十話・デート。

「あぁ、なんて素晴らしいんだ青春ラブコメって...」


ある日の夜、俺はまたそんなことを部屋で呟いていた。もちろん沢村さんとのことを思い出しながらだ。


大丈夫、キモいことは分かっている。けれど、やっぱ可愛い女の子との思い出は思い出しちゃうものだろう?

そのうえで俺は、その時の出来事をまたノートに書いておこうと思う。


「ねぇ、おにい何その変な顔。」


「うわぁぁああっ!!!」


突然耳元で囁かれたので俺は部屋の中で大声を上げた。


「うるさっこっちがびっくりだよ。ていうかまたそのノート書いてるの?」


「な、なんだよ結衣(ゆい)か。ていうか、音も立てずにはいってくるとかお前ゾルディック家の者か?」


「なんだよってなによ。それに何言ってるか分かんないし」


そう呆れたように言ったのは俺の一つ下の妹の結衣だった。

今年から俺と同じ桜校に入学してきたばかりだが、冴えない兄と違って可愛いだのなんだの言われて噂になっていたのを聞いた。


「それで、何の用だよ結衣」


「なぁにその冷たい感じ。こんなに可愛い妹だって言うのにばちあたるよー?」


「妹は妹にすぎないからな。ヒロインにはなれないからいいんだ。それで、なんなんだよ」


そう返すと結衣は少し不服そうな表情を浮かべながらも俺の問いに応じる。


「いや、なんか最近さ、おにい変わったなあって思って?」


「変わった?んなまさか。俺は冴えない陰キャのままだよ。」


「それはそうなんだけど。何かすっごい疲れた顔した時もあればこの間は天にも昇るような顔してたし?なんかあったのかなーって」


嘘だろ。俺、家でもそんなに顔に出てたのか?

ま、まぁ、天霧さんや七海のことに関しても大変だったし、沢村さんとのことは良い意味で大変だったからな、そりゃ気付かれるか。


「ま、まぁ、少しだけな。本当に少しだけど...」


「本当っ!すっごいじゃん!日陰者だったおにいに何があったの?友達できたとかあ?!」


「ま、まぁ、一人できたよ。ってお前妹でも言い過ぎだろ?!一応兄だぞ!!」


「まぁまぁ、日陰者なのは否定できないんだからさ。でも凄いじゃん!やったねおにい!」


言いながら結衣はとても嬉しそうな顔をぐっと寄せてきた。

まぁ、そこまで祝われると嬉しくないとは言えないな。少しムカつくとこもあるけどやっぱ良い妹だな。


「ま、まぁでも、まだまだこれからだよ。俺の夢は青春ラブコメを実現させることだからな!」


「またそんなこと言ってる〜!青春はいいけどラブコメはダメでしょ!私がいるんだから!」


「結衣は妹だろ、俺がどんな美少女とラブコメしようが別にいいじゃないか」


「おにいみたいな陰キャは美少女とラブコメなんてできません〜!だから私でいいの!」


「う、うっせ!誰が陰キャだ!!」


本当ブラコンだなあ。可愛いし年頃なんだからさっさと彼氏作ればいいのに。

と、結衣と言い合いながらそんなことを思ったところで、不意にスマホのバイブ音が鳴った。


「んっ、通知?」


「あぁ、俺だな」


言いながら俺はポケットからスマホを取り出す。何だ、こんな時間に。俺に連絡を送ってくるようなやつなんて居ないだろうし、何かのアプリの通知か。


そう思いながら目を向けると、その通知がアプリからのものでないことにはすぐに気がついた。



———次の日曜日空いてる?暇なら付き合って欲しいんだけど。


単純で分かりやすい文章だったが、俺は何度もその文字を読み返す。

だって送り主はよりにもよってあの七海だったから......


「あー!七海さんからじゃん!!ってか、これデートの誘いじゃない?無理なんですけどー!」


「痛ッッ!は、離せよ結衣!!」


と、スマホの画面を見る俺のことを後ろから邪魔そうとする結衣を引き離しながらスマホの画面をもう一度眺める。


そして、こう送り返した。



———日曜なら暇だぞ!!何の用かは知らないけど何でも付き合うよ!


少々キモい文章になったが、まぁいいだろう。

で、でも、七海のやつ急に俺を誘うなんてどうしたんだろう。も、もしかして俺のこと...


「もうおにいのばか!!知らない!!」


俺が余計なことを考えそうになったところで、結衣は怒鳴りながら部屋を出ていってしまった。


落ち着け、幼馴染だし相手はあの七海だぞ。きっと本当にちょっとした用か何かだろう。



******



そうしてあっという間に迎えた日曜日の昼間のこと。


俺はそわそわしながら待ち合わせに指定された近所のショッピングモールに居た。


時刻は十一時二十五分。約束した時間には五分早い。

というか、そんなことよりもこのショッピングモールはカップルなんかも多い場所だ。

デートスポットとは言えないかもだけど、他校は勿論、うちの高校の生徒もよく彼氏彼女でいるのを目撃される場所なのだ。


そんなことを考えていると、俺の耳に甲高い声音が聞こえてくる。


「ごめんお待たせ、奏司。」


「あ、あぁ、よう。俺も今きたばっかだよ」


そう返しつつ、久しぶりの七海の私服をついじっくり眺めてしまっていた。

こいつ、めちゃくちゃ可愛いな。


「そっか、それなら良かった。じゃあいこっか。」


「お、おう。」


返事をした俺は先を行く七海の後に続く。


ちょ、ちょっと待てよ。こ、この流れって本当にデートが始まるんじゃないのかぁ?!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る