第2話 思い出
ぽっちゃんがお酒を持ってきてくれた。
「さて、飲み直すか」
感慨深そうに夜空と降が言った。
「こうして3人で話すのも久しぶりだな」
「そうだな。高3以来だもんなぁ」
思わず、重いため息を出しながら俺は言う。
「確かに高3以降の夏、話してないか」
夜空が真剣な表情で聞いてきた。
「湊、高3の夏何があったんだ」
3人の視線が俺に集まる。
俺は覚悟を決め、1度深い呼吸をし、話しを始めた。
「実はな、俺さっきのさっきまで
3人の喉が鳴る音が聞こえた。そのまま俺は話を続けた。
「いや、正確に言うと忘れてたのは名前だけ。あいつとの、常夏との会話とかは覚えているんだ。なんでだろうな。幼馴染なのになんで忘れちまってたんだろうな」
湊は悔いるように話した。そして、先ほど思い出したことをぽつりぽつりと話した。
「俺さ、常夏が行方不明になる前日一緒に居たんだ。いつものようにさ、図書館で夏休みの課題して駄菓子屋でお菓子買って、あの神社の麓の川で遊んでたんだ。そしたらあいつが急に」
湊は涙が溢れそうなのを堪えながら、言葉に詰まりながらも話を続けた。
常夏が急に死のうと思ってるって言ってきたこと、常夏がいなくなってずっと探し回ったこと。戻ってくるよう何度も鐘を鳴らしこと。
「あぁ、そっか。そういえば俺、鐘のこと常夏に教えて貰ったのか、夏休みの初日に。常夏が願いを強く思いながら叩くと願い事が叶うんだって言ってさ。その時、俺告白しようと思ったんだ。けど、常夏がなぜか悲しそうな顔をしてたからできなかった。夏休み最終日までには告白しようと思ってたけど、できなかった。できないまま常夏はいなくなった」
涙が一度こぼれたら、歯止めが聞かなくなった。
ダムが決壊したように流れる涙の中、湊は懺悔した。
「あの時、告白できてたなら未来は変わってたのかなぁ。今も常夏はこの場に居たのかなぁ。なんで、なんで今まで常夏のことを忘れてたのかなぁ」
後悔の渦に沈み込み、湊は下を向くことしかできなかった。
下を向いていると湊はふと頭に温もりを感じた。
夜空の手だった。
「そっかぁ。辛かったよなぁ。湊」
頭を撫でてくれていた。人の温もりを感じたのは久々だった。
温かい目で見守ってくれる3人にも後悔が押し寄せてきて謝った。
「お前らごめんなぁ。ひどい態度とったよな。俺さぁ、常夏がいなくなってわけわかんなくなっちゃってよぉ」
「俺らそんなん気にしてねぇし。逆に悪かったよ。湊のこと助けられなくて。なんて声かければいいか分かんなかったんだ。大切な人がいなくなったら辛いもんなぁ」
湊は泣きながらもありったけの感謝を3人に述べた。
そのまま4人でお酒を飲み続けた。
ぽっちゃんが呟いた。
「そういえば、深瀬くんもなんで行方不明になったんだろうね」
降が眠たそうに机に肘をつきながら答えた。
「確かに変な話だよなぁ」
「あなたたちまだ話してたの。はい、これおつまみ」
風呂上がりの
切枝さんに4人で声を合わせお礼を言う。
「ありがたやー」
愛人の話題がでて、思い出したかのように切枝さんが話始める。
「そういえばさ、夏休み前私、なっちゃんから『
降が驚いた後、厳しい顔になり切枝さんに聞く。
「ほんとなのかよ、それ」
「うん、けど夏休み入ってから突然、『私の気のせいだったごめんね。ほんと気にしなくていいよ』って言ってた」
ぽっちゃんは訝しげな表情をして言った。
「そんなことがあったのか.......全く知らなかったな」
降も学生時代を頭に浮かべながら言った。
「愛人も常夏も仲が良かったイメージだったな」
夜空も同じく学生の頃を振り返る。確かに高校1年の時から、湊、神崎さん、愛人くんと仲良し幼馴染でワンセットと扱われ、よく目立っていた。疑問に思ったことを湊に聞いてみる。
「湊は何か心当たりある?」
湊は、必死に思い出すかのように考え込んだ。
「......」
間に耐えられなかったのか切枝さんが話した。
「常夏について警察にもそのことは言ったんだけどね...結局失踪の扱いのままだった」
みんな、常夏を思い出し後悔するような顔をしていた。
そんな中、湊は考えていた。愛人のこともまた、常夏の時と同じように思い出せないでいた。思い出そうとしても思い出せない。愛人に怪しい様子がなかったのか、常夏は本当に命を自ら立ったのか、それとも愛人に連れ去られたのか、愛人と一緒に失踪したのか。
