第7話

☆☆☆


海斗がカナエちゃんを助けたというニュースは昼休憩の間にあっという間に学校内に知れ渡ることになった。



目撃者多数、学年主任から直々のお礼などもあって海斗は英雄扱いだ。



だけどこれは健がいてこそ成し遂げられたものだった。



「健が下にいてくれたから安心できました」



海斗がそう説明をすると、健も同じように褒められて2人して頬を赤く染めることになった。



「結構いいところあるんだね」



メガネ女子はなぜかもじもじとしながら海斗にそう言った。



どうして褒められていない彼女が赤い顔をしていたのかわからないけれど、とにかく昼間の誤解は解けたようで良かった。



帰りのホームルームでは担任の先生に呼ばれて健と2人で教卓の前に立った。



担任は2人を褒めそやし、2人のように勇気ある人間になるようにクラスメートたちに伝えていた。



「すげーな。俺たち英雄だ」



2人で肩をながらべて帰宅していると、健は夢心地の様子でつぶやいた。



「あぁ、本当だな」



海斗も同じような状態で、今もまだ夢を見ている気分だった。



昼休みの時にはぼーっとしていると怒られたけれど、カナエちゃんを助けて本当によかった。



「これで大人たちは俺達のことを見直すんじゃないか?」



そう言われて、海斗は両親に嘘つき呼ばわりされたことを思い出してしまった。



あの時もう二度と大人には頼らないと決めたのだ。



「たぶんな。でも大人に相談するのはやめとこう」



海斗は昨日の夜の出来事を説明して聞かせた



健はさも深刻な話だという様子で何度も頷きながら話を聞いてくれた。



「大人はいつだってそうだよ。自分たちに理解できないことがおきたら、子供の嘘だって決めつける」



海斗は大きく頷いた。



思い返してみれば今までだって似たようなことがあったかもしれない。



子供の話をきかずに頭から否定する。



「暗黒ギフトは俺たちだけの秘密だ。絶対に誰にも言わないことにしよう」



ふと思いついたように健が言った。



「暗黒ギフトって、あの箱のことか?」



「あぁ。アニメに出てくるのは暗黒レター。こっちは箱で届くからギフトだ」



安直だと思ったけれど、悪くない。



海斗は口の中で暗黒フギトとつぶやいた。


なんだか少しかっこいいかもしれない。



「わかった。暗黒ギフトは俺たちだけの秘密だ。ギフトが届いて未来からの手紙が入っていたら俺たち2人だけで解決する」



そう言うと健は満足そうに微笑んだ。



「約束だぞ」



「もちろん」



そして2人は拳をぶつけ合ったのだった。




「どうしてた海斗、ずっとニヤニヤして」



夕飯時、ポテトサラダを口に入れたところで父親からそう聞かれた。



海斗は「別に、なにもないよ」と返事をするけれどニヤケ顔が止まらないのが自分でもよくわかった。



今日の帰り道大人には秘密のものができた。



それがくすぐったくて、嬉しかったのだ。



今までだって秘密基地を作ったり、大人には内緒の話をしたりもした。



だけど今回はそんなものじゃない。



もっと大きなことを隠しているのだ。



「今日は海斗すごかったのよね。先生から連絡もらって、お母さんびっくりしちゃった」



母親は海斗がニヤけている理由を女子生徒を助けたことが原因だと思っているようだ。



「へぇ、なにがすごかったんだ?」



父親に聞かれて、海斗は昼休憩のでの出来事を説明した。



すると父親の顔はみるみる明るくなっていき「すごいじゃないか!」と箸を置いてまで絶賛してくれた。



海斗は少し恥ずかしくなってうつむき「別に、そこまでじゃないよ」と、小声で返事をした。



「いや、人を助けるなんて大したもんだよ。海斗がいなかったらその子はケガをしていたかもしれないんだからな」



「俺だけじゃないよ、健も一緒に助けたから」



説明すると父親は嬉しそうな表情でうんうんと何度も頷いた。



「いい友達もいるし、本当に良かったな」



なにが良かったのか海斗にはイマイチ理解できなかったけれど、とにかく嬉しそうな両親に合わせて微笑んでおいたのだった。


☆☆☆


そして翌日。

昨日と同じくらいの時間に家を出るとそこにはすでに暗黒ギフトが置かれていた。



玄関先にあるそれを見た瞬間ドクンッと心臓が大きく跳ねる。



今日もまた誰かが自分たちの助けを求めているかもしれないと思うと、妙な使命感を覚えた。



学校まで向かう班でも自然と歩調が早まって、また一番前を歩いてしまった。



グラウンドを確認しながら昇降口へと向かう。



今日はサッカーをしている友人らの姿はなかった。



しかし、昇降口まで行くとそこで健は待っていた。



「おはよう」



「あぁ」



健に挨拶するより先に簡単に目配せをしていた。



2人で上履きに履き替えて、教室へは行かずにひと気のない廊下の隅へと移動していく。



「今日も来たのか?」



その質問に海斗は頷いた。



そしてランドセルの中から黒い箱を取り出す。



「まじか。毎日届くんだな」



健が高揚した声で言う。



今のところ健が言うように毎日玄関先に置かれているけれど、間隔が開くときもあるのかもしれない。



そのへんはまだよくわからないことだった。



「さっそく開けてみよう」



健に促されて海斗は箱を開けた。



中には今までと同じように手紙が1枚入っている。



海斗は少し深呼吸をしてから、手紙を開いた。



一番上に一番大きな文字で書かれている文章へ視線を向ける。



『あなたのクラスメートが万引をする』



その文字に一瞬呼吸が止まった。



万引は悪いことだということはすでにわかっていた。



人のものを盗むのは犯罪だ。



そしてそれを自分のクラスメートがするというのだ。



「万引って、まじか……」



健も少し引いているようでその表情は硬い。

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