四話・差出人の正体。
放課後。俺はきょろきょろしながら校舎を歩き、適当に暇を潰して時間が過ぎるのを待った。
普段ならとっくに下校してる時間なのだけど少し気になることがあるので残っている。
怖えぇ。なんかこういうのって刑事ドラマとかでよくあるよな、張り込み的な。
そんなことを思いつつ、俺はトイレの入り口から半身だけ出して下駄箱の方を覗く。
気になることというのはこれだ。もしかしたら昼休みに天霧さんと話した手紙の差出人がまた現れるんじゃないかと思ったんだ。
「おい花山、お前何してんの〜?」
「う、うわぁぁあぁああ!!?!」
殆どの生徒は部活に行ったか下校したはずなのに、突然声をかけられて俺は叫んだ。
「声デケぇな。てか、お前そんな声出るんだ」
そんな悠長な言葉がする方へ視線を向けると俺がいるトイレのすぐそばに宮村が立っていた。
なんだよ、コイツかよぉ。
「な、何だ、宮村くんか。」
「何だとはなんだよ、失礼だな」
「い、いや、別に深い意味は.....って、そう言えば宮村くん、部活は?」
俺は陽キャのオーラにビビりつつ不思議そうな顔をする宮村に問う。
「あぁ、部活ならもう終わったぞ。週末試合だし疲労溜めないために軽めでって監督が。」
「あ、あぁ、そうなんだ。」
なんかよく分からんけど、凄いタイミングだな。
「それで?花山はなに覗いてたんだよ」
「えっ!い、いや、別に覗いてた訳では......」
「その慌てようだと誰かの着替えか?お主も悪よのうはなやま〜」
い、いや、そんなことしたら青春ラブコメどころか退学だから。て、ていうか、青春ラブコメが好きな者としては自分から覗くよりラッキースケベに遭遇......
って、そんなことより今は張り込みだろ!宮村に絡まれてる間にもし手紙の差出人が現れたらどうするんだ!!
「お前筋金入りだなあ。まだ話の途中なのに熱心にさあ」
呆れたように再び下駄箱の方を凝視した俺を見て宮村は言った。
「なんかズルいぞお前。てことで俺もっ!」
「ちょ、宮村くん!ま、まぁいいや。でも本当に着替えを覗いてる訳じゃないから......」
「そんなこと言って、すぐそばに楽園が広がってるんだろう?って、お前何見てんだ?」
宮村は不思議そうに言う。そりゃあそうだ、このトイレ入り口から見えるのは一直線の廊下とその先の下駄箱だけ。
最初から覗きなんてしてないって言ったのに.....。
「なーんだつまんねー!本当に覗きじゃないのかよ。それなら俺は帰るぜ、疲れたし」
「あ、あぁ、うん。」
そう言いながら、トイレから離れようとする宮村を見る視線の端に一瞬人影のようなものが映った。
慌てて振り返るとスカートを揺らす女子生徒の姿が下駄箱に見える。
「お、おい花山!いきなりどうしたんだよ!」
と、背中越しに宮村から声を掛けられたが俺はそんな声など関係なく、下駄箱に続く廊下を走った。
運動部の生徒はそのまま帰るよな。他に文化部が残っていたとしても部活が終わるにはまだ早過ぎる!!
色々な可能性を考慮しても、このタイミングで下駄箱に人が居るのは不自然なんだよおぉぉ!!
「......なに。そんなに慌ててキモいんだけど。」
心の中で叫びながら下駄箱まで来ると息を整える俺の耳に辛辣な言葉が聞こえてきた。
顔を上げると、そこには俺の幼馴染である西野七海が立っていた。
「あ、あれ。な、七海?」
「なに、その何でお前がここに見たいな目。キモいし別に居たっていいでしょ」
「い、いやまぁ。」
って、キモいは余計だろ。
というか、居てもいいでしょっていったけど、七海は確か陸上部だよな、ならやっぱり何でここに?
ま、まさかな、七海が手紙の差出人......
「ねぇ、ねぇってば。ぼーっとしてんなら私もう帰るけど」
と、考え事をしていたら七海がうざったそうに睨んできた。
「あ、あぁ、ごめん。俺の勘違いだったみたいだ」
「何を勘違いしてんのかしらないけど、マジきもいから。てか、学校で話しかけんなっ」
言いながら靴を履き替えた七海は校舎の外へ出てってしまった。
まぁ、無いよなまさか七海があの手紙の差出人だなんてこと。
だってあの手紙には確か「奏司に手を出すな」って書いてあったし。
俺のことを嫌ってる七海がそんなことわざわざ手紙に書くわけもないってーの。
「おーいはなやまーいきなり走りだしてどうしたんだよ。てか、今お前西野さんと話してなかったか?」
と、七海と話し終えたタイミングで後から来た宮村に声をかけられる。
「あぁ、いや。別に話ってわけでも......」
「も、もしかしてお前が覗いてたのって西野さんの着替えなのか?!」
「い、いやだから違うって!!そんなわけないでしょ?!」
そ、そんなことしたら今頃俺は冗談抜きで七海にミンチにされてるって。
「ほ、本当だろうな!!西野さんは影で付き合いたい女子の一二を争ってんだ、お前如きが覗いたんなら洒落にならねーぞ!!」
「ほ、本当に本当だって!!」
「そ、そこまで言うなら信じよう。」
そう言いながら宮村は安堵したように息を吐く。
宮村って陽キャのくせにこういうとこあるよな。て、ていうか七海ってそんなに人気だったのか?俺と違ってカースト上位だとは思ってたけどそこまでとは......
と、そんな事を考えている間に宮村は靴を履き替えていた。
「んじゃ、俺帰るわ。覗きはあんま良くねーからほどほどにしろよ?」
「い、いやだからしてないって!!」
言い返すと宮村は少し笑いながら校舎の外に出て行った。
うーん。やっぱそう簡単にはあの手紙の差出人には会えないか。
直接じゃなく、手紙で伝えてるってことは正体をバレたくない理由があるって事だもんな。
まぁとりあえず今日は帰るか。
一応、明日の朝も少し早めに来て今日みたいに張り込みをするって事で。
*******
そして翌日、俺は昨日決めた通りに少し早く学校へ登校した。
朝練へ向かう生徒などは居たが、それ以外に目立った人影はまだない。
やっぱ張り込みなんて簡単じゃないよな、手紙の差出人なんてそうそう現れるわけ.....
そんな事を思いながら自分の下駄箱の扉を開けた時、俺は思わず目を丸くした。
「お、おいおい、これって......」
中には上履きと2つに折られた手紙が置いてあった。
最近ことあるごとに手紙というものに不信感を抱くことばかりだったから、開くのに戸惑った。
しかし、我慢できず、俺はその手紙を開いてしまった。
「私の大切なおもちゃの花山くん、少し用があるので登校したら例の教室に来て下さいっ♡」
開いた手紙の中にはそう書かれていた。
こ、これってたぶん、天霧さんが書いたものだよな?何だよ、ビビったなぁ。
とは言っても、この感じなんか嫌な予感がする。遅いと変な無茶振りさせられそうだし、ここは早いところ言う通りにしよう。
そう思い、俺は靴を履き替えて特別棟へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます