五話・差出人の正体 下。

天霧さんからの手紙を握り締め、これから何が起こるのかドギマギしながら俺は校舎の中を早足で駆け抜けた。


天霧さんにおもちゃにするって言われてから例の俺に手を出すなって手紙のお陰でさほど何もされずに済んでるけど、もしかしてこの呼び出しは......


い、いやいや、悪いことばかり考えるな!もしかしたらまた差出人についての相談かもしれないんだし。


と、そんな事を考えている間に特別棟の例の教室までたどり着いていた。



俺は深呼吸をしながらゆっくり戸を開く。



「あらっ花山くん、早かったのね」


教室に入ると一番に明るくて可愛らしい声、それと笑顔でこっちを見る天霧さんが目に映った。


そ、それともう一つ......


「な、七海?!!ど、どうしてお前がここに......」


完全に天霧さんだけだと思っていたので俺が驚いて声を上げると七海は何も言わずぷいっとそっぽをむいた。


「あ、あの、これは一体どういう......」


「私、今日の朝少し早く登校してみたんです。そしたらこんなものを彼女が私の靴箱に」


言いながら、天霧さんは例の手紙と全く同じ種類のものを見せてきた。


と、いうことは......


「間違い無さそうですね。彼女が差出人の正体みたいです、一応花山くんも中身を見ますか?」


「あぁ、えーっと......」


「つ.......!!!」


俺が天霧さんから手紙を受け取るか悩んでいると横から七海が凄い速度で手を出してきた。


「その反応だと、間違いないみたいですね。彼女が例の差出人みたいです、花山くん」


「い、いや。でも、まさか、なんで七海がそんなことを??」


俺が戸惑いながら言うと、天霧さんは面白そうに口角を釣り上げ、七海は対照的に酷くバツが悪そうな顔をする。


「私も知りたいです、何故西野さんがこんな手紙をわざわざ出したのか」


じっとり獲物を眺めるような目で天霧さんがとうと、七海はたまらず眉間にシワを寄せた。


な、何なんだこの状況、頭では理解していても気持ちが追いつかねえ。


第一に七海は俺のことが大嫌いだったはずだろなのに、庇うようなこと......



と、二人の間で考えていると、堰を切ったように七海が口を開く。


「お、幼馴染のよしみよ!!」


と、何もない教室の中に七海の甲高い声が一気に響く。

七海は俯いていた顔を上げて続ける。


「奏司のことは大っ嫌いだけど、アンタみたいな性悪に好きにされるのも御免なのよ!!」


「ふ〜ん、なるほど。ならこの手紙を私に出した理由は単なる嫉妬から、だと」


「し、し、嫉妬じゃないわよ!!勘違いしないでよねこの陰キャ!モブ!!!」


と、七海は話の途中で言葉を向ける相手を天霧さんから俺に変えて声を上げる。


はいはい、勘違いなんてしませんよ。でも、七海は俺のことを心から嫌いなわけじゃないんだな。


「まぁまぁ、落ち着いて下さい西野さん。私が居るのに一イチャつこうとされるとムカつくので」


「イ、イチャつこうとなんてしてないわよ!誰がこんな奴と!!」


「分かりましたから、まだ聞きたいこともあるのでとりあえず静かにしてください」



呆れたように天霧さんが言うと、ようやく七海はおとなしくなった。


そうして天霧さんは仕切り直すように咳払いをしてからこう続けた。


「まず、西野さんはあの日私と花山くんのやりとりを見ていたってことでいいですか?」


「そ、そうよ。部活前に慌てて忘れ物を取りに来たら偶然アンタ達がいたの。」


「なるほど。それで花山くんが脅されていることを知った西野さんはあんな手紙を?」



そう天霧さんが問うと、七海は首を縦に振って返事をした。


ま、まぁ、そういうことになるよな。

俺も二人の話を聞きながら頷いていると、天霧さんはこれまでより少し鋭い視線になる。


「ただ、一つだけ引っかかるところがあるんですよね。西野さん、貴方嘘ついてません?」


「は、はぁ?嘘なんてついてないわよ。て、ていうか今の話で嘘をつかなきゃいけない部分なんてないでしょ」


七海が言い返すと、天霧さんは表情を変えて見透かすように笑った。


どういうことだ、全然分からん。七海の言う通り別に嘘をついているような部分はないと思うけど......


「幼馴染のよしみで、ですか?」


と、俺が悪い頭で状況を整理してると改まったように天霧さんが言った。


「そ、そ、そうよ。なんか悪いの?」


と、何ら変哲のない一言だと思ったが、七海はそれに酷く動揺したように返す。


「私これでも学校の中じゃ結構な有名人なんですよ、だから色々な話が耳に入ってくるんです。知ってる人が凄く限られているような話でもね?」


「あ、あ、あっそう!!だから何よ!」


強く言い返すも、七海の表情はどんどん曇っていく。


なんだ七海のやつ、本当に何か嘘でもついてるって言うのか?


「そういう態度な、今ここで答え合わせしてもいいんですよ?ねぇ、西野さん?」


「そ、それはダメ!!お願いだから、やめて......」


どこか胸を痛めるような表情になった七海は初めて弱気な態度を取った。


オイオイ、そんな顔いつぶりだよ。となると、七海は本当に嘘をついていて、それを察した天霧さんに脅されてる最中ってことだよな?


天霧さんはそんな七海の言葉を受けても尚、悪戯気な表情を浮かべる。


「あら、さっきまでの威勢はどうしたんですか?その態度を見るに、図星みたいですね」


「くっ......な、何が目的なのよ。」


「話が早くて助かります。」


言いながら天霧さんは七海を見てはにかむが、凄い緊張感がその場に走っていた。


な、何か俺の知らないところでどんどん話が進んでいるような......このまま見守るだけでいいのだろうか。


「ちょ、ちょっと待って天霧さん!!」


まずいと思ったので声を掛けると、天霧さんだけでなく、七海の視線も俺へ向いた。



「はい、どうしたんですかモブ...いえ、花山くん?」


「わざとだよねぇ?!って、そんなことより、言いたいことがあるんだって!!」


「なんでしょうか?」


「い、いや、なんて言うか横で聞いてて何となくだけど話は分かった。そのうえでこれだと七海が可哀想だなって思ってさ......」


言いたいことを言い終えると、さっきまで笑顔だった天霧さんの表情が急に曇った。


「ふーん。相思相愛ですか......ムカつきます。ムカつく、あぁムカつく。ムカつく!!!」


「あ、あの、天霧さん?」


何やらまずそうなので声をかけたが、天霧さんは下を向いたまま小声で何かを呟いている。


「ば、バカ!なんで火に油を注ぐようなこというのよ!!」


「え、えぇ?!お、俺が悪いのか?!」


そんなやり取りを俺と七海がしていると、最初は小声で呟いていた天霧さんが突然声を張り上げた。


「だからァ!!ムカつくって言ってんだよ!!私を差し置いてイチャついんじゃねぇ!!」


「ひ、ひぃぃいいい・・・・・・!!!」


もう何この状況......青春ラブコメの神様、貴方はどれだけ私に試練を与えるのですか泣




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