十七話・天使の正体と俺の青春ラブコメ。

夏林先生の話も終わり、各自学年ごとに本の整理や図書室の清掃を任された。


よし、ここからだ。沢村さんは単に昨日のことで俺を嫌ったと思ってたけどそうじゃないらしい。一緒にこうして委員会の仕事をしてるわけだし、さっきだって隣の席に来てくれた。


ま、まぁ、目は怖いけど...


「うーっし、それじゃ沢村さん!パパッと片付けちゃおうかー!」


「...うん」


一応、返事はしてくれたが沢村さんの目は相変わらずバキバキだった。

こういう時はビビらないで率直にいこう。


「あ、あのさ!昨日はごめん沢村さん。何かの手違いで天霧さんが俺の連絡先欲しい〜って」


「...手違い?それは花山くんが可愛い可愛い天霧さんの連絡先を知りたかったんでしょ」


沢村さんは本を片手に言い返して来た。なんかもう本持ってるだけなのに凶器に見えてきた。でもやっぱり、誤解してるみたいだな。


「そ、それは誤解だって〜!正直なとこ天霧さんと隣の席で色々交流はあったけど別にそんなわけじゃないんだよ〜」


「ふぅん?それってどんな交流?」


「え、えっと、それは...」


弱みを握られておもちゃにされてます。とか絶対言えねえ...そんなこと言えばもっと誤解される。


「その、天霧さんとはただの隣の席って関係でそれで話すことはあるけど別にそれだけだよ」


「それって、あの皆んなのアイドルみたいな天霧さんが嘘をついてるって言いたいの?」


「い、いや、嘘、というか。まぁ、天霧さんは多分冗談で俺が連絡先欲しがってるって言ったんじゃないのかなと...」


も、もうテンパリ過ぎてよく分からんっ!で、でも、俺は間違ってないはずだ。俺は天霧さんの連絡先を欲しいとか一言も言ってないし。


ま、待てよ。どうして天霧さんは俺が沢村さんと連絡先を交換したこと知ってるんだ?


「だよねー!そんなわけないよねー!花山くんが私に嘘を吐くなんてぇー!」


俺がどっと得体の知れない不安に襲われたのと同時に、沢村さんが声を上げた。


「やっぱ嘘を吐いてるのはあのクソ...天霧さんの方だよね、あー良かった!!」


と、沢村さんは独り言のようにまた続けた。

ちょっ、今クソって言わなかったか?!そ、それに沢村さんは俺を疑ってたんじゃ...


「あ、あっはは。信じてもらえてよかったよ。沢村さん、俺のことずっと睨んでたから凄い怒ってるんだろうなって思っててさー」


俺は主人公モードを継続して沢村さんに探りを入れた。


「えぇ?何のこと?私、花山くんのこと睨んだりしてないけど?」


「あっ、そ、そうだったの?」


やっぱりそうか、なら沢村さんが睨んでいたのは...


「私が今日ずっと見てたのは天霧さんのことだよ。だって...絶対に花山くんが嘘つくことなんてないからぁ...」


「ひぃぃっっ!!」


俺は本日何度目かもう分からないが、叫び声を上げた。やっぱそうだったのか、最初から沢村さんは天霧さんを...俺と天霧さんは席が隣だから言われるまで分からなかったけど。


「え、えぇっと。じゃあ、仲直りてくれる?沢村さん。」


「仲直りって。別に私と花山くんは喧嘩してないよ?もし、嘘ついてたのが花山くんだったら大変だったけどね?」


「た、大変って、それはどういう...」


きっと、とんでもないことを言われるのは薄々分かっていた。しかし、俺は怖いもの見たさのような感覚でそれを沢村さんに問う。


「花山くんが二度と他の女にしっぽ振らないように一生監視してただけだよ?」


その言葉を聞いた俺の額に自然と脂汗が滲み出た。や、やっぱりそうなんだ。さ、沢村さんも天霧さんと同じ種類の...い、いや少し違うな。けれど、危険なのは一緒だ。


「まぁでも、それは誤解だった訳だしそんなことしないけどね。でも、いつでも見てるからね花山くんっ」


「うう...ど、どうしてそんなぁ。」


沢村さんに対して返したのではなく、どこか自然と俺の口からそんな言葉が漏れた。だ、だっておかしいだろ、こんなに可愛い子が普通の女の子とは少し...いや、だいぶ違う!!


俺が新しく仲良くなった女の子達は今のところ全員そうだ...お、俺に問題があるのか?


俺はただ、理想の青春ラブコメってのを叶えたいだけなのに!!


「これからもぉっと仲良くなろうねぇ、花山くんっ?」


「...う、うん。沢村さん、よろしくね。」



********



そして帰路。俺はある場所に向かっていた。

家の近くだが、通学路から少し逸れて脇道に入った所にある神社。ここは俺が学校生活や普段のことで悩んだ時にいつも来ていた場所だ。


「俺ってやっぱこうなる運命なのかな。」


境内の端にあるベンチに座りながらぼやいた。別に誰かが悪いわけではない。青春ラブコメを夢に見たが、たまたま出会う女の子達がクセのある子ばかりだった。それだけだ。


「こんなこと真面目に悩むなんてやっぱ俺は生粋のラブコメオタクだよなぁ」


けれどその悩みは俺にとって真剣なもので、本当に叶えたい夢だからこそのものだ。


クセのある女の子。というより、最近は俺のラブコメ計画は邪魔をされてる気がする。


だってタイミングが良すぎるだろ、俺なんがが可愛い子と仲良くなったと思ったところでいつも何かしらのトラブルになるんだから。


「あーあ、俺の理想のラブコメヒロイン...金髪帰国子女の美少女はいつになったらあらわれるんだか」


もう一度ぼやいた俺は、そこから独り言を呟くこともなく、暫くその神社で考え込んだ。

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