十二話・デートの後の嫌な予感。

七海と俺はそのまま映画館の中まで行き、席に着くとすぐに上映は始まった。


まぁ、内容で言ってしまえば高校生男女の恋愛や青春模様を現した作品だった。七海に聞いたところによると、少女漫画が原作らしくこの映画はその実写らしい。


最近はその手の類の映画は多いし、世の視聴者からしたらありきたりで食傷気味なくらいだろう。


けれど俺は...


「うっぐ、うう...くはぁぁあかなしすぎるだろうがぁああ」


「ちょっ、奏司!うるさいから泣くならもう少し静かにしなさいよっ!!」


と、隣の席から小声で七海は言ってきた。


何言ってんだよ、これが静かに泣いてられるか!!それに、何がありきたりだよまったく...いや、客観的に見ればそうなのかもしれないが、俺は青春ラブコメを愛する者だぞ!!


実写でも原作の方が人気が高かろうともありきたりだろうと、全ての青春ラブコメは等しく尊いものなのだ!!


「うわぁーーん!!」


「だから、静かに泣け!!」


七海にどやされつつも、俺はこの調子でエンドロールが流れるまで泣き続けてしまった。


「いやー泣いた泣いたっ!でもやっぱいいよなぁ少女漫画原作はさぁ」


「なに意気揚々と歩いてんのよ私だって泣きたかったのに、ていうか、本当うるさい」


「悪かったって。でも、久しぶりに映画見れて良かったよ。すげー泣けたし」


「そ、そう。なら良いけど。」


返事をした七海はどこか恥ずかし気に目を逸らす。


「にしても。あーあー、いっぱい泣くつもりだったのにこれじゃ今日来た意味ないじゃない」


「ん?もしかして、お前の今日の目的って映画みて泣くことだったのか?」


「そーよ。誰かさんに台無しにされて泣くどころか笑いが込み上げてきちゃったけど」


「あ、あぁ。そう言われると流石に申しわないな...」


つっても、七海は何で泣こうとしてたんだ?


「なぁ七海。お前、なんかあったのか?」


「まぁ、付き合ってもらったし、いくらアンタにでも話さないのは失礼か。」


そう言うと、七海は少し悲しげな表情を浮かべながら話を続けた。


「春休みにね、大事な陸上の大会があったのよ」


「それって部活のか?」


「そう。自信はあったんだけどね、久しぶりに負けちゃったのよ」


「それで、気晴らしにってことだったのか?」


俺が問うと、七海はゆっくり首を縦に振る。

そう言うことだったのか。なんかテンションがおかしかったのも、忘れるために大泣きしたくて映画を見たのも本当はそういうことだったのか。


何より、いっつもツンケンしてる七海が春休みの大会のことを新学期が始まってまぁまぁ経つのにまだ抱えてるなんてよほどショックだったんだな。


「まぁーでも、スッキリしたわ!」


俺が考えていると、不意に七海は声を上げた。


「い、いやでも、俺お前の邪魔したようなもんだし、なんていうか、本当ごめん...」


「まぁ確かに今日一日デート慣れしてない童貞みたいな態度だったし映画ではうるさかったけど、おかげで後半は大笑いできたから」


「そ、そうか...っておい!童貞は言い過ぎだ!」


「事実でしょこのどーてー」


ま、まぁ、そうだけど、幼馴染相手に認めるのも嫌だからこれ以上は黙っておこう。


「とにかく。今日はありがとうね奏司、普段は本当にキモくて冴えないけど、今日は感謝してるわ。」


「そ、そうか。一言余計だけど、もう吹っ切れたのか?」


「うんっ!ありがとうっ!」


久しぶりに見る顔だ。天霧さんと例の件があって以来、この顔をよく見る気がする。

俺達が小さい頃のあのまだ仲が良かった頃の表情だ。


幼馴染、とは言っても初めて女の子とデートしちまったな......けど、今日のは何と言うかそういうのとは違う気がする。


そんなことを考えつつも、その後は特に何事もなく俺と七海は帰路についた。



******



そして、週が明けた月曜日。俺は先週より少し晴れやかな気持ちで学校に登校していた。


よし、今日からもまたがんばるぞ。

そう心の中で呟き、教室の戸を引く。


「おーっす花山ー!今日は早いな」


「あ、あぁ、宮村くんおは.....」


入ってすぐに宮村に声かけられたので返そうとすると、それを遮るかのような呼び声が上がる。


「あー!花山くーん!おはようございますっ!」


こ、この気配は.....やっぱ天霧さんか。

と、横を向いて確認をとったところで、俺は自分の席に向かった。


「お、おはよう、天霧さん。」


「はいっおはようございます花山くん......」


席についくと、隣の天霧さんはどこか先週とは違って前に例のノートを見られた時のように笑って返事をした。


な、何だこの感じ。めちゃくちゃ嫌な予感がするぞ。

そう思った矢先、さらに良くない展開を想像してしまうようなことが起きる。


「...はい、どうぞ花山くんっ」


「い、いや、えっと、あの」


天霧さんが二つ折りの紙を渡してきたのだ。

こ、こんなのよからぬことに決まってる。で、でも、何だ?俺も七海も先週までは弱みだとか秘密を天霧さんに見せたりはしてないはず。


俺の考えをよそに天霧さんは二ヘラと獲物を追い込んだ蛇のような表情をする。


な、何なんだ。せっかく青春ラブコメの兆しが出始めたってのに......

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