第4話

早く学校へ行って健と2人で中を確認したい。



その思いで歩いていると自然と早足になって何度も「海斗くん、1年生の子にスピードを合わせてあげて」と、注意されてしまった。



それでもできるだけ早く学校に到着したくて、海斗は通学班の先頭を歩くことになった。



ようやくの思いで校門を抜けた瞬間、海斗は走り出していた。



学校の敷地内に入ってしまえば、もう登校班は関係ない。



大急ぎで昇降口へ向かっているとグラウンドから男子生徒たちの笑い声が聞こえてきた。



その声の中に聞き覚えのあるものが混ざっていて急ブレーキをかけて立ち止まる。



急に走り出したり止まったりする海斗に、普通に歩いて登校している生徒たちが迷惑そうな顔を向けた。



そんなことにも気が付かず海斗はグランドへ向けて駆け出した。



「健!」



朝からサッカーをして遊んでいた男子生徒の中に健の姿を見つけたのだ。



大きな声で呼ぶとすぐにこちらに気が付いた。



海斗は一生懸命手を振ってこちらへくるように合図を送る。



健は一緒にサッカーをしていた仲間に一声かけて、駆け寄ってきた。



「海斗。今日は遅刻しなかったんだな」



ニヤついた笑みを浮かべてそう言う健の腕を掴み、強引に歩き出す。



そのまま校舎裏までやってきて、ようやく海斗は足を止めた。



「どうしたんだよ?」



海斗の様子にただ事ではないと察した健が尋ねる。



海斗は目を輝かせてランドセルを地面に置き、中から小箱を取り出した。



「それ、昨日の?」



「違う。今朝また届いてたんだ」



海斗の言葉に健は目を見開いた。



「まじか! 中身は?」



「まだ見てない」



「早く、早く!」



焦る気持ちを落ち着かせながら海斗は小箱を地面に置いて、その前に座り込んだ。



小箱の重さは昨日と同じくらい軽くて、振ってみるとカタカタと小さく音がした。



ここまでは昨日と全く同じだ。



「よし、じゃあ開けるぞ」



呼吸を整えて小箱の蓋に手をかける。



そっと持ち上げてみると、中から手紙が出てきた。



「また未来人からの手紙だな」



健の言葉に海斗は頷く。



きっとそうだ。



そうに違いないと信じている。



そして手紙を開いた瞬間、心臓がドクンッと高鳴った。



一番上に大きく書かれた文字。



『女子生徒が遊具から転落して、ケガをする』



その文章に海斗はゾクリと背筋が寒くなった。



「昼休憩時間中、学校で、か」



下に続いている文字を健が読む。



女子生徒がケガをするのは今日の昼。



場所は学校ということらしい。



「背の高い遊具ってどんなのがあったっけ?」



「よし、確認してみよう」



海斗の質問によって、2人は再びグラウンドへと戻ったのだった。


☆☆☆


まだサッカーをしている友人らを横目に2人は遊具を確認していく。



ブランコに滑り台に平均台にタイヤ。



様々な遊具がグラウンドの周囲を取り囲んでいる。



当善海斗たちも沢山遊んできた場所だ。



「この中で背の高い遊具と言えばジャングルジムくらいだな」



健はそう言うが、海斗は左右に首を振った。



海斗が2年生のころクラスメートがブランコを高く漕ぎすぎて、頂点から落下したことがある。



そのときクラスメートは軽傷で済んだけれど、下手をすれば大怪我をしていたかもしれないのだ。



それに滑り台。



すべり台のてっぺんに立ってふざけていると落下してしまう危険は十分にあった。



みんな、遊具の遊び方は自分たちで勝手に変えていってしまうものなのだ。



そう考えると危険な場所は沢山あった。



「とすると、ジャングルジムとブランコとすべり台の3つか」



海斗の考えに健は指折り数えていく。



それ以外に背の高い遊具はなさそうだ。



「よし、それじゃ昼になるのを待って助けに行くことにしよう」



「あぁ、そうだな」



昨日の子猫だって救うことができたんだ。



きっと次だってうまくいく。



「これは暗黒レターかもしれないな」



教室へ戻ってから健が深刻そうな表情で言った。



「それって暗黒少年のこと?」



暗黒少年とは最近の人気アニメだ。



主人公の少年は毎回暗黒色の手紙を受け取り、それには近未来に起きる出来事が書かれている。



悪いことが書かれたいたときにはそれを変えようと頑張るのだけれど、うまく行かない。



結局未来を変えることはできないまま、でもなんとなくうまくまとまって毎回終わる作品だ。



「うん。この手紙が入っていたのは黒い箱だし、未来の予言が書かれてるしな」



「まぁ、たしかにそうだけど」



でもアニメはアニメだ。



現実とは違う。



「アニメの中ではいつも主人公が不幸になるよな。ギフトの存在を誰も信じてくれなくて、たった1人で奮闘して、失敗してさ。俺そんなの嫌だよ」



海斗はしかめっ面をして言った。



誰かを助けようとして自分が不幸なるなんてまっぴらだ。



「だけど昨日は未来を変えることができた。アニメとは違って、俺たちは未来を変えたんだぞ?」



健は身を乗り出して言う。



そう言われるとなんだかすごいことのような気がしてくる。



自分たちにはアニメキャラでもできなかったことができるというのか。



「それに、未来を変えたって俺やお前が不幸になったわけでもない。最高じゃないか?」



健の言う通り、今の所2人共不幸な目にあったりはしていない。



「でも勝手に未来を変えるのっていいのかな。なにかの本でダメだって書いてあった気がするけど」



「そんなの気にするようなことじゃない。その本を書いたヤツが未来に行ってきたなら話は別だけど、どうせ頭の中で考えた話しだろ」



きっと健の言う通りだと思う。



そうなるともう怖いものはなかった。

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