十九話・方向性の違う青春ラブコメ。
一条さんが転校してきたその日の昼休み。
教室は異様な空気に包まれていた。
「ねぇねぇ一条さん!好きな食べ物は何!」
「オイ待てよ!俺が質問する番だぞ!!」
「いーや!次は俺だね!!」
と、昼飯も食わずに男女問わず一条さんを囲んで陽キャ達が声を荒げている。
い、居づらい...。まぁ、気持ちは分かるけども、だって俺としても理想のヒロイン像そのまんまの子が急に現れちゃったんだから。
でもまぁ、本当に対面してみると、人としての格が違いすぎて気が引ける...
屋上か例の教室にでもいくか。
「おーいラッキーボーイ!そんな浮かない顔してどこいくんだよっ!」
と、盛り上がる中教室を後にしようとした俺の背中を叩きながら宮村が声を掛けてきた。
「あ、あぁ、宮村くん。って、ラッキーボーイってなんのこと?」
「いや、分からないのか?あんな子の隣の席なんだぞお前!」
あぁ、そういうことか。周りから見ると一条さんと俺が隣同士の席になったのがそんなふうに見えるんだな。
ラッキーというか、ちょっと強引だったような。
「ま、まぁ、そうだね、本当...話しかけるのも躊躇しちゃうくらいだよ」
「待てよ、お前もしかして一条さんとまだ話してないのか?!」
「う、うん。話すにも何を話題にあげればいいかも分からなくて...」
「オイオイ...人見知りもそこまでいくと可哀想に思えてきたぞ」
俺のことをただの人見知りだと思ってくれているのか、やっぱいいやつだな宮村。
少し話してみるか、沢村さんの時もこいつの陽キャな性格をパクった...参考にしたし。
「ねぇ宮村くん。ま、また屋上で話しながらパンでも食べない?」
そう言うと、宮村はやけに嬉しそうな顔になった。
「おう!もちろんだ!!っと、じゃあ先に購買行かないとな!」
「うん、ありがとう。」
と、いうわけで。俺は宮村と一緒に教室を後にした。
******
「うーん。なるほど、簡単に言えば花山は今悩んでるってわけか」
「まぁ、そうなるのかな」
パンを買って屋上に来た俺はとりあえず最近起きたことを抽象的ではあるが宮村に話した。
沢村さんとのことはそのまま話したらまずいだろうし、天霧さんの名前を出せば酷い仕打ちを受けるだろうしな。
「でもさ、なんか話聞いてる限り面白そうじゃね?」
宮村は少しはにかみながら言う。俺の話のどこが面白かったのだろうか。
「それはどういう...?」
「だからさ、それだけ毎日何かあったら楽しいに決まってるだろ?ようは考え方だよ」
「毎日何かあるって言っても良いことってわけじゃないよ?」
「そうかもだけどよ、意外と何もない方が辛いんじゃないか?」
それは確かにそうだ。ぶっちゃけ俺が今送ってる日常は見方を変えてしまえばある種のラブコメ。主人公が女の子達に振り回される的なね?
ラブはないし、俺が理想とする青春ラブコメとも違うのだけど...
「宮村くんも何もないより悪いことでも何かあった方がいい?」
俺はそんな質問を宮村に投げた。
「あぁもちろんだ!そりゃ、困ることもあるだろうけど、絶対そっちの方が面白いだろ?」
「そっか...」
すげぇ、やっぱ生まれた時から主人公なんだな宮村は。でも、確かに一理ある。何もなかっただけのモブ陰キャじゃなくて、今の俺は女の子に振り回される陰キャなんだからな。
って、全然カッコ良くもなんともないけど。前よりは全然マシなのかもな。
「ってか、さっきも言ったけど一条さんと話してみろよ!」
「えぇっ、そんなの無理だよ...そう言う宮村くんは一条さんと話したの?」
「い、いや、まだ何も。なんか、一条さんてすごい良い子なんだろうしあり得ないくらい可愛いけど、なんか独特の雰囲気ないか?」
確かに。宮村も思ってたんだな。雰囲気と言うのか分からないけど、見た目や振る舞いに反してどこか怖さがあるんだよな一条さんて。
「って、ことで最初は花山!お前に頼んだぞ!上手く一条さんと仲良くなって俺に紹介してくれ!」
俺が考えていると宮村はなんの遠慮もなくそんなことを言った。
それ、陰キャがせっかく仲良くなった美少女を陽キャに寝取られる系の...
「ま、まぁ、機会があったらね。」
「隣の席なんだからいくらでもあるだろ〜」
「そ、そうだけど。」
まぁ、俺としても理想のヒロイン像である一条さんと話したいし、宮村には相談を聞いてもらった借りもあるから頑張ってみるか。
「それじゃあよろしくなっ花山!」
「う、うん。」
******
そうしてそんな一日も過ぎ、放課後。
俺はいつの日かと同じく、図書室で本を読みながら頭を悩ませていた。
「ったく、どうすりゃいいんだか」
宮村が言ってくれた通りもう少しポジティブに考えた方がいいのだろうけど...とは言っても今の俺の状況は...
まず、弱味を握られている天霧さん。そして最初は優しかったはずだけど、今は俺を凄い目で睨んでくる沢村さん。七海は...まぁ、相変わらずだからいいか。
ともかく、青春ラブコメしようにも八方塞がりって感じなんだよなぁ。
そう思った俺は、図書室の机に突っ伏した。
「...どうしたんですか、花山くんっ」
と、唐突に机へ顔を埋める俺の耳のすぐそばで甘くて可愛らしい囁き声が聞こえた。
「うわぁっ!!」
焦って顔を上げながら叫んだ俺は座ったまま振り返る。するとそこには、悪戯気な顔をした天霧さんが立っていた。
「あ、天霧さん?ど、どうしてここに」
「そんなに警戒されると少しショックですね。安心してください、私はたまたま来ただけですから」
「ほ、本当に?」
「はい。本でも読もうかと思って来てみたら悩ましそうにする花山くんがいたので」
話を聞く限り本当らしい。今日は俺に無茶振りをさせに来たわけじゃないんだな。
「それで?花山くんは何を悩んでいたんですか?」
「い、いや、それは...」
「いいから言ってみてくださいよ。私は花山くんのほぼ全てを知ってるんですからっ」
こ、怖い?!ま、まぁ、確かに天霧さんは俺の人に知られたくない秘密をしっている...
「ま、まぁ、悩みというか自分の方向性がよく分からなくなっててさ...」
と、俺は騙されたつもりで天霧さんに話すことにした。
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