七話・再始動した青春ラブコメ計画。

天霧さんと七海と例の教室で一件あったその次の週の月曜日。

俺はとても爽やかな青空に見守られながらいつもの通学路を通って登校していた。


「おーっす花山〜!」


と、清々しい空を眺めながら自転車を漕いでいると不意に背後から名前を呼ばれ振り返る。


「あ、あぁ、宮村くんおはよう」


「どうしたんだよ、なんか良いことでもあったみたいな顔してんじゃん」


「い、いや別にそんなことないよっ」


そう返すと、宮村は「そうか?」と首を傾げた。

正直なとこ、相変わらず俺の高校生活は可もなく不可もくだ。けれど、木曜日にあんなことがあって天霧さんの呪縛から解かれたお陰で何の心配もなく学校に行けるんだから充分だ。


「なんか、先週までの花山は悩んでたっぽかったからさ、浮かない顔ばっかしてただろ?」


「そ、そうかな。まぁ、でも確かに宮村くんの言う通りだったかも」


「ははっ、解決したみたいでよかったよ。ただでさえ浮かない顔がゾンビみたいだったからな」


た、ただでさえ浮かない顔...まぁ、その通りだけどやっぱ陽キャの冗談怖ぇえ。


まぁ、でも優しさで言ってくれてるんだよなきっと。陽キャクラスに入って一旦絶望したけど、宮村が居てくれてよかった気がする。


「あ、あの。み、み、宮村くん!ありがとう!!」


う、うわぁ、噛みすぎだろぉ。で、でも感謝は伝えないとな。

そんな俺たどたどしいの言葉を受けた宮村は少し不思議そうな顔をした。


「何だよ急に、こんなの当たり前だろ。俺たち友達なんだからさ?」


「え、えっ?!と、友達?!」


「そうだろ?もしかして今更友達じゃないなんて言うつもりか?」


え、えぇ、そうだったの?俺達友達だったの。

と、というか何だこの気持ち。正直友達って言われてめちゃくちゃ嬉しいし、一瞬で宮村のファンになりそうだったぞ。


これが本物の陽キャというやつなのだろうか。お、俺も宮村みたいなことが言えるようになれば青春ラブコメを実現したりできるのか?


よし、天霧さんとの件は一旦落ち着いたわけだし、今日からまた頑張ろうっ!


そう思った俺は自転車を漕ぐ速度を上げた。


「ちょ、花山!いきなりどうしたんだよ!!」


「な、なんか急にスピード上げたくなっちゃってさ!!」


「ふーんなるほど、俺に勝負を挑むってわけだな?こら待て花山ー!!」


そんな、青春のワンシーンっぽいやり取りを宮村とした俺はそのまま学校まで走り抜けた。



そして、しばらくして学校に到着した俺は自分のクラスである二年二組の教室前に居た。


「ったく、意外と早いな花山!って、どうしたんだよ教室入らないのか?」


「あ、いや、えっと......」


言い淀んでいると、宮村は不思議そうな顔でこっちを見てくる。


別に何か心配なことがあるわけじゃないけど、天霧さんとは金曜日のあの日以来話すどころか顔も合わせてないわけで。

席が隣って言うのも気まずいんだよな.....


「んじゃ、先行くぜ?」


悩んでいると、宮村がそう言いながら教室の扉を開いた。

ま、まぁ、ずっとこうしてる訳にもいかないし覚悟を決めて俺も行こう。


俺は少し深呼吸をしてから宮村を追いかけるように遅れて教室に入る。


「あぁー!!おはようございますっ!花山くん!!」


もう聞き慣れたそんな声が教室に入ってすぐ聞こえてきた。

な、なんてデジャブなんだ。


そう思う俺を他所に、俺に声を掛けた主である天霧さんは何もなかったかのように明るい笑顔を浮かべて、こっちに手を振っている。


「なぁ、花山、何で最近お前天霧さんに好かれてんの?ズルいだろ普通に」


「い、いや別に好かれてるわけじゃ......」


と、というか天霧さんはどうしてあんなに平気そうなんだ?てっきりもう無視されて終わりだと思ってたのに......


「お、おはよう、天霧さん」


返事をしない訳にもいかないので席につきながら言うと、天霧さんはとても可愛らしい笑顔で頷いた。


えぇ、どうゆうことー。天霧さんは確か俺をおもちゃにしていることが周りに知られないように優しくしてたんじゃなかったか?

もう実質的に天霧さんのおもちゃではなくなったはずなのにこの態度は何なんだ。


「その、今日からまた一週間頑張りましょうねっ花山くんっ!!」


「あ、あぁ。う、うん。そうだね天霧さん」


こ、怖わいよぉ。こんな可愛い子が俺みたいな陰キャに声を掛けてくれてるっていうのに何か裏があるんじゃないかって思っちゃうよぉ泣


と、とにかく。これは報告する必要があるな、俺一人でこの変化を抱えるには危険な気がする。



*******




昼休み。俺は屋上で七海と顔を合わせていた。

話題はもちろん朝の天霧さんの事についてだ。


ホームルームの後俺はすぐに七海にメッセージアプリで「話がある」と連絡を取っていたのだ。


「ふーんなるほど、それは確かに意外ね。」


今朝の一連の流れを話すと、七海は何かを考えるようにアゴに手を当てた。


「な、なんか、あんなことがあったのに何もなかったみたいな平気な感じで本当怖かったんだよ」


再度そう言うと、七海は少し真面目な顔で口を開く。


「それは多分、方向性を変えたのね」


「ほ、方向性??」


「そう。前まではアンタの弱みを一方的に握ってだけどアイツからすれば今はそうじゃないわ、そこまでは分かるわよね?」


「あ、あぁ、分かるよ」


返事をすると七海は髪を耳にそっと掛けて続ける。


「だからこそアイツは方向性を変えたの。奏司をもう一度おもちゃにするためにね?」


「そ、そんな、具体的にはどういう?」


「まぁ、大方は優しくしてボロが出たらそこに漬け込んで立場逆転を狙うって感じなんじゃない?」


「ま、マジかよ。てっきりもう諦めたのかと思ってたのに......」


というか、七海はよくそこまで考えられるな、まるで天霧さん自身みたいだ。


「まぁ、でもそこまで心配する必要はないんじゃない?前みたいに派手なことはしてこないでしょ」


「だ、だと良いんだけど」


「でも、油断は禁物ね。アンタはアイツみたいな女に優しくされるとすぐ鼻の下伸ばすし」


「の、伸ばしてはねぇよ!それに俺のタイプは金髪帰国子女の美少女転校生だ!!」


「何よそのマンガにいそうなヒロイン像は。てか、必死すぎてキモイんですけどー」


そう言いながら、七海は屋上の出入り口に向かっていく。


「もう行くのか?」


「うん、話も済んだしアンタと違って友達とご飯食べる約束があるからー」


「へいへい、それじゃーな」


そんな俺の言葉に見向きもせず、七海は屋上を後にしてしまった。


まぁ、七海の見立てが正しければやっぱり天霧さんはしばらくの間は何もしてこないだろう。



あぁ、この隙に金髪帰国子女の美少女が本当に転校したりしてこないかなぁ。


そんなことより先にクラスに馴染まなくちゃか。幸い、宮村は友達って言ってくれた訳だしボッチではなくなったんだから。


とにかく、青春ラブコメ計画再始動だ!!

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