十五話・なかなか上手くいかない青春。

「ねぇ、どういうこと。説明してよ花山くん」

「一応天霧さんにアカウント教えたけど」

「なに、本当に。へぇ、天霧さんにみたいな人が好きなんだ」


それからはこうして沢村さんから圧がこもったメッセージが何件も送られてきた。


な、何で沢村さんが怒ってるんだ?ていうか、怒ってるのに天霧さんに俺のアカウントを教えたのは沢村さんなのか?!


も、もうよく分からん!!


「天霧さんにはそんなこと言ってないよ!!」


っと。そうメッセージ打ち終えた俺はすぐに送信し、訳がわからなかったのでその日はそのまま寝た。


あ、天霧さんがよからぬ事を企んでいるのは間違いない。で、でも、何でわざわざ俺なんかの連絡先を...ま、まぁいい!もう寝よう!!


そしてその翌日。俺は朝一番に学校に登校したその足で例の教室に来ていた。


「っていう話なんだよ。」


俺はその教室で昨日一日起きた事をありのまま七海に全てを話していたのだ。


「はぁ?!!私に何の相談もなく天霧茜の要求を呑んだってことじゃない!!」


二人しかいない教室で七海が怒声を張り上げる。ひ、久しぶりだけどやっぱ七海も怒らせたら怖えぇ。


「い、いや、お前も色々悩んでたみたいだし今相談するのは違うと思ったんだ。かと言って天霧さんには刃向かえば俺もお前も...」


「チッ。まぁそれはいいわ。それで、アイツになんて脅されたのよ。」


そ、そうくるよなぁ。

実はこの時点で俺は七海に天霧さんにデートをしろと要求されたこと、それと何を使って脅されたのか、今回に関しては七海との写真。という二つを伝えていなかった。


言えばもっと怒られそう、というか何となくボコボコにされそうなので。


「い、いやまぁ、それはいいとして。ひとまずヤバいって事だけ伝えておくぞ」


「は。何誤魔化してんの、早く言いなさいよ。」


「い、いや、えっとそのー」


「事と次第ではアンタもアイツの次にボコすからね?」


あ、ダメだもうこれ。流石に詰んでる。い、いや、でもこれはもしかして良い機会なんじゃないのか?


「あ、あのな。今回は俺の力一人で解決したいんだ。」


「は、はぁ?意味わかんないし。脅されてんのアンタだけじゃなくて私もでしょ?」


「そうだけど。な、七海はこの間俺のことを助けてくれただろ。あの時俺は別に何もしていなかったから」


そう言うと、七海は怒鳴るのをやめて不思議そうな顔をする。


「だからさ、俺も成長のためにもここは一人で解決したいんだ。い、いつまでも陰キャは嫌だからな!!」


「そ、そう。そう言うことなら分かったわ。」


案外あっさりとした返答だった。すまん七海!言っていることは本心だから誤魔化したことは許してくれ!!


そう思っていると、落ち着いたと思われた七海の表情が少し険しくなる。


「でもね、沢村さんのことに関してはアンタが一方的に悪いからね?!デリカシーないの?!」


「い、いや、だからそれは天霧さんが勝手に...ていうかデリカシーって何のことだよ。」


「もう。陰キャ脱却する前にそういうとこちゃんとしなさいよ。沢村さんには今日ちゃんと謝るのよ?」


まぁ、よく分からんが確かに沢村さんには悪いことした。俺が寝てからもひっきりなしにメッセージ来てたし...


「あぁ。分かったよそうする」


「絶対だからね。...ていうか、何勝手に交換してんのよ。」


「ん?なんか言ったか?」


「何でもないわよこのバカッ!!ていうか今度から呼び出すなら学校じゃなくて通学路とかにしてよね」


と、怒声を上げながら七海は教室を出て行ってしまった。なんだよアイツ、急に怒ったりして。それに、学校で話しかけられたくないからって通学路でーとか、お前いっつも朝練じゃん。


そんな小言を心の中で呟きながらも、俺は遅れてその教室を後にした。



******



ま、まずいまずい、これは思った以上にまずいぞ。


教室に戻り、暫くして他の生徒達も登校してきたのだが、俺は早速窮地に立たされていた。


「あっ、おはようございます花山くんっ今日は早いいんですね〜!!」


まずはこの人、天霧さんだ。天使のような顔で挨拶してるが、もちろん悪魔だ。

そ、そしてもう一人。俺をまるで何かの仇のように睨みつける窓際からの視線があったのだ。


「どうしたんですか、花山くん。そんなに汗をかいて、体調でも悪いんですか?」


何も知らないふりをして天霧さんが声をかけてくる。全部分かってるくせに、冷や汗だっての。

そう思いつつ、俺はひしひしと伝わる鋭い視線の方にもう一度目を向けた。


「ひぃぃっ!!」


目が合った瞬間そんな声が勝手に口から漏れた。や、やっぱり俺のことをずっと睨んでいたのは沢村さんだったんだ...。


沢村さんの顔に昨日の優しい表情はなく、目を思いきり開いてこれでもかと言うほど俺を睨んでいる。


「おいおいどーしたはなやまー!お前今、変な声出しただろー」


宮村がくすくす笑いながら遠巻きにそんなこと言ってくる。い、今はそんなこといいんだよ。

と、というか、絶対仲直りなんてできっこないだろ。だ、だって、沢村さんに今話しかけでもしたら間違いなくただじゃすまない。


そうこうするうちにホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任の夏林先生が教室に入ってくる。


どうやら俺は今日も全く上手くいかない青春の一日を乗り越えなくてはいけないらしい。

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