考えるだけでも頭痛が激しくなっていった。あの時、俺が常夏の様子に気づいてあげれたら何か変わっていたんじゃないか、告白していれば今なお常夏は生きていたんじゃないか。
湊は、あの時何もできなかった自分に、深い深い後悔を感じていた。
重く暗い空気が流れていた。
「と、とりあえず今日はさ、せっかく皆で集まれたんだし明るく飲も?」
切枝さんが気を遣い場の空気を変えようとしてくれた。
それから夜空たちは、高校生の頃の思い出話に花を咲かせた。
湊も皆の気遣いが身に染み、常夏のことは一度心にしまい、お酒に身を委ねた。
気づけば何時間も立っていた夜空が時計を見て言った。
「もう0時じゃん」
夜空たちは湊と会うのは10年ぶりで3時間では物足りないほど積もる話が会った。
切枝は、旦那であるぽっちゃんが湊のことを心配していた為、今回の会話できた機会に嬉しく思っていた。
「随分と話し込んだねぇ」
湊は、回ってない呂律でそれぞれに握手をしながら言った。
「久しぶりに会えてよぉかったよ」
降は、微笑みながら優しい顔で湊を見て言った。
「酔ったら湊は素直になるんだな」
「うぅるせぇやい。ってか田舎ってべんりだよねぇ。終電気にしなくていいなんて最高」
湊は目を瞑りながら満面の笑みで片手にもったビールグラスを前に掲げながら言った。
ぽっちゃんはその様子を見て湊に提案する。
「ありゃりゃ、こりゃあ相当酔っぱらってんな、家泊ってくか?きりちゃんもいいかな?」
「ははは、これだけ酔っぱらってたらね、しょうがないわね」
湊はおもむろに立ち上がりキメ顔で言った。
「べつに帰れるわぃ。世話になったな」
「あほ、そっちはトイレ!心配だなぁ」
ぽっちゃんは湊の帰りの心配をした。
ぽっちゃんの肩に手を置き、夜空が安心させるように言った。
「途中の道まで僕らと湊は一緒だから大丈夫だよ。」
続けて降も言う。
「ほんとに帰れそうになかったら俺が家まで送るよ」
3人でトイレの前に居た湊に視線を送るも既にそこに湊はいなかった。
「こ~う。高1の時は辛気臭い顔してたのに今はこんなに話すようになって。俺は嬉しいぞ~」
どこに行ったのか店の外に視線を移すと電柱に抱き着いてなんか喋っていた。
降、夜空、ぽっちゃんが口を揃えて言った。
「「「大丈夫かな」」」
ふらふら歩く湊を降と夜空は見守りながら歩く。
夜空が目を細め、嬉しそうな声で言った。
「久しぶりに湊の顔を見れてよかったな」
「ほんとだよ、あいつ高校卒業してから全然連絡とれねぇし、とにかく無事でよかった」
降は、ため息をつきながら言ったが、最後には柔らかい声になっていた。
「そうだね。少しでも前を向いてほしいなぁ」
湊は、高3の夏休みが終わった頃、神崎常夏が行方不明になってから必死に常夏を探し、日が立っていくごとに顔色が悪くなり、頬もこけ、人と喋らなくなって行った。夜空としては、あの時の湊は思わず目を背けたくなるような悲痛さが漂っていた。
「引きずっちゃうもんだよ。大切な人がいなくなっちゃったらさ。とにかく俺らが支えないとな」
降もまた大学生の頃、5年付き合った彼女が病気で亡くなったのだ。だから、大切な人がいなくなった人の気持ちは痛いほど分かっていた。
夜空が少し微笑みながら言った。
「俺が降を支えたようにか」
「うるせぇな」
降は照れ隠しにぶっきらぼうな返事をした。確かに彼女が亡くなってからだいぶ夜空に助けられた。
そんなことを話していると別れ道に差し掛かった。
「夜空はいま星野と同じところ住んでんだよな」
降が同窓会で耳にしたことを夜空に聞いた。
「そうだよ」
「けっ、幸せ者め。星野にもよろしくな」
夜空は、高校の時から付き合っていた星野とつい最近、同棲を始めたようだ。
この分かれ道で3人とも別々の帰路に向かうため、降と夜空は湊に声をかけた。
「おーい。湊大丈夫か」
「家帰れる?」
湊は振り返り、ふらふらな足取りながらも胸を張って答えた。
「ったりめぇよ。こっから真っすぐ進むだけだからよぉ」
夜空は降と顔を見合わせながら言う。
「真っすぐにだけだったら、大丈夫か」
「湊、連絡はちゃんと返せよ。」
「でた。ツンデレ降」
「うるさ、じゃあまたな」
「あぁ、またね。二人とも気をつけて帰りなよ」
夜空と降はそれぞれの帰路に向かっていった。
「じゃあ~な~」
湊はぴょんぴょん飛び跳ねながらぶんぶん手を振っていた。
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