第5話 ねえ歩美、私才人を誰にも渡したくない
「これで才人はもう私のものよ」
最初はこんな強引な手段なんて取るつもりは全く無かった。才人から情けない声と表情で告白をしてきて、仕方なく私がオッケーを出して付き合う。
多分こんな感じで私と才人は付き合う事になるとちょっと前までは思っていた。まあ、それは私にとって都合の良い幻想でしか無かったのだが。
「……歩美に思いっきり尻を叩かれてただ告白されるのを待ってるだけじゃ何も変わらないって気づいちゃったから」
思春期特有の恥ずかしさが原因で中学生になったくらいから才人と全く話さなくなってしまった私だったが、歩美とは昔と変わらず交流があった。
だから時々会って才人の情報を聞いていた私だったが、先日歩美からはっきりと言われてしまったのだ。今のままだったら絶対才人と付き合えないと。その時の会話はまるでさっきの事のように思い出せる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつものように学校で歩美から才人の事を聞いていた私だったが、突然彼女は聞き捨てならない言葉を口にした。
「ち、ちょっと歩美。今なんて言ったの?」
「だから今のままだと真里奈さんはお兄ちゃんと絶対付き合えないって言ったんですよ」
私の聞き間違いかと思ったがそうでは無かったようだ。
「どうしてよ、才人は私の事を好きなんだから付き合えないはずないでしょ」
「……私の知り合いにエレンちゃんって子がいるんですけど」
「そ、それがどうしたのよ……?」
突然全く関係ない話を始めた歩美に私は困惑するが、彼女はそのまま話を続ける。
「エレンちゃんには昔から両思いだった幼馴染の男の子がいて、今の真里奈さんと同じように相手から告白してくるのを待ってました。さて、二人はどうなったでしょう?」
「それはその幼馴染の男の子がエレンって子に告白して二人は付き合ったんじゃないの?」
「ぶっぶー、正解はエレンちゃんが何もせずモタモタしていた間に幼馴染の男の子が別の女の子から告白されて付き合い始めたというのが答えでした」
「……えっ!?」
その話は私にとってあまりにも衝撃的だった。
「ち、ちょっと待ちなさい。二人は両思いだったんでしょ? それなのに何で別の女の子と付き合ったりなんかしてるのよ」
「あくまで二人は両思い
「ま、まさか!?」
「そう、エレンちゃんは幼馴染の男の子の事がずっと好きなままだったんですけど残念ながら向こうはそうじゃなかったってだけの話です」
「そ、そんな……」
「ちなみに幼馴染の男の子の気持ちがエレンちゃんから離れていっちゃったのは思春期特有の恥ずかしさとかで疎遠になった事が原因だったみたいですよ。まるで今のお兄ちゃんと真里奈さんみたいですよね」
他人事とは思えない話に私は凄まじいショックを受けている。
「ここまで話せば私が真里奈さんに何を言いたいか分かって貰えたと思います」
「……ええ、つまり今のまま何もしなかったら私もエレンって子と同じ運命をたどるって事よね」
「そうです、お兄ちゃんは何だかんだで意外と女の子から人気があるので。まあ、お兄ちゃん自身は全く気づいていないみたいですけど」
そんな歩美の言葉を聞いた私はつい才人と自分ではない別の女の子が楽しそうに歩いている姿をつい想像してしまった。
すると猛烈な胸の痛みとドス黒い嫉妬の感情が湧き上がってくる。うん駄目だ、こんなのとても耐えられそうにない。もしそんな事になれば私という人間が壊れてしまう。
「ねえ歩美、私才人を誰にも渡したくない」
「じゃあ真里奈さんがこれから何をすれば良いか、もう分かりますよね?」
「ええ、他の誰かに取られて手遅れになる前に私から才人に告白するわ」
そうしなければ私もエレンという子の二の舞になってしまう可能性が非常に高い。それだけは絶対に嫌だった。
「あっ、でもお兄ちゃんって色々と拗らせてるからいきなり付き合えって言っても色々と理由をつけて断ってくるかもしれません」
「うーん、じゃあ最初は彼氏役になれって言った方がいいかしら。それなら首を縦に振ってくれるかもしれないし」
「なるほど、それ良い考えですね。私も真里奈さんに協力するのでそれでいきましょう」
「ありがとう、歩美。絶対才人を私のものにしてみせるから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それから歩美に色々と協力をして貰って無事に才人を
才人はもう私のものだ。絶対他の誰にも渡しはしない。
「とりあえず才人が私のものだってアピールするために明日は教室で付き合い始めた事を宣言しましょう」
きっと大騒ぎになるに違いないが別に構わない。むしろ盛大に騒ぎ立てて学校中に広めてほしいくらいだ。
「想像しただけで明日が楽しみだわ」
とりあえず明日は朝から才人を迎えに行って一緒に登校する事になっているためそろそろ眠る事にしよう。
「おやすみ、才人」
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