第14話

「2人とも家を出る時間が遅いんだ。ゴミ捨ては回収の前日の夕方には済ませてあるから、いつも一番最初に家を出るのは俺になる」



「そっか。だから今まで両親に気が付かれることもなかったんんだな」



海斗は頷いた。



実はそこのところは海斗自身気になっていたところでもある。



もしもギフトに気が付いたのが父親や母親だったとしたら?



きっと2人共なにかのイラガラセかイタズラだと思って相手にしないはずだ。



実際、海斗自身も最初はイタズラだと思っていた。



「書いている内容は小学校で起こることばかりだし、俺たち家族が家を出るタイミングを知ってるようにも思えるよな」



海斗がそう言うと、健がパンッとひとつ手を打った。



「ってことはギフトを持ってきている未来人は海斗の可能性が高いな」



海斗は目を見開いて自分を指差した。



「俺?」



「あぁ。考えてみれば当然だよな。海斗自身が送ってきているとすれば、小学生の海斗が問題を解決してくれることもわかってるしな」



確かに、効率がいい話しだ。



だけど未来の自分なんて想像もつかない。



そもそも自分たちが生きている間にタイムトラベルができているようになるのかも疑問だ。



「とにかく、少し仮眠しようぜ」



時刻はまだ8時半だ。



普段でも10時くらいまでは起きているけれど、今日は夜中に起き出してギフトの送り主を見張るために随分と早く寝ないといけない。



2人は夜中の3時に起きれるように時計のタイマーをセットして、電気を消したのだった。


☆☆☆


ピピピッピピピッ。



ピピピッピピピッ。



ピピピッピピピッ。



聞き慣れたタイマー音に薄めを開けて手を伸ばした海斗だが、途中で音が消えた。



自分は消してないのにどうして?



そう思ったとき体を揺らされて意識が覚醒していく。



「おい海斗起きろ」



小声の健の声に完全に目が覚めた。



そうだった、今日は健が泊まりに来ているのだ。



そしてその理由もすぐに思い出す。



今日のギフトの送り主を見張るために、こうして健が泊まりにきたのだ。



ようやく目が覚めた海斗はリモコンで電気を付けて大きくアクビをした。



昨日早めに寝ているものの、起きる時間が早いとその分眠くなってしまう。



「できるだけ黒い服に着替えろよ」



「あぁ」



ギフトの送り主にこちらの姿を見られないようにするためだ。



健は黒いスウェットを寝間着代わりに持ってきていたから、そのままの格好で外へでるらしい。



今から両親が沖合してくる朝6時まで外の茂みの中で見張りをする予定だ。



2人は昨日のうちに用意しておいたペットボトルのお茶と小さめのライトを手に玄関を出た。



外はまだ真っ暗で、空には星がまたたいている。



夏と言えど夜は涼しくて、茂みの中に隠れていても暑苦しくない。



「未来人を見てどうするつもりだ?」



海斗が聞くと健は「追いかけるに決まってるだろ」と、即答した。



「追いかけるだって?」



「あぁ。その先になにがあるか見てみたいだろ? 宇宙船とか、俺たちには見えない家とか、あるかもしれねぇじゃん」



健の声はウキウキしていて、これは途中で止めてもダメだと感じた。



健の好奇心は完全に未来人へ向かっていて、それが危ないことかもしれないとは少しも考えていないみたいだ。



時々海斗が「殺されるかも」とか「誘拐されるかも」と言っても健は取り合わない。



仕方なく黙って健に付き合うことにした。



できれば今日はギフトが届きませんようにとの願いも虚しく、待ち始めて2時間ほど経過したとき、足跡が聞こえきた。



2人は目を見交わせて茂みの中から外の様子を確認する。



コツコツと聞こえてくるそれは革靴のようで、やがて茂みの狭い視界の中でも黒いスーツを着た男が玄関に近づいてくるのが見えた。



郵便配達員か。



海斗はまだ信じられない気持ちでそう考えたけれど、男の姿はどう見ても郵便配達員ではなかった。



黒スーツ革靴で配達している人なんてみたことがない。



男は玄関先で立ち止まると手に持っていたなにかを地面に置いた。



それは今まで海斗が何度も見てきた黒い箱で間違いがなかった。



未来人だ!!



思わず叫んでしまいそうになり、慌てて両手で自分の口を塞いだ。



未来人は深く帽子をかぶっていて、顔を確認することはできなかった。



箱を置いた未来人はそのまま玄関に背中を向けて歩き出す。



またコツコツと革靴の音が聞こえてきて海斗はようやく大きく息を吐き出した。



口を塞いだ時に思わず呼吸まで止めてしまっていたのだ。



今更ながら心臓がバクバク早鐘をうちはじめて、全身に汗が浮かんでくる。



「行くぞ」



まだ呼吸が整っていない海斗を連れて健が茂みから飛び出した。



男が向かった大通りへと出ると、その姿が月の光によって浮かび上がっていた。



暗闇に溶け込まない男のスーツは確かに未来的に見えた。



2人は電信柱の影やゴミ捨て場の影に身を隠しながら男を尾行した。



2人の下手な尾行でも気が付かれなかったのは、男と十分に距離があったからだろう。



やがて男は大きな屋敷の前で足を止めた。



スーツのポケットからカードキーを取り出して玄関を開け、中に入っていく。



「ここが未来人のアジトか!」



健が興奮した様子で言うので「そんなわけないだろ」と、突っ込んだ。



この屋敷は海斗たちが生まれる前からここに建っている。



しかし誰の家かは知らなかった。



海斗は周囲に誰も居ないことを確認してから、そっと門まで近づいた。



そこには大理石に秋吉という名字が刻まれていた。



秋吉。



海斗はその名前を自分の胸に刻み込む。



いつもいつも玄関先に暗黒ギフトを置いていく人間は、秋吉という名字をしているらしい。



そしておそらく未来人ではない。



それだけわかれば今日はもう十分だった。



2人は今さっき届いたばかりのギフトを確認するため、家へと急いだのだった。





こっそり戻ってきた2人は海斗の部屋でギフトの箱を開けていた。



中には今までと同じ様に予言が書かれた手紙が入っている。



「ハトがトラックにぶつかり、事故を起こす」



海斗は予言を読み上げて、あの黒い男の姿を思い出していた。



「時間は放課後、しかも場所は通学路かよ」



健が横から手紙を覗き見して、しかめっ面を浮かべた。



放課後の帰宅時間にトラック事故。



それだけで思い浮かんでくるのは生徒たちが犠牲になる大きな事故だ。



「これ、本当に起こるのかな?」



海斗の言葉に健は「起こるに決まってるだろ。今までだってそうだったんだから」


と言った。



確かにそうだった。



この箱に入れられた手紙の内容はすべて現実になってきた。



だけど今回書かれていることは、今までとは比べ物にならないくらいに規模が大きいと感じられたのだ。



下手をすれば死者がでてしまうかもしれない。

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