第26話 真里奈が素直にお礼を言ってくるなんて明日は雪かな?
「そろそろウォータースライダーに行かないか?」
「そうね、ただ泳ぐだけなのも飽きてきてたところだし」
「よし、まずは小さい方のスライダーから行こうぜ」
「楽しみだわ」
一旦プールから上がった俺達は小さいスライダーへと向かう。
「滑る時に寝転ぶと結構スピードが出るらしいけど真里奈はどうする?」
「そんなの勿論寝転ぶに決まってるじゃない」
「だよな、そう言うと思った」
昔から真里奈はスピード狂気質なところがあったためこの返答は正直予想通りだ。それから列に並ぶ俺達だったがスライダーの距離が短く回転率が良かった事もありすぐに順番が回ってきた。
「よっしゃ行ってくる」
「才人の姿、上から見ててあげるわ」
まずは俺からだ。俺は寝転んだまま勢いよくスタートする。事前に聞いていた通りかなりスピードが早かったためあっという間に着水した。着水の衝撃でちょっと海パンがズレそうになったのは内緒だ。
続く真里奈も宣言通り寝転んでいたためかなり早いスピードで下まで滑ってきた。
「じゃあ今度は大きい方のスライダーに行きましょう」
「分かったからそんなに強く手を引っ張るな」
まるで子供のようにはしゃぐ真里奈に手を引かれて今度は大きいスライダーへと向かって歩き始める。そして列に並びしばらく二人で雑談をしながら順番を待つ。
「そう言えば才人はもう夏休みの課題には手を付けたのかしら?」
「いや、まだ何もやってない。でもまだ初日だから大丈夫だろ」
「その油断が命取りになるのよ、今年の夏休みは色々と忙しくなるんだから計画的に終わらせなさいよね」
「えっ、それってどういう事だ?」
「あら、言ってなかったっけ? 才人は私に色々と付き合って貰うから」
「えっ、マジで!?」
いやいや、完全に初耳だ。俺の平穏な夏休みは真里奈に潰されてしまうかもしれない。そんな事を思っている間に列はどんどん進み遂に俺達の順番が回ってきた。
先程海パンがズレそうになったため俺は寝転ばず普通に滑ったが、真里奈は相変わらず寝転んで滑るつもりらしい。
先に滑り終えた俺がプールサイドで真里奈が滑ってくる様子を見ていると着水のタイミングでとんでもないハプニングが起こってしまう。
「おいおい、マジか!?」
なんと真里奈が身につけていた赤いビキニの上半身部分がプールに着水した衝撃で運悪く外れてしまったのだ。その上真里奈はその事にまだ気付いていない。
「やっぱりウォータースライダーは楽しいわね」
「何呑気な事言ってんだよ、丸見えだから今すぐ胸を隠せ」
「きゃあぁぁぁぁ!」
俺の言葉を聞いてようやく自分の置かれた状況に気付いた真里奈は顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げて手で胸を隠した。真里奈は完全にパニックになっているらしくビキニを探すどころではなさそうだ。
だから代わりに俺が真里奈のビキニを探し始める。幸いな事にすぐ近くで浮かんでいるのが見つかったためひとまずは一件落着だ。
「全く酷い目に遭ったわ……」
「災難だったな」
「ええ、もうウォータースライダーはしばらく懲り懲りよ」
あんな事があった後で再びウォータースライダーを滑る気にはならないのは当然だろう。
「でも才人のおかげで助かったわ、ありがとう」
「真里奈が素直にお礼を言ってくるなんて明日は雪かな?」
「真夏に雪なんて降るわけないでしょうが。助けてもらったんだから流石の私でもお礼の一つくらい言うわよ、才人の馬鹿」
真里奈はそう言って肘で俺を小突いて来た。どうやらいつもの元気を取り戻したらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今日はハプニングもあったけど、楽しかったわね」
「ああ、でも遊び過ぎて流石に疲れた」
「三時間近く居れば疲れもするわよ」
「そっか、そんなに長い時間経ってたんだな」
ジャグジーやサウナなども含めてプールを満遍なく楽しんだ俺達は水着から服に着替えて外の休憩室でジュースを飲みながらくつろいでいる。
「もう夕方だし、そろそろ帰ろうか」
「もうそんな時間なのね、ちょっと名残惜しいけどそうしましょう」
俺達は荷物をまとめて立ち上がると、施設の出口へ向かって歩き出す。
「やっぱり外はまだかなり明るいな」
「夏だもん、明るいに決まってるわよ」
「ちょっと前まで春だった気がするから本当時間が過ぎるのって早いよな」
「そうね、多分気付いたら三年生になってそうな気がするわ」
「うわ、それはなんか嫌だ」
来年は受験勉強に追われて大変な事が目に見えているため可能であればずっと二年生のままがいい。
「……そう言えば俺達の偽装カップルって関係はいつまで続けるつもりなんだ?」
「どうして急にそんな事を聞いてくるのよ?」
「来年は受験とかで忙しくなるし、再来年は順調に進学出来てれば大学生だろ? 偽装カップルを続ける余裕なんかあるのかと思ってさ」
「この関係を解消する事は特に考えてないわ、今もこれからもずっとね」
「それってどういう意味だよ?」
「それは自分で考えなさい」
そう言ったっきり真里奈は何も教えてくれなかった。
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