第8話
更に手紙を読み進めていくと、今日の放課後、本屋さんで起こることがわかった。
「本屋って、柿木書店のことかな?」
健は学校から一番近い本屋の名前を口にした。
この辺で本屋と言われて真っ先に思い浮かぶのは柿木書店だ。
店舗は小さめだけれど、学校が近いせいか品揃えは悪くない。
海斗も月に1度や2度は行く場所だった。
「放課後4時過ぎって書いてあるから、きっと柿木書店のことだと思う」
他の本屋は放課後ちょっと立ち寄るには遠い場所にある。
「よし、じゃあ今日は学校が終わったらそっこーで柿木書店だな」
健の言葉に海斗は大きく頷いたのだった。
☆☆☆
健も海斗もやる気まんまんだった。
昨日は女子生徒をケガから救うことができたのだ。
そのおかげでやはり未来を変えることができると判明した。
それなら今回だって大丈夫。
「でもさ、万引を止めることなんてできるのかな?」
休憩時間、ふいに海斗はつぶやいた。
その表情はどこか不安そうだ。
「なんだよ、今さら怖気づいたのか?」
「そうじゃないけどさ」
健の言葉にムッとして返す。
「ただ、万引するようなヤツてきっと、人に注意されたりしてもなにも感じないんじゃないかと思ってさ」
「あぁ~なるほど。要はどんなヤツが相手かわからないから怖いんだな?」
図星をつかれて海斗は面白くなさそうに頷いた。
だって、人のものを盗むヤツなんてまともじゃないに決まっている。
「大丈夫だって、だって今回は自分のクラスメートだってわかってんじゃん!」
健はそう言って海斗の背中をバンバン叩く。
クラスメートの中にも声をかけづらい連中はいる。
メガネ女子なんかは特にそうだったけれど、昨日からなんだか物腰が柔らかくなった気がしていて余計に話し辛くなっていた。
「俺も一緒にいるんだし、大丈夫だって!」
「あぁ、そうだな」
何度も背中を叩かれて痛くなってきたので、海斗は渋々頷いたのだった。
☆☆☆
けれど、本当に万引をするヤツなんているんだろうか?
海斗は休憩時間中クラス内を見回してため息を吐き出した。
今は数人の女子たちが教室後方に集まってあやとりをして遊んでいる。
男子はみんなバラバラで本を読んでいたり、黒板にラクガキをしてたりと、好きなことをしていた。
万引なんてするヤツがこのクラス内にいるとは思えない。
人は見かけによらないなんて言うくらいだから、自分に見る目がないのかもしれないけれど。
放課後を待たずに犯人を見つけることができれば、その時点で止めることができると淡い期待を抱いていたが、それは無理そうだった。
結局それらしいクラスメートを見つけることができないまま、放課後が来ていた。
クラスの半分の生徒が残って教室や廊下の掃除を始める。
残り半数はすぐに帰宅することができるようになっていた。
「よし、じゃあ行くか!」
健も海斗も今日は幸い掃除当番にはなっていなかったので、すぐに帰ることができた。
2人で並んで教室を出ようとしたとき「海斗くん!」と、後ろから声をかけられた。
振り向くと片手に雑巾を持ったメガネ女子が立っていた。
どうやらメガネ女子は今日掃除当番らしい。
一瞬、自分も今日掃除当番で、忘れていたから注意されるのだと身構えた。
けれどメガネ女子は頬を赤くして「さよなら、また明日ね」と、海斗へ向けて手を振っただけだった。
「あ、あぁ」
海斗は曖昧に返事をして片手を上げる。
挨拶のためだけに呼び止めたのか?
首をかしげながら教室を出た時、健に脇腹を突かれた。
「お前、やるじゃん」
「は? なにが?」
瞬きを繰り返して聞き返す海斗に健ははぁ~と大げさなため息を吐き出す。
「お前にはまだ早いよなぁ」
「だから、なにがだよ」
さっきから健がなにを言っているのかわからなくて少しイライラしてくる。
昨日からメガネ女子の様子もなんだか変だし、どうしたんだ?
イライラとして気持ちが行動にも出てしまい、少し多またで廊下を歩く。
その時廊下の隅に置かれていたバケツにぶつかってしまった。
バケツが大きく揺れて倒れてしまいそうに鳴り、その寸前で手が伸びてきてバケツを支えた。
バケツを支えた手を視線で追いかけていくと。そこにはクラスメートの飯田くんがいた。
右手に雑巾を持っていて、窓拭きをしていたみたいだ。
「ごめん、飯田くん」
「いや、大丈夫だよ。こぼれなくてよかった」
飯田くんはホッとしたほうに微笑んで答えた。
飯田くんはクラスの中でもおとなしい生徒で、休憩時間にはいつも好きな本を読んでいた。
「飯田くん、今日は掃除当番なんだね」
せっかく立ち止まったのだからと思い、少し会話を広げてみた。
すると飯田くんは一瞬暗い表情を浮かべて、すぐに笑顔を浮かべる。
一瞬見せた暗い顔は見間違いじゃないかと思い、海斗は瞬きをした。
「うん。そうなんだ。深谷くん、気を付けて帰ってね」
「あぁ。ありがとう。じゃあ、また明日」
海斗はほんの少しの違和感を残して、その場を後にしたのだった。
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