第3話 お兄ちゃんが部屋で真里奈さんに変な事しませんでした?

 真里奈と腕を組んでいたせいで激しい視線に晒されながら歩き続ける羽目になったが、ようやく俺の家の前へと到着した。


「じゃあまた明日」


「あっ、歩美と約束したんだけど今日才人の家で一緒に晩御飯を食べる事になってるからよろしく」


「……えっ!?」


「って訳だからお邪魔します」


 唖然とする俺を無視して真里奈は俺の家の中へと入ってしまった。家に帰れば安息が訪れると思っていただけにショックが大きい。てか真里奈と歩美はいつの間にそんな約束してたんだよ。


「この家の中も全然変わって無いわね」


「真里奈が最後に来たのは小学校六年生の時だっけ?」


「ええ、中学受験の勉強を一緒にして記憶があるわ」


「確かに二人でやってたな」


 俺の家だけでなく真里奈の家や図書館などでもよく中学受験の勉強をやっていた。俺よりも優秀だった真里奈から引っ叩かれながら勉強を教えてもらっていた事は今でも記憶に新しい。


「じゃあ才人の部屋に行きましょうか」


「えー、マジで俺の部屋に来る気なのか?」


「彼女なんだからそのくらい普通でしょ」


「いやいや、それは流石に偽装彼女の範囲を超えてないか?」


「細かい事は気にしなくて良いの」


 真里奈はそう言い終わると強引に俺の腕を掴んで部屋へと向かい始める。俺の部屋は昔と変わってないので真里奈の足取りに迷いは無い。


「思ったよりも綺麗ね、もっと汚いのかと思ってたわ」


「どんな部屋を想像してたか知らないけど、俺の部屋はいつもこんな感じだからな」


「ふーん、まあいいわ。とりあえず晩御飯までこの部屋にいるから」


 真里奈は本棚から適当に漫画を数冊取ると俺のベッドに寝転んで読み始めた。めちゃくちゃ無防備な格好をしている真里奈だが俺に襲われる可能性は考えていないのだろうか。

 まあ、真里奈曰く俺は人畜無害らしいのでその辺りは大丈夫と思っているのだろう。俺も手を出す勇気なんてあるわけないし。

 俺はベッドで漫画を読む真里奈を気にしつつ課題を解き始める。明日までのものでは無いが放置すると後々苦しくなる事が目に見えているため早めに終わらせるようにしているのだ。


「そう言えば才人って今の成績はどんな感じなの?」


「文系科目は結構良いけど理系科目がイマイチかな」


「へー、それなら七月にある期末テストは勉強を頑張らないといけないわね」


「ああ、特に物理基礎がマジで苦手だからその辺は重点的にやるつもりだ」


 ゴールデンウィーク明けにあった中間テストでは赤点ギリギリの点数を取ってしまったため、来月の期末テストはガチで勉強しなければまずい。


「物理基礎なら私が教えてあげるわ」


「いや、今は大丈夫だから」


「その課題は明後日までで問題ないから後回しでいいでしょ。ほら、さっさと物理基礎の教科書を開きなさい」


 真里奈からの圧力に耐えられなくなった俺は渋々物理基礎の教科書を開く。そして勉強を教えて貰うわけだが、真里奈は昔と変わらずめちゃくちゃスパルタだ。


「ちょっと、なんでこんな簡単な問題も解けないわけ」


「仕方ないだろ、公式の意味がよく分からないんだから」


「こんなんじゃ次のテストで赤点待った無しよ」


 罵声を浴びせられながら問題を解く俺だったが、真里奈の教え方はなんだかんだで分かりやすかったため勉強自体はかなり捗っている。

 それからしばらく勉強をしているうちにだいぶ時間が経ったようで窓の外が若干暗くなり始めていた。そろそろ晩御飯かなと思っていると扉をノックされる。


「お兄ちゃん、真里奈さん、お待たせ。晩御飯出来たよ」


「この匂いはカレーライスか?」


「うん、流石お兄ちゃん」


「美味しそうな匂いね」


 それぞれそんな事を口にしながらダイニングへと向かう。


「母さんはまだ帰って来てないのか?」


「多分もう少ししたら帰ってくると思うから先に食べてようよ」


「才人のママが帰ってきたら挨拶しなくちゃね」


「真里奈さんが家に来るなんてかなり久しぶりだから多分めちゃくちゃ驚くと思いますよ」


 俺達はダイニングテーブルに着くと早速カレーライスを食べ始める。


「お兄ちゃんが部屋で真里奈さんに変な事しませんでした?」


「残念ながら歩美が心配するような事は何もなかったわ」


「そっか……お兄ちゃんのヘタレ」


「いやいや、何で俺が責められてるんだよ」


 本物のカップルならともかく、偽装カップルの俺達がそういう行為に及ぶのは正直問題しかないだろう。

 三人でそんな会話をしていると玄関の方から物音が聞こえてきた。多分母さんが仕事から帰ってきたに違いない。


「ただいま……って、ひょっとして真里奈ちゃん!?」


「ご無沙汰してます」


 ダイニングにやって来た母さんは真里奈を見た瞬間、手に持っていた荷物を床に落として驚いた。まあ、疎遠になってもう二度とこの家に来る事がないと思っていたに違いない真里奈がいれば驚くのも無理はない。


「うん、久しぶりね……また急にどうして家に来てくれたの?」


「実は才人と付き合い始めたんですよ」


「えっ、そうなの!?」


 俺は慌てて彼氏のふりをしていると訂正しようとしたが、母さんと真里奈が盛り上がり始めたせいでとても言い出せるような雰囲気では無くなってしまった。

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