第19話 どこかの誰かにも見習って欲しいくらいだわ

 フェイズワンのボウリング場に到着した俺達は受付を済ませた後、専用のシューズに履き替えてレーンに向かう。


「ボウリングなんて最近全然やってなかったからマジで久しぶりなんだけど」


「俺はバスケ部の奴らと練習が終わった後に時々行ってたからそんなに久々って感じはしないな」


「実は私ボウリングってほとんどやった事ないんだよね、真里奈ちゃんは?」


「私も昔何回かやったくらいね」


 そんな話をしながら歩いているうちにレーンへと到着した俺達は荷物をおろしてボウリング玉を選び始める。


「ねえ才人、ボウリング玉の重さってどれくらいがいいのかしら?」


「真里奈は11ポンドくらいでいいと思う」


 ボウリング玉の重さは体重の十分の一くらいが目安である事を思い出した俺はそう答えた。真里奈は身長百六十五センチであり、見た目的に体重は恐らく五十キロ前後だと思うのでそのくらいが適正だろう。

 ちなみに俺は百七十二センチで六十二キロという男子高校生の平均的な体型をしているため14ポンドくらいがちょうど良い。

 それぞれボウリング玉を選び終わった後、レーンに戻りその場で軽く準備運動をする。そしてトップバッターの俺はボウリング球を持ってレーンの前に立つ。


「才人のお手並み拝見ね」


「いきなりガーターに落とすなよ」


「霧島君、ファイトだよ」


 三人に見守られながら一投目を投げる俺だったが、真ん中を狙っていたにも関わらず若干右に逸れてしまったためピンは三本しか倒れなかった。


「全然倒れなかったわね」


「……やっぱり久々にやると上手く行かないな」


「でもまだスペアは狙えるからそんなに落ち込む必要はないぞ」


「うんうん、航輝君の言う通り。最後まで諦めないで」


 航輝と赤城さんから励ましの言葉をかけられた俺は気を取り直して二投目を投げる。今度は狙い通りに転がっていき見事残っていたピンを全て倒す事ができた。


「よっしゃ」


「おっ、やったじゃん」


「才人のくせに中々やるじゃない」


 真里奈と航輝はそう声をかけきたわけだが赤城さんが思いがけない行動に出る。


「霧島君、凄いよ」


「ちょっ!?」


 なんと突然俺の手を掴んで振り回し始めたのだ。


「おいおい、才人が困ってるぞ」


「……あっ、ごめんね。嬉しくなるとついやっちゃうんだよね」


 航輝の言葉で我に返ったらしい赤城さんはそう口にした。なるほど赤城さんにはそういう癖があるらしい。多分何人も勘違いさせられた男子がいるんだろうな。

 そんな事を思っていると真里奈がジトっとした目でこちらを見つめている事に気付く。


「さっき風花に手を握られてデレデレしてたでしょ?」


「い、いやそんな事はないぞ」


「嘘おっしゃい、そんな緩んだ表情をしてたらバレバレよ」


 どうやら真里奈にはバレていたらしい。仕方ないだろ、俺も健全な男子高校生なんだから。


「才人の馬鹿」


「痛っ!?」


 真里奈から手の甲を思いっきりつねられた。割と本気だったようでかなり痛い。


「よっしゃ、ストライクだ……って才人はどうしたんだ?」


「何か痛そうな顔してるね」


「才人にちょっとお灸をすえただけだから相模と風花は別に気にしなくていいわよ」


 俺が真里奈から詰め寄れている間に航輝はストライクを出したらしいがそんな事を気にするような余裕は無かった。


「今度は私の番ね」


「真里奈ちゃんファイト」


 真里奈はボウリング玉を手に持つとレーンに向かって力任せに投げる。さっきの事でまだ不機嫌らしくボールには憎しみがこもっているようにしか見えない。

 力任せなためガーターに落ちると思っていた俺だったが、なんとその予想に反してボウリング玉は真っ直ぐ転がっていき見事ストライクを取ってしまったのだ。


「おいおい、マジかよ!?」


「八雲さん、凄いな」


「真里奈ちゃん、やったね」


「どう? これが私の実力よ」


 真里奈はストライクを取ってすっきりしたらしく笑顔で赤城さんとハグをしていた。とりあえず真里奈の機嫌が直ってくれて俺としては一安心だ。

 それから赤城さんの番になったわけだがボウリング玉のコントロールが上手く行かなかったのか一投目はガーターに落ちてしまった。


「うーん、難しいな。航輝君、何かコツとかある?」


「右端に立って一番ピンと三番ピンの間を狙うといいぞ、その時に狙うところに目線じゃなくて肩を合わせるのがポイントだな」


「ありがとう、それでやってみるね」


 赤城さんは航輝のアドバイスを参考に二投目を投げる。


「あっ、やったよ八本も倒れた」


「良かったじゃん、さっきよりもだいぶ上手くなってるぞ」


 航輝と赤城さんはお互いにハグして喜んでいた。


「へー、相模は愛情表現が豊富ね。どこかの誰かにも見習って欲しいくらいだわ」


「……努力するからそんな目でこっちを見ないでくれ」


「えっ、才人の事とは一言も言ってないけど?」


 そう口にする真里奈だったがさっきの言葉はどう考えても俺に対して向けられたものに違いない。どんどん偽装カップルからかけ離れていっている気がするが真里奈にその自覚はあるのだろうか。

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