六話・幼馴染のよしみ。

叫び声を上げた後の俺はとにかくこっちを睨んでる天霧さんにビビり散らかしてた。


ど、どうしよう。もう逃げようかな.....


「もう許しませんよ......おもちゃなんて生優しいことを言いましたが、もうやめです。」


「い、いや、あの。ほ、本当にイチャイチャとかしてないし、ね?あ、あの天霧さん.......」


そう声をかけたが、もはや天霧さんはそんな軽口では止められそうになかった。


俺が情けなく怯えていると、七海が間に割って入るように声を上げる。


「や、やめなさいよ!アンタの噂は聞いてたけど本当に性悪ね!!」


「だから何です?西野さん、貴方ももう私の手の中なんですよ......口には気をつけて下さい」


「は、はぁ?まだそんなの決まってないじゃないの、色んな秘密を知ってるのがアンタだけだと思ってるわけ?」


と、俺にはそれまでただの一方的な口論にしか見えなかったが、七海が発した一言で天霧さんの表情が変わった。


「は、は、はぁ?何ですか秘密って、私にそんなものあるわけ......」


「嘘つきね!わ、私は知ってるんだから!!」


天霧さんが返答し終える前に七海は遮るようにもう一度声を上げる。すると。


「な、な、何で貴方が.......そ、それを?」


「別に良いでしょ?で、でもまぁ、知った時は結構ビックリしたわ」


どこか見透かした表情の七海は挑発するように天霧さんに言う。


これってもしかして、七海は天霧さんの秘密を知ってるってことなのか......?


「い、一体誰がそれを貴方に......」


「言わないわよ、言ったらアンタ何するか分かんないし」


七海が吐き捨てると、天霧さんは苦虫を噛んだような顔になる。


す、スゲェェェ。俺なら手も足も出ないのに七海はあの天霧さんと対等に話してる。

やっぱ一軍女子は一味違うぜっ!


というか、七海はよく天霧さんの秘密なんて知ってたな。噂どころか非の打ち所が無さすぎて浮いた話も聞かないけど。


そう考えていると、少し間を置いて七海がまた口を開いた。


「それじゃ、もう用がないなら私達は帰るけど、それで文句ないわよねえ?」


「は、はい...どうぞご勝手に。」


言葉とは裏腹に天霧さんは怒りと悔しさが入り混じったような表情で俺と七海を睨む。


こ、怖え。でも、これでとりあえずは助かったわけだよな。


そう思いつつ、俺は七海と一緒にその教室を後にした。




******




教室を出た後。俺はもうすぐ朝のホームルームも始まるので少し急いで七海と教室に向かっていた。


「いやぁ、凄いな七海は。あの天霧さんとあんな言い合いするなんて」


歩きながら何の気無しに言うと、七海は嘆息しながら髪を耳にかける。


「別に凄くはないわよ。でもあのままじゃまずいって思ったから」


「いや、それが凄いんだろ。俺なんかビビまくってたぞ」


「確かに情けなかったわね。いつからそんな頼りない陰キャになったんだか」


自分から言い出したことだけど、さっきみたいなことがあってからド直球に言われるとまぁまぁ傷つくな。

まぁ、助けてもらったしいいんだけど。


「そう言えば、お前天霧さんの秘密なんてどこで聞いてきたんだよ」


「秘密?そんなの嘘に決まってるでしょ」


「え、嘘なのお?!」


「幼馴染のくせに気づかなかったの?」


いや、めちゃくちゃ迫真だったし、後半はなんかもう立場逆転みたいな感じだったから気づきようにもきづけないだろ。


「まぁ、思いつきだけどね。そしたら、予想よりあの女の反応が凄かったから」


「な、なるほど。確かその前は七海が天霧さんに秘密がどうたらって脅されてたもんな」


ん?そう言えば、七海は天霧さんに何を言われたくなくてあんなに必死だったんだ?


「そ、それで?七海の秘密って......」


「い、言うかバカァ!!そう言うデリカシーないとこだけは変わってないわね!!」


「で、ですよねぇ......」


ま、まぁ、人には他人に言えないことの一つや二つくらいあるよね。俺もあのノートが天霧さんにバレてから色々始まったし。


七海は取り繕うように咳払いしてから続ける。


「とにかく、あの女の秘密を知らないのがバレればまた厄介になるわ、だからこれで終わったと思わないで」


「あ、あぁ。けど、いくら天霧さんでももう流石に何もしてこないんじゃないか?」


「バカね。あの女の執着心がこんなので終わるわけないでしょ。だからこれからはもっと用心しないと」


た、確かに。あの顔はきっと復讐を企んでるって感じだったし、俺もまだノートの中身を天霧さんに握られてるのに変わりないんだからな。


「それじゃそういうことで。何かあったらすぐ報告してほしいけど、学校で話しかけるのはやめてよね」


「あ、あぁ。本当、俺のこと嫌いだなぁ」


俺がそう言うと、七海はべーっと舌を出して自分のクラスの方に足を進める。


そう言えば、俺のことをいつからそんな頼りなくなったとか何とか言ってたけど、お前だっていつからそんなツンケンするようになったんだよ。


まぁ、でも、礼くらいはちゃんと言おう。


「な、七海、その。さっきは助けてくれてさんきゅーな!」


俺が声をかけると、七海はくるりと振り返り、悪戯気な笑顔を向けてこう言った。


「ばーかっ、ただの幼馴染のよしみだってーのっ」


それだけ言うと七海は今度こそ自分の教室の方へ歩いて行った。


いつぶりにあんな笑顔を見たんだろう。


い、いや、何考えてんだ俺は。あいつは俺のことが嫌いで、ただ幼馴染だから今回は助けてくれただけだって七海も言ってたじゃないか。

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