十三話・天使と悪魔。
昼休み。俺は朝のホームルームが終わった後から今の今まで何も考えられなかったし、ましてや授業に集中なんてできやしなかった。
だって、これからあの悪魔みたいな天霧さんと顔を合わせなきゃいけないんだから。
そう、今朝渡された紙は嫌な予感通り天霧さんから呼び出しの手紙だった。
「し、失礼しまーす。」
俺は昼飯など食う前に真っ先に特別棟の例の教室に向かい、一言呟きながら戸を開いた。
「あら、花山くん。早かったですね」
「あ、天霧さんこそ。」
そう返答すると、天霧さんはどこか俺を愛おしく思っているかのように微笑む。
こ、この感じ久しぶりだ、マジ、怖えぇ。
「ふふ。今日はお話がありまして。とは言っても、これを見てもらえればすぐ終わるんですけどね」
いいながら、天霧さんはスマホを取り出し、画面をこっちに見せてきた。
な、なんだよこれ。これは昨日の俺と七海か?
天霧さんが薄ら笑いを浮かべて見せてきたのは七海が俺の手を引いている写真だった。多分、昨日映画館にいた時のものだろう。
「な、なんでそんな写真を...?」
「実はね、私もいたんですよあのショッピングモールの映画館に」
ま、マジかよ。よりによってそんなことあるのか。
返答を聞いて狼狽える俺を天霧さんは面白そうに眺めてきた。
「それで...その写真をどうしようと?」
「分かってるでしょう?花山くん。私がこの写真を使ってどうしたいのか」
これは、間違いなく脅しだ。この写真を出しに使ってまた天霧さんのおもちゃになれってことなんだろう。
「わ、分からないな、その写真がとうしたの?」
そう返すと、天霧さんは少しだけ眉間にシワを寄せた。へっ、俺と七海はただの幼馴染だからな、そんな写真をバラ撒かれようとどうってことはない。
「ふーんそうですか。でも確か西野さんは花山さんと関係があるのを他人にしられたくないようでしたけど?」
「なっ!?」
そ、そうだった。学校では話しかけるなともまで言われてたし、確か俺なんかみたいな陰キャと幼馴染なんてことを知られて七海の顔を潰すわけにはいかない。
それにあいつは、陸上の大会のことを多分まだ引きずってる。そんな時にこんな事されたら...
「すみませんでしたぁー!!!何なりと言うことを聞かせていただきまぁーす!!」
あの日ノートを拾われて以来のフライング土下座だった。あぁ、結局こうなるのかよ俺。
「ふふっ花山くんは物分かりがいいですねえ。でしたらまた今日から私のおもちゃってことでいいですね?」
「は、はい...」
「はいっよろしいです」
少し反抗したのにまたまんまと飼い慣らされてしまった。情けないにも程があるだろ本当に。
「これでまた花山くんは私のものですし、西野七海...あの女にも一泡吹かせられますっ」
「い、いや。七海には何もしないでほしいんだ。俺がなんでも言うことを聞くから」
「はぁ?そんなわけないでしょう。だいたいね、そういうとこがムカつくんです。花山くんは私のおもちゃでしょ?」
い、いや、だって言うことを聞けば許してくれるって...いや、でもここで文句を言い続けてこれ以上事態を悪化させるわけにも...
「ぐ、具体的には七海に何をするつもり?」
俺が問うと、天霧さんはまた「フフ」と、不穏な笑みを浮かべた。
「それは決まってるでしょう。私ともデートしてもらいます、花山くんに」
「えっ?」
一瞬理解できなくて変な声を出してしまった。
「だって西野さんともしたんでしょ?この証拠もあるわけですし」
「い、いや、それは幼馴染だから付き合ったってだけで...」
「だとしてもデートはデートです!!花山くんはおもちゃのくせに私に恥をかかせた女とデートに行ったんです!!」
スマホに映る俺と七海の写真を見せつけながら天霧さんは息を切らして叫ぶ。
は、恥をかかせたって。でも、この状態で何を言ってもダメだ。やっぱり、ここは従うしかないか。
「わ、分かったよ言う通りにする」
「ふっ、いい返事を聞けてよかったです」
*******
あーどうしよ天霧さんとあんな約束しちゃったよ。
放課後。誰も居なくなった教室に残って俺はそんなことばかり考えていた。
「あれ、花山くん?」
憂鬱になっている俺の耳に優し気な呼び声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、不思議な顔をしてこっちを見る沢村さんが居た。
「さ、沢村さん!ってどうして...」
「あ、えっと忘れ物をしちゃってね、だから取りに来たら偶然花山くんが居て...」
「あっ、あぁ、そうだったんだ。」
そう返すが、沢村さんはまだ不思議そうな顔でこっちを見ている。
「あの花山くん、何かあったの?」
「え、えっと、どうして?」
「なんとなく、思い詰めてるような顔だったから...」
そうか、って、また俺顔に出てたのか。しかも沢村さんに...
「ちょ、ちょっとした悩みだよ。本当にちょっとした悩み。」
取り繕うようにいうと、沢村さんは少し怒ったように頬を膨らませる。
「もうダメだよ花山くん、一人で考えてたらもっと悩むんだから。」
や、優しい。なんて子なんだ、こんな陰キャモブの俺に相談を聞こうとしてくれている。
やっぱり沢村さんは荒れた心を癒す天使だ。
「えっ、えっと。本当に沢村さんからしたら小さなことかもしれないんだけどいいかな?」
「うんっ!全然聞くよっ」
沢村さんにそう言われ俺は心の内を話すことにした。
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