九話・花山くんと沢村さん。

そして放課後。早速今日から委員会があるらしく、俺は帰りのホームルームが終わった後、図書室に運んでいた。


俺以外にも他のクラスや他学年の図書委員も同じく集っている。


「えーっと、それじゃあま全員揃い次第み図書委員の簡単な説明をしますね〜」


そう声を上げたのはこの委員会を担当している樋口先生だ。生徒にもフランクに接してくれて下の名前が栞(しおり)というので「しーちゃん」と呼ばれている。


「花山くん、一緒のはずの沢村さんが居ないけど、何か話聞いてない?」


図書室に集う生徒達の顔を一通り見渡し終えると樋口先生はそう声を掛けてきた。


「い、いえ、何も聞いてません。」


「そっか、もしかしてサボりかなあ。初日からサボりとは度胸があるなー」


樋口先生は少し頬を膨らませて怒ったような仕草で言った。

いやぁ、そうなんですよ。どうしたんだろう沢村さん、サボるタイプには見えないし具合でも悪いのかな。


何はともあれ、せっかく一緒の委員会になれたのにまた俺はボッチか泣。


「まぁ、沢村さんには後で注意するとして、時間もないし委員会を始めましょうかっ」


と、沢村さんのことを気にかける俺をよそに樋口先生は全体に声を掛けた。

やっぱ俺って青春できない呪いにでも掛かってるんだろうか。


そんなふうにまたネガティブになりそうな矢先のことだった。


「す、すみません!!遅れました!」


図書室入り口の扉が勢いよく開き、甲高い声が響いた。

目を向けるとそこには息を切らす沢村さんが立っていて、今の声の主は彼女らしい。


「あ、沢村さん。少し遅かったけどどうかしたの?」


「え、えぇっとその、私、図書室の場所をよく知らなくて」


沢村さんが申し訳なさそうに言うと、樋口先生はクスッと笑った。


「それなら仕方ないけど、次回からは送れないように。それと、もう二年生なんだから図書室くらいしっかり覚えましょうね?」


「は、はいぃ。すみませんでしたっ」


樋口先生が赤子を可愛がるように言うと沢村さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

それを見た図書室内の他の生徒達も微笑ましいような表情になる。


これが沢村さんが人気な理由だ。単純に可愛いのもあるが、こう言うドジっ子的な部分が更に元からある可愛さを強調している。


「あ、あの、ごめんね花山くん......」


「え、あぁ、いや、大丈夫だよ、沢村さん」


隣の席に着いた沢村さんが小声で謝ってきたので俺は不器用ながらに言葉を返す。


いやぁ、やっぱ可愛いなあ沢村さんは。なんかこう、心が洗われると言うか、純粋な女の子なんだろうなって感じだ。


「あ、あの花山くん、筆記用具借りてもいいかな?その...急いで来たから教室に置いてきちゃって...」


「あ、あぁ、いいよ!もちろん!」


「あ、ありがとう、花山くんがよかったら今度何かでお返しさせてください」


っくっはぁ?!!な、なんなんだこの可愛い生物は、て言うかなんだよこの急な青春ラブコメシチュエーションンン!!

隣に座ってるだけでドキドキが止まらん!!


青春ラブコメの神よ、これは最近色々乗り越えた俺への尊い贈り物なのか!!




******



約数十分後。沢村さんとの夢のようなひと時もそう長くは続かず、委員会はお開きとなった。


いやぁ、最近、いや。人生で一、二を争うくらい心地の良い時間だったなあ。まぁ、緊張して喋れないからただ沢村さんの隣でソワソワしてただけだけど。


そんな事を思いながら、席を立とうとしたその時。


「あ、あの、花山くん!!」


「は、はいっ?!!」


急に呼ばれたので咄嗟に返事をしながら目を向けると沢村さんが何か言いた気な顔でこっちを見ていた。


「その...よかったらなんだけど、教室まで一緒に行きたいなって、思って...」


「え、えぇ?俺と?」


「う、うんっ」


え?まじで?え、えぇ?分からん、いや分かるけど、沢村さんと俺で今から一緒に二人で教室に戻る?


えぇぇぇえええ?!しかも俺が誘われた方だと?!


「だめ...かな?」


俺が黙っていると沢村さんは上目遣いでそう言った。

ダメなわけない。こんな可愛い子の誘いを断るなど、いくら陰キャだとしてもありえん!!


「だ、ダメじゃないよ。行こうか、沢村さん」


「ほ、本当!!」


「う、うん!」


返事をすると沢村さんは嬉しそうに席を立ち、俺達は図書室を出た。


「そ、その。私、去年も花山くんと同じクラスだったけど、話してなかったじゃない?


廊下に出て一緒に歩いていると沢村さんは少し恥ずかしそうに言った。


「う、うん。ていうか、俺は馴染めてなかったし、話してなくても当然と言うか...」


「あっはは、そんな事ないよ。花山くんは物静かだけど、良い人そうだなって思ってたし。ずっと、話してみたかったんだよね」


と、俺のネガティブな発言にも沢村さんは優しく笑いながら言葉を返してくれた。


はぁ、本当になんて良い子なんだ。なんかもう、泣きそうだ。


「さ、沢村さんだって本当にいい人だよ。人気だし、俺とは比べ物にならないくらい」


や、やばい。褒めようとしてるのに自然と卑屈っぽくなる。こんなとこで陰キャの本領発揮するなよ俺!


「え、ほ、本当?初めて言われたそんなこと。私ってドジだし、頭もそんなよくないのに...嬉しいよ、花山くん!」


「そ、そう?それは良かった」


あ、あれ。喜んでくれたのか?ていうか、意外と会話が弾んでいるような。


そう思ったところで、沢村さんは足を止めた。


「それじゃ、花山くんまた明日ね。ここまで付き合ってくれてありがとう!」


沢村さんにそう言われ、辺りを見るともう教室の前まで来てしまっていた。た、楽しすぎてマジでここまで来るのに一瞬だったな。


「う、うん沢村さん。また明日」


そう返すと、沢村さんはその日見た中で一番の笑顔を浮かべながら頷いてくれた。

そうして沢村さんは彼女の事を待っていたであろう他の女子の輪の中に入っていく。


なんか、なんとも言えない気分だな本当。青春ラブコメってこんな感じなのか。だとしたら、やっぱ最高だ。


けど、この気持ち。前にも味わったことがあるような気もする。

俺がまだ小学校低学年、いや、もっと前か。でもよく思い出せないな。あの子の名前なんだっけ。


まぁいいか。と、とにかく、俺、今年は青春ラブコメできるんじゃないのか?!!






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