第13話
けれど結局返事をしそびれてしまったことに気が付いたのは、随分経過してからだった。
せっかく憧れている男子生徒に話しかけてもらったのに、うまく返事をすることができなかった。
少し落ち込んだ毎日を送っていたとき、再びチャンスが訪れたのだ。
ある日の放課後掃除当番で学校に残っていると、大田と秋田の2人が雑巾を片手に廊下へ出てきたのだ。
2人共掃除当番で、しかも飯田くんと同じ廊下掃除担当だったのだ。
廊下に出てきた2人と視線がぶつかり、飯田くんは慌てて笑顔を浮かべた。
『2人も掃除当番なんだね』
嬉しい気持ちを押さえて質問する。
すると2人は目を見交わせて『そうだよ。そっか、飯田くんも当番?』と、聞いてきた。
『うん。そうなんだ』
憧れの2人と会話していることが嬉しくて、頬がにやけてしまう。
このまま仲良くなることだってできるかもしれないのだ。
飯田くんにとってはまたとないチャンスだった。
でも……。
『それなら、俺たちの分まで掃除しておいてよ』
大田がそう言って飯田くんに雑巾を押し付けたのだ。
『俺も』
飯田くんが返事をする前に秋田の雑巾まで押し付けられる。
『え、でもっ』
咄嗟に拒否しようとしたけれど、2人はさっさと隣の教室に戻っていってしまったのだ。
飯田くんは呆然としてしばらくその場を動くことができなかった。
どうしてこんなことをするんだろうと考えたとき、初めて会話した日のことを思い出した。
あの時飯田くんはちゃんと返事をすることができなかった。
それで2人は無視されたと勘違いしたんだ。
そうとわかれば今すぐ誤解を解かないと。
急いで隣のクラスヘ向かった飯田くんだったが、そこにはすでに2人の姿はなかったのだった。
☆☆☆
それからだ。
大田と秋田が飯田くんをイジメるようになったのは。
当時のことを思い出して飯田くんはきつく下唇を噛み締めた。
「僕は本当に2人が憧れだったんだ」
当時無視されたのが誤解だったと知った大田と秋田は目を見開いて驚いていている。
「だから、本当は僕は、2人と友達になりたいと思ってるんだ!」
拳を握りしめて叫ぶ。
そんな飯田くんを見て健と海斗は目配せをした。
飯田くんが今まで言えなかったことを2人に伝えることができた。
あとはきっとうまく行くだろう。
大田も秋田も根はいいやつだし、健に負かされた経験から自分たちの行動を改めるはずだ。
2人はそう確信して、そっとその場を離れたのだった。
飯田くんたち3人はちゃんと仲直りができたようで、翌日からはしょっちゅう3人で笑い合っている姿を学校内で見ることになった。
「深谷くん、西村くん、本当にありがとう」
飯田くんは2人に手作りのクッキーを持ってきてくれた。
口の中に入れてみたらほどよい甘さで、サクッと軽い歯ごたえがする。
「こんなのが作れるなんてすげーじゃん!」
2人とも素直に関心して、持ってきてくれたクッキーはあっという間に平らげてしまった。
飯田くんは照れ笑いを浮かべて、将来は男らしいパティシエになるのだと教えてくれた。
それからも海斗の家に暗黒ギフトは届き続けた。
クラスの集金袋がなくなる。
1年生があやまって倉庫に閉じ込められてしまう。
など、2人でどんどん解決していき、その度に英雄扱いを受けた。
お褒められることは嬉しかったし、人助けすると気持ちが良かった。
けれど2人の間にはギフトを受け取るたびに考えることができていた。
「ギフトの送り主って誰なんだろうな」
今日は給食に混入していた異物を発見した。
「さぁ……」
ここ最近2人が考えていることはギフトの送り主のことだった。
自分たちが問題を解決することで、2人のクラス内人気は爆発的に上がっている。
時にはクラスも学年も越えて声をかけられたりもするようになった。
ではどうしてギフトを送ってくる人間は、自分で解決しようとしないのか?
未来を予言することができるのなら、自分で問題を解決することもできるはずだ。
そうすればギフトを送ってくる本人が英雄になることができる。
「ギフトの贈り主は本当に未来人だから、姿を見せることができないとか?」
健の言葉に海斗は頷いた。
「それが一番現実的なんじゃないかな?」
未来人なんて非現実的なものを現実的と言うには少し抵抗があったけれど、一番無理なく考えられることだった。
ギフトと送ってくる本人が動けない理由として、ふさわしいと思う。
「今度、どんな未来人がギフトを持ってくるのか見てやらないか?」
「え?」
今までそんなことを考えたことは1度もなかった海斗は驚いて健を見た。
健は真剣で、本気で言っているのだということがわかった。
「でも、どうやって?」
「いつもお前の家に届くんだから見張っていればくるはずだろ」
「そうだけど……」
もしも姿を見られた未来人が現代にいられなくなったら?
姿を見た人間を始末しないといけないとしたら?
様々な妄想が頭の中で繰り広げられる。
なにせ相手は未知の世界の人間だ。
自分たちの予想もつかないようなルールの中で生きている可能性がある。
様々な憶測を説明してみても、健の考えが揺らぐことはなかった。
絶対に、なにがなんでもギフトの送り主をその目で確認してみたいのだと言う。
「わかった。じゃあ、どうする?」
しばらく粘ってみたものの、最終的には海斗が折れる形になってしまった。
健は目を輝かせて「今日、お前の家に泊まりに行く」と、即答した。
ギフトが届くのは海斗の家だから、そう言われると思っていた。
「わかった。じゃあ両親に確認して、それからお前の家に連絡を入れるから」
スマホを持っていない海斗は健にそう告げた。
「おう! 楽しみだなぁ!」
☆☆☆
健ほど乗り気でない海斗はできればお泊りを反対されたかった。
明日も学校だからダメだと言ってほしかった。
しかし帰宅したときの母親の様子はやけにご機嫌で、今日これから健が泊まりに来ても良いかという質問に二つ返事でOKが出てしまった。
「お母さん、なにかいいことでもあった?」
「これよこれ、アプリのプレゼント応募で当たったのよ!」
そう言って見せられたのは高級食器セットだった。
海斗でも見たことのあるブランドもので、カップひとつで2~3万はする商品だ。
そんなものがセットで当選したのだから、機嫌がいいのも頷けた。
海斗は仕方なく健に泊まれることを連絡して、それから先はいつもと変わらないように過ごした。
健が止まりに来るからといってはしゃぎすぎていたら、怪しまれてしまう。
「いつも何時頃に届くんだ?」
夕飯もお風呂も終えて、後は寝るだけの状態で健と海斗は海斗の部屋にいた。
ベッドの下にスペースを開けて布団を敷いてある。
「わからない。俺が出かける時にはもう置いてあるんだ」
「お父さんもお母さんも気が付かないのか?」
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