第16話

☆☆☆


やっぱり大人に相談してもダメだった。



解決してくれる所か信じてもくれなかった。



あやうくいじめられっ子として認識されるところだった海斗は、教室に戻ってから大きく息を吐き出した。



「やっぱり俺たち2人だけでどうにかするしかないんだって」



健に言われてうつむく。



担任に相談しても無理なら、もっと他の先生に相談してみるしかない。



だけど結果は目に見えていた。



きっとさっきの担任と同じようなことを言われて、海斗のことを心配して終わりだ。



それならもっと自分たちのことを信じてくれそうな人に相談しようか。



そう思ってみても、学校内にいる大人は後事務員さんとは保健室の先生だけだ。



いくら考えてみても適任だと思える人物は浮かんでこなかった。



「2人共難しい顔してどうしたの?」



不意に声をかけられて視線を向けると、そこにはメガネ女子がいた。



いつもメガネ女子と心の中で呼んでいるから、名字は覚えていない。



「ちょっと、色々あるんだよ」



海斗は適当にやり過ごすつもりで突っぱねる。



しかしメガネ女子は引かなかった。



「なにかあったのなら、私相談に乗るよ?」



「別にいいって」



メガネ女子に相談したところで解決するような問題じゃない。



巻き込んでしまうことで危険が及ぶことだってある。



「なによ、私が女子だからそうやって突っぱねてるの?」



頬を膨らませて文句を言う。



あぁ、めんどくさいな。



そんな気持ちがつい顔に出ていたようで、メガネ女子の表情が曇った。



「最近2人カッコイイよね。色々問題を発見して解決してさ。この前下級生の子が倉庫に閉じ込められたのだって、よく見つけてあげられたよね」



そう言われて海斗と健は目を見交わせた。



もしかしてなにか感づいているのではないかと思ったのだ。



「あんなのただの偶然だよ。倉庫の前を通ったら声が聞こえてきたんだ」



海斗の説明に、それでもメガネ女子は納得してない様子だ。



「下級生しか使わない倉庫の前を偶然通ったの?」



「あ、あぁ」



海斗の背中に冷や汗が流れていく。



この学校は生徒数が多いので、倉庫はあちこちに存在している。



その大半が使われなくなったものを置いておく倉庫なのだが、下級生を助けた倉庫は下級生用のボールや縄跳びを保管してある場所だった。



上級生たちはまず立ち寄らない場所だ。



「とにかく、なんでもないから」



これ以上話をしているとボロが出てしまう。



そう感じた海斗はそそくさとその場を去ったのだった。





それからは特に何事もなく時間だけが過ぎていった。



担任が言ったように学校付近にハトの姿は見られない。



放課後大きな事故が起こるなんて嘘じゃないかと思うくらいに、いつもどおりだった。



「あ」



窓際に立つメガネ女子が小さくつぶやいたのは昼休憩の時間だった。



海斗と健は偶然その横を通りかかった。



「なに?」



窓の外を眺めて小さくつぶやいたのが気になって、海斗は足を止めた。



「あれ見て」



そう言われて2人して窓の外を確認する。



遠くを見れば町並みを見渡すことができて、近くへ視線を落とせばグラウンドの様子を見ることができる。



メガネ女子が言っていたアレとはグランドの様子を指しているようで、海斗は首をかしげてそれを見つめた。



グラウンドの中央付近に複数の生徒たちが集まってきているのだ。



なにかを取り囲んでいるようにも見えるが、それがなんなのか生徒たちの体に阻まれて確認することができない。



「なにやってんだあれ」



健の言葉にメガネ女子が「ハト」と短く答えた。



「え!?」



海斗と健の声がかぶさる。



それに驚いてメガネ女子がメガネの奥で目を丸くした。



「ハトがいたみたいだよ? それでみんな給食のパンをあげてるみたい。でもそれがどうしたの? そんなに驚くこと?」



学校内に動物が入り込むことはよくある。



フェンスで囲まれているグラウンドでも、編みの隙間をかいくぐったり土を掘ったりして入ってくるのだ。



今回は空を飛ぶことができるハトだから、侵入するのは簡単だったろう。



だけど2人にとって侵入経路などは問題ではなかった。



問題なのはハトが学校付近まで来ているということだった。



「行こう」



「あぁ」



2人は頷きあい、グラウンドへと走る。



メガネ女子が後ろから「どうしたの!?」と声をかけてきたけれど、誰も返事はしなかった。

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