十一話・初めてみる君の顔。
いや、落ち着けますば。別に七海は何かの用があるから俺をその付き添いに来させただけだ。
頭では分かっていても、七海の姿を見て俺の鼓動はいつもより早くなっていた。
「ねー、まずはここ見たいんだけど良い?」
「あ、あぁ、いいぞ!」
返事をすると七海はその足で目の前の雑貨店に入っていった。
七海ってこういう店好きなんだな。小さい頃の記憶しかないからなんか新鮮だ。
そんなことを思いつつ、俺も店の中に入る。
オシャレな小物や流行のものを多く取り揃えているらしく、同世代や少し年上の女の子達が店内に多く居た。
「なによ浮かない顔して。もしかして今日来るの嫌だったとか言わないわよね?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて......」
七海が睨んできたので俺はおどおどしながらかえす。嫌ってわけじゃないんだけど、女性向けの店とかそういう場所って、結構男からすると独特な圧があるように思えるんだよな。
七海はそう思う俺をよそに態度を一変させて高らかに声を上げる。
「わぁー!ちょー可愛いこれ見て奏司!」
「な、何だ?指輪か?」
「うんうん!どう?似合うかなー!」
可愛らしくはにかんだ七海はこっちに手のひらを向けた。
似合わないわけないだろ。ていうか、こんなにテンション高い七海見たのいつぶりだ?それに今日は何となくだけど、いつもより優しいような。
「に、似合ってるよ。」
「本当っ!じゃあ、これ買う!!」
そう言いながらも七海はずっと自分のくすり指を眺めている。
女の子らしいというか、まぁ、女の子なんだけどな。
「じゃあ、それ買ってやるよ。お前には天霧さんの件で助けてもらったし」
「はぁ?!何言ってんのキモッ!!」
えぇ、さっきまで珍しく優しかったじゃん。
「い、いや、ただ俺は感謝を伝えたくて...」
「だとしても、指輪をプレゼントする意味をもう少し考えたらどう?本当に、そういうとこ考えなさいよねっ!!」
完全にいつもの七海だ。ま、まぁ、こいつは俺のこと嫌いなわけで。さっきまで機嫌が良かったのは単なる気まぐれか。
そう思いつつ、俺が謝ろうとしたところで七海は「でも」と前置きしてから続けた。
「嬉しかった。だから、プレゼントするなら指輪じゃなくて奏司が私にあげたい物にして」
「...え。い、いや、その...」
「分かったら返事は?!」
「は、はい!!分かりました!!!」
あ、あぶねえ。また幼馴染にドキドキするとこだった。けど、やっぱり今日の七海はどこか変だ。も、もしかして何か企んでるのか?
いや、七海にがそんなことするわけないか。
「よし、次行こっ奏司!」
「あ、あぁ。でも、本当にいいのか指輪...」
「うん。衝動買いも良くないしね」
「あぁ、そうか。」
返事をすると七海は首を縦に振り、俺達はその店を後にした。
******
時刻は十二時半を回った頃。あれから数軒店を見て回った後、とりあえず丁度良い昼時なので俺と七海はショッピングモールのハンバーガーショップに居た。
「なぁ、本当にここで良かったのか?」
「何が?私、こういうジャンクフード結構好きだし、何より安くてよくない?」
「ま、まぁ、そうだな」
言葉を返すと七海は嬉しそうにポテトを口に運ぶ。
「それで、この後どうしたいとかある?せっかく付いてきてもらったし、奏司が行きたいところとかないの?」
「うーん、行きたいところか...」
今日はたまたま俺が好きなラブコメラノベの新巻が発売される日だ、けれどそのために本屋に行こうっていうのもなぁ...
考えるために俺は少しの間黙った。
「......俺は別に無いかな。」
暫くしてから俺は七海にそう伝えた。
まぁ、今日は七海の付き添いなわけだし、七海がしたいことをするのが良いだろ。
「そっか、じゃあ映画見ない?」
「映画か、俺は別に良いよ」
「本当!実はね、お母さんに今流行ってる映画のチケットもらったの!」
「お、おぉ、そうなのか」
も、もうこれ完全にデートだよね?俺が幼馴染じゃなくてただのクラスメイトとかだったら勘違いして今頃惚れてるぞ本当に。
「じゃあそういうことで、ちょうどこれ食べ終わる頃には上映始まるからすぐ行こっ!」
「あぁ、分かった。」
というわけで、俺はこれから女の子と初めて二人きりで映画を見ることになった。
ハンバーガーを食べ終えた後、七海に連れてかれるまま俺は映画館にやってきた。
お、おい。もしかしてこれを見るのか?
「な、なぁ、七海。今日見る映画ってもしかして.......」
「うん、この恋愛映画めちゃくちゃ泣けるらしくてsnsとかでは話題なんだって〜!!」
七海は映画館の壁に貼られたポスターを指差しながら嬉しそうに言う。
ま、まじかよ、ていうかよく見りゃカップルだらけじゃんか。恋愛映画だから当たり前なんだろうけど、なんか緊張してきた。
そうこうしているうちに入場時間になった。
「行こっ奏司!!」
「あ、ちょっ!!」
はしゃぎながら言った七海は不意に俺の腕を掴んでズンズン進んでいく。
テンション上がってるだけなんだろうけど、い、今俺、七海と手繋いでないか?!
そんなこんなで、俺は幼馴染の今までに見たことのない横顔を眺めながら、薄暗い映画館の中に吸い込まれていった。
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