第5話
この手紙に書かれていた通りのことが起こって、それを阻止することができるなら、海斗は自分が動く気でいた。
「今日だって絶対にうまくいく」
「あぁ」
2人は大きく頷きあったのだった。
☆☆☆
午前中の授業はほとんど身に入らなかった。
先生の言葉が右から左に抜けていく。
それは健も同じのようで、先生に質問されたとき慌てて隣の男子に答えを聞いていた。
そんな浮ついた気持ちで授業を聞いていたのが悪かったようで、2人は4時間目の授業が終わったあと職員室に呼ばれてしまった。
4時間目の後は給食の時間だからまだ少しは時間はある。
「どうした2人共、今日はいつも以上にぼーっとしてるじゃないか」
担任の男性教師が2人を見つめて言う。
その表情は心配そうだ。
授業を聞いていないと怒るより先に生徒の心配をしてくれる人だった。
「少し寝不足なだけです」
海斗はすぐにそう伝えた。
いつもゲームのしすぎで寝不足だから、なんの違和感もなく口をついて嘘が出てくる。
「西村は?」
先生が健の方へ視線を向けた。
「お、俺は、その……」
普段から早寝早起きを心がけているし授業も真面目に聞いている健はしどろもどろになってしまった。
先生も健の性格を知っているから、不思議に感じてこうして呼び出したようだ。
「なにかあったのか?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
健が助けてほしそうに横目で海斗を見つめる。
「健は朝サッカーで張り切りすぎちゃったんだと思います」
海斗は咄嗟にそんな嘘をついた。
健が朝からサッカーをしていることは先生も知っていることだし、ちょうどいいと思ったのだ。
「そ、そうです! ちょっと張り切りすぎちゃって」
頭をかいて照れ笑いを浮かべながら弁解する。
それを聞いた担任は少しだけ納得顔になって頷いた。
「なるほどサッカーか。それならまぁ仕方ないな」
言いながらも担任は2人の様子をジロジロと見てくる。
2人は必死で笑顔を取り繕ってこれ以上詮索されないように願った。
その願いが通じたのか、担任は何度か頷いて「わかった。もう戻っていいぞ」と、言ってくれたのだった。
☆☆☆
教室に戻って班ごとに机をくっつけ終わっていた。
教卓の前では給食当番たちが割烹着を着て器にご飯やおかずを入れている最中だ。
「先生、なんの用事だったの?」
同じ班の女子生徒がメガネの奥の目を心配そうに下げて聞いてきた。
「大したことじゃないよ」
海斗は答えながら給食をもらう列に並んだ。
教室内は給食の匂いがこもっていて、お腹がすいてくる。
「授業中にぼーっとしてたからでしょう?」
女子生徒は海斗の後ろに並びながら意地悪く聞いてくる。
事実だから反論せずにいると「海斗くんと健くんは仲良しだけど時々悪ふざけがすぎる所があるんだよね。そういうの、やめたほうがいいとおもうよ?」と、お姉さん顔し始めた。
クラスに1人はいる委員長タイプだ。
だけど委員長は他にいる。
この女子生徒はその真似ごとがしたいだけだった。
海斗は返事をせずにさっさと給食をもらうと自分の席へ戻った。
全員準備が整っていただきますと手を合わせてから、箸を手に取る。
「お願いだから問題は起こさないでよね」
メガネ女子がため息交じりにそう言った時、海斗はすでにご飯を口に放り込んでいた。
口がパンパンになるくらい次から次へとご飯をつめていく海斗を見て女子生徒は唖然とした表情を浮かべた。
それでも海斗はそんなこと気にならなかった。
誰よりも早く食べ終えてフラウンドへ向かうんだ。
そして女子生徒を救う。
頭の中はそればかりだった。
☆☆☆
大急ぎで給食を食べ終えた海斗と健がグラウンドへ出てきたとき、生徒の姿はまだどこにも見られなかった。
本当に一番乗りで来てしまったみたいだ。
2人は平均台の上に座って他の生徒たちが校舎から出てくるのを待った。
「あの子になに言われてたんだ?」
健にそう聞かれて海斗は一瞬とまどった。
なんのことかすっかり忘れてしまっていたからだ。
そして教室内でメガネ女子に色々と突っ込まれたことを思い出した。
「大したことじゃない。どうして先生に呼ばれたのかとか、問題を起こすなとか」
「俺たちは問題を解決してるのにな」
健はそう言って軽く笑った。
確かにそのとおりだ。
昨日は俺たちがいなければあの子猫は轢かれて死んでいたところなんだから。
「昨日の猫のことを知らないんだから、仕方ないよ」
「言わなかったのか?」
「あぁ。そんなことよりも早くグラウンドへ出てくるために早食いしてたんだ」
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