第2部
第24話 そう言えば才人には二つくらい貸しがあったわよね
「才人、起きなさい」
「……起こすならせめてもう少し優しくしてくれないか?」
夏休み初日の今日、真里奈から乱暴に叩き起こされた俺はそう文句を言った。
「あら、まだこれでもだいぶ優しい方だけど?」
「いやいや、どれだけバイオレンスなんだよ」
「じゃあ行くわよ、さっさと準備しなさい」
「えっ、どこへだ?」
今日は特に何も約束していなかったはずだが。
「ほら、最近学校の近くに新しいプールが出来たじゃない。今日はそこに行こうと思ってね」
「ああ、東京サマーヒルズか」
東京サマーヒルズはガラス張りのドーム型温水プールだ。ウォータースライダーはもちろん、ジャグジーやリラクゼーションプール、サウナ、レストラン等があるため、一日中楽しめる場所となっている。
「まず私の新しい水着をショッピングモールで買ってから東京サマーヒルズに行って、レストランで昼ごはんを食べてから遊びましょう」
「了解、とりあえず行く準備をするから待っててくれ」
「ええ、早くしなさいよ」
俺はパジャマから着替えてダイニングで朝食をとった後、再び自分の部屋へと戻る。
「お待たせ、準備できたぞ」
「じゃあ行きましょうか」
家を出発した俺達はひとまずショッピングモールへ向かって歩き出す。
「泳ぐのなんて久しぶりだな、うちの学校にはプール無いし」
「私立でお金ありそうなんだからプールくらい作れば良いのにね」
「そこは多分色々と大人の事情があるんだろうけど」
そんな話をしながらしばらく二人で話しながら歩いているうちにショッピングモールへと到着したため、水着が置いてあるスポーツ用品店へと向かう。
夏休みという事もあってショッピングモール内は中高生で溢れかえっていた。多分うちの学校の生徒もたくさんいるはずだ。そんな事を思っているうちにスポーツ用品店の前に着いた。
「じゃあ、俺はこの辺にいるから真里奈は好きな水着を選んでこいよ」
「何言ってるのよ、才人にも一緒に選んでもらうに決まってるじゃない」
女性用の水着置き場に近付く事に抵抗のあった俺だったが、あろうことか真里奈は一緒に選べと言ってきたのだ。
「えっ、マジで!? それはちょっと勘弁して欲しいんだけど……」
「そう言えば才人には二つくらい貸しがあったわよね」
「……うっ」
確かに数学Bのノートを見せてもらった件とお弁当を貰った時にうっかり余計な一言を言った件で真里奈には借りがあった。
「……分かった、その代わり万が一不審者扱いされたら助けてくれよな」
「そんなの当たり前でしょ、彼氏が不審者として捕まったりなんかしたら私まで白い目で見られそうだしね」
俺は渋々真里奈の後に続いて女性用の水着売り場に入っていく。それから真里奈は色々な水着を手に取って見始める。
「ねえ、このリボンビキニとこっちの三角ビキニだったらどっちが似合うかしら?」
「真里奈だったら多分どっちでもよく似合うと思うから早く決めてくれ」
周りからの視線に晒されすぎて色々とキツくなってきた俺は一刻も早くこの場を離れたい一心でそう答えたが、どうやらそれが良くなかったらしい。
「ちょっと、もっと真剣に考えなさいよ。才人がちゃんと選んでくれないならずっとここにいても良いのよ?」
「……おいおい流石にそれは勘弁してくれ」
仕方なくめちゃくちゃ真面目に似合いそうなビキニを考え始める俺だったが、真里奈には色々とこだわりがあるらしく中々首を縦に振ってくれない。
だから無駄に一時間以上も滞在する羽目になってしまった。ちなみに最終的に水着は赤いホルタービキニを選んだ。
レジで会計を済ませた俺達はショッピングモールを後にして東京サマーヒルズへと向かう。ショッピングモールから徒歩五分くらいの距離しかないため本当にすぐだ。
「思ったよりも混んでなさそうだな」
「今日は夏休み初日の学校が多いはずだから混雑してそうと思って避けたのかものね、とりあえずレストランへ行きましょう」
「ああ、そうしよう」
レストランも割と空いていたためすぐに席へと案内される事が出来た。
「何を食べようかしら」
「泳ぐ前だし、あんまりしつこい物は食べたくないよな」
「そうね、あっさりした物が良いわね」
俺達はメニュー表を見て比較的あっさりしてそうなうどんを注文する事にした。
「そう言えば夏休み中オープンキャンパスに一箇所以上は絶対行けって言われてるけど才人はどこの大学に行くつもりで考えてるの?」
「俺は京都の同士社大学に行くつもりだ」
「へー、結構難関なところを狙ってるんだ」
「今の成績だと挑戦校レベルだけど一応第一志望だからな」
理系科目があまり得意では無い俺は国英社の三教科で受験できる私立文系の大学を狙っている。
「同士社大学レベルの私立なら関東にも色々あるけどあえて関西に行こうとしてるのは何か理由があるわけ?」
「生まれてからずっと東京に住んでたから関東の外に出たいと思ったのが一つと、歴史が好きだから京都とか良さそうと思ってさ」
そんな会話をして盛り上がっているうちにうどんが運ばれて来たため俺達は食べ始めた。
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