第2話 私の彼氏役になりたいかどうか、”はい”か”YES”のどちらか二択で答えて貰おうかしら

「ど、どういう事だよ。真里奈が一体何を言ってるのか全然分からないんだけど」


「そんなに慌てふためかなくてもちゃんと説明してあげるわ」


 真里奈は俺のリアクションを見て相変わらずニヤニヤしていた。


「……それで俺が彼氏になるって一体どういう事だよ?」


「ちょっと言葉足らずだったわね、私の彼氏役って言った方が正確かしら」


「彼氏役……?」


「ええそうよ、ほら私って凄く美人でモテるじゃない? だからめちゃくちゃうっとおしい事に男子達から四六時中告白ばっかりされるのよね」


 よく自分でそんな事を堂々と言えるなとは思うが、真里奈がそれを言えるだけ告白をされてきているのは事実だ。


「そこで賢い私は考えたわけ、それなら偽装彼氏を作れば全部解決するってね。でも変な奴を彼氏役にしても調子に乗りそうでしょ、なら人畜無害そうな奴を選べば良いやって事で才人に白羽の矢が立ったわけよ」


 なるほど、真里奈の考えはよく分かった。だが彼氏役を引き受けるとなると様々な面倒事が予想されるため正直辞退したい。


「ちなみに俺に拒否権とかってのは?」


「ひょっとしてまさか才人はこの私がせっかく彼氏役に選んであげるって言ってるのに拒否したいとか思ってるわけ?」


「い、いやそんな事はないけど……」


 真里奈に威圧された俺は言いたい事が言えなくなってしまう。クラスでは割とお淑やかに振る舞っている真里奈だが、実際の中身は子供の頃のガキ大将気質な時と全く変わってない。


「まあでも一方的って言うのはいくら何でもちょっと可哀想よね、だから才人には特別に選択肢をあげるわ。私の彼氏役になりたいかどうか、”はい”か”YES”のどちらか二択で答えて貰おうかしら」


「いやいや、それだと実質一択しかないだろ」


 “はい”と”いいえ”か”YES”と”NO”ならまだ分かる。だが”はい”と”YES”ならどちらも同じ意味なため選ばせる気がないとしか思えない。だが真里奈はそんな俺を無視して話し始める。


「私と付き合いなさい、5……4……3……2……」


「わ、分かった。YESだから」


 カウントダウンをされて選択を急かされた俺はYESと答えた。


「言質はしっかり取らせて貰ったわ、これからよろしく」


「……ああ」


 満面の笑みを浮かべている真里奈に対して俺は疲れ切ったような表情になっているに違いない。


「じゃあこれでもう用は済んだよな、俺は帰るから」


「あっ、ちょっと待ちなさい」


 屋上から出ようとしていた俺は真里奈からブレザーの後ろ襟を掴まれて強引に静止させられる。


「な、なんだよ。まだ何か用があるのか?」


「彼氏彼女になったんだから一緒に帰るのが普通でしょ」


「あくまで恋人のフリをしてるだけなんだからそこまでする必要は無くないか?」


「何言ってるの、下校中に告白される可能性だってあるのよ。私の彼氏になったんだからしっかり守りなさいよね」


 そう言い終わるや否や真里奈は腕を組んできた。当然拒否なんてできるはずが無かった俺はそのまま靴箱へと向かい始める。


「おい、見ろよ。八雲さんが男子と腕を組んで歩いてるぞ」


「えっ、あいつはどこの誰だ?」


「もしかして彼氏?」


「まさか、あんな地味そうな奴が彼氏とかないだろ」


「だよな、でもじゃあ何で八雲さんと腕を組んでるんだ?」


 廊下を歩いているとそんな声があちらこちらから聞こえてきた。今は放課後で人がだいぶ少なくなっているからまだマシだが、明日からの事を考えると本当に憂鬱だ。それから靴箱に到着すると歩美がこちらに駆け寄ってきた。


「歩美、お待たせ」


「あっ、真里奈さん待ってましたよ。その様子だと上手くいったんですね」


「おい、ちょっと待て。待ってたとか上手くいったっていうのは一体どういう事だよ!?」


 なぜ歩美はそんな事を知っているのか。いや、ここまで来ればもう答えは一つしかないだろう。


「……ひょっとしてまさかとは思うけど二人はグルだったのか?」


「人聞き悪いな、ほんの少しだけ真里奈さんに協力しただけだよ」


「ええ、才人が手紙を無視してそのまま帰らないように足止めをお願いしただけよ」


 なるほど、それで歩美はわざわざ高等部の校舎まで来ていたのか。


「じゃあお兄ちゃんと真里奈さんのカップル成立を無事に見届けた事だし、私は先に帰るね」


「えっ、俺達と一緒に帰らないのか? てか、むしろ一緒に帰って欲しい」


「付き合いたてほやほやの二人を邪魔するほど私も野暮じゃないから」


 歩美はニヤニヤしながらそう口にして俺達の前から去って行った。いやいや、あくまで偽装彼氏であって本当に付き合ってるわけじゃないからな。


「じゃあ私達も帰るわよ」


「ちなみに腕を組んだままか?」


「勿論よ、もしかして才人は何か不満があるのかしら?」


「……いや、何も無いぞ」


 真里奈に文句なんて言えるわけが無い。だから俺達は腕を組んだまま下校をする羽目になった。当然通学路は俺達の学校の生徒がたくさんいるため注目を死ぬほど集めた事は言うまでも無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る