」


 確かに俺は真里奈とはキスもしたしエッチもしたが恥ずかしいものは恥ずかしい。


「才人は思ったよりもピュアなのね」


「そういう真里奈こそ顔真っ赤だぞ」


「えっ、嘘!?」


「自分で気付いてなかったのかよ」


 実は一番気にしているのは真里奈なのかもしれない。

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