第20話 そんなに否定されるのもなんかムカつくんだけど
ボウリングを2ゲームした後俺達はフェイズワン内にあるカラオケの受付に来ていた。ボウリングだけでは物足りないという事でカラオケへ行く事にしたのだ。
「時間はどうする?」
「とりあえず二時間くらいでいいんじゃないか?」
「才人に賛成よ、歌い足りなかったら延長も出来ると思うしね」
「うん、私もそれでいいよ」
「オッケー、なら二時間にしようか」
受付の手続きを済ませた俺達は早速ルームへと入室する。中は割と狭かったため四人だと結構窮屈であり、かなり密着して座る事になりそうだ。
「私に密着してるからって変な事をしようとしたら許さないわよ……ま、まあどうしてもって言うなら考えてやってもいいけど」
「いやいや、そんな事するわけないだろ」
後半は何を言っているか聞こえなかったが、俺が真里奈に変な事をする勇気なんてあるはずがない。すると俺の言葉を聞いた真里奈は不機嫌そうな顔になる。
「そんなに否定されるのもなんかムカつくんだけど」
「……俺はどう答えるのが正解だったんだ?」
「そんなの自分で考えなさい」
そう言って真里奈はそっぽを向いてしまった。童貞の俺に女心を理解しろというのはあまりにも難しすぎるのではないだろうか。
「才人と八雲さんの夫婦漫才も終わった事だし、誰から歌うか決めないか?」
「あっ、じゃあ私から歌ってもいい?」
「まだ歌いたい曲とか決まってないし赤城さんからで大丈夫」
「ええ、私もそれで構わないわ」
「よし、それなら風花から時計回りの順番で歌おう」
早速トップバッターの赤城さんがタブレットで曲を予約する。画面に表示された曲名は今流行りのラブソングだった。赤城さんはマイクを握って立ち上がると歌い始める。
「へー、赤城さん良い声してるな」
「だろ、風花の声はマジで癒されるから」
歌の上手さ自体は普通だったが航輝が言うようにとにかく声が良かった。赤城さんが歌い終わった後、今度は航輝がマイクを持って立ち上がる。
航輝は今大人気なドラマの主題歌を歌うつもりらしい。それから航輝は気持ち良さそうに歌い始めるわけだが真里奈は何とも言えない顔になる。
「ねえ才人、相模って……」
「ああ、航輝はめちゃくちゃ歌が下手なんだよ」
「やっぱりそうよね」
音程が全然掴めていなかったりリズム感が全く無いなど、とにかく色々と酷い。横目でちらっと赤城さんの方を見ると平然としているため、彼女は航輝が音痴である事は知っていたのだろう。
「ふぅ、どうだった?」
「うん、相変わらずめちゃくちゃ下手くそだったぞ」
「おい、笑顔でそんなにはっきりと言うなよ。もし俺が鬱になったらどうするんだよ」
「大丈夫だろ、航輝は明らかにメンタル強そうだし」
赤城さんに振られたにも関わらずめげずに何度も告白したのだから鋼のメンタルに違いない。そんなやり取りをした後、今度はいよいよ俺の番が回ってきた。
俺はこの前真里奈と一緒に見た映画であるつばめの鍵閉めの主題歌を歌うつもりだ。
「あら、才人はその曲を歌うのね」
「ああ、この前映画見た時に聞いてから結構好きになってさ」
「ちょうど私も歌いたかったし、一緒に歌いましょう」
「オッケー」
俺は真里奈と一緒に歌い始める。ちょうど男性パートと女性パートに分かれていたため二人で歌いやすい曲だった。
「真里奈ちゃんと霧島君、息ぴったりだったね」
「ああ、まるで本物の夫婦みたいだったぞ」
「私と才人は相性抜群なんだから当然よ」
「真里奈とは何年も幼馴染やってるからな」
赤城さんと航輝の言葉を聞いた真里奈はかなり上機嫌な様子だ。てか、さっきから夫婦漫才とか本物の夫婦に見えるとか好き放題言われているが真里奈はそれでいいのだろうか。
それから俺達は四人で歌い続けてあっという間に二時間が経過した。もしかしたら二時間は長いかもしれないしれないと思っていたが全然そんな事は無かったのだ。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「うん、今日は楽しかったね」
「航輝も赤城さんも普段は部活があるから中々遊べないと思うけど、機会があったら一緒にどこかへ行きたいな」
「そうね、相模はともかく風花と遊ぶのは楽しかったから私も同感よ」
「おいおい、俺はともかくってどういう事だよ」
そんな会話をしながら受付で会計を済ませた俺達はフェイズワンの敷地を出て帰り始める。
「そう言えばもうそろそろ期末テストだよね、真里奈ちゃんは大丈夫そう?」
「私は問題ないわ、隣に物理基礎が赤点ギリギリの才人って馬鹿がいるからそっちの方が心配ね」
「おい、さらっと俺の成績を暴露するなよ」
「でも本当の事でしょ、分かってると思うけどテスト週間は私とみっちり勉強だからね」
「うぇ、勘弁してくれよ」
真里奈がめちゃくちゃスパルタな事は知っているため今から気が重い。
「せいぜい頑張れよ」
「他人事だと思って気軽に言いやがって」
「あっ、航輝君も私と勉強だから。この前の成績を忘れたとは言わせないよ、びしばし行くからね」
「……お手柔らかに頼む」
どうやら俺と航輝はテスト期間中地獄を見る事になりそうだ。
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