4話
僕の勢いのある謝罪による混乱が収まった後、僕と伊藤君は鑑定結果を書き込んだ紙を囲んで話し合っていた。
「その、私の鑑定スキルは見ての通りふざけた内容で結果が出るんです。だからいつもそれから内容を読み取ってお客さんに伝えていました。」
「成程ね…、じゃあこの文の意味はどういう解釈が出来るのかな。」
「うーん、そ、そうですな」
彼女は露出狂と書かれた紙を真剣に見つめる。
何だか恥ずかしいな。
「肌を晒す…、これは軽装という事、かな…?それで、それを晒す…。………、あ、あの多分ですけど、身に着けている物が少ない程、そしてそれを見ている人が多い人程能力が向上する特性だと、思います。」
「うん、僕もそう思うな。」
彼女の言う通り、この文をそのまま受け取ると肌を晒し、つまり装備品が少なく、その姿を見てもらえば見てもらう程強くなると書いてあるように思える。
まるで、露出狂が見られて興奮する様に。
しかし、そうか、そう考えるとそこまで変な特性では無いように思える。
軽装備で強くなる特性なんてありふれている。
僕はそれに人の目がプラスされるだけだ。
「ありがとう、伊藤君。君のおかげで希望が見えたよ。早速今度試してみるね。」
「あ、あの!」
「うん?」
「よ、良かったら検証に付き合わせてくれないですか?も、勿論お仲間がいられるのならアレですが…特性的にも誰かいた方が良いと思いまして、あのすみません、私なんかがでしゃばっちゃって」
「え、それはありがたいけど、君はダンジョンに潜れるの?」
ダンジョンには探索資格がなければ基本は入れない。
法律を無視して探索をしている物も数多くいるがキチンとした刑事罰の対象である。
彼女は無言で資格証を僕に差し出した。
そこには彼女の名前と顔写真があった。
生年月日を見ると加川君達とそう年は変わらなそうだった。
「君も探索者だったんだね。でも、本当にいいの?」
「う、うん、いや、はい、助けてもらったですし、協力させてほしい、です。」
正直彼女がそう言ってくれるのは助かる。
この能力の関係上僕を見てくれる人が必要なのは間違いない。
僕は彼女の保護者のマスターの方を見る。
「うん?ああ、俺は許可するよ。特性の確認ぐらいだったら危険じゃない所で良いんだろう?それに、その子が久々に外に出るってんだ。俺は大歓迎だよ。」
「お、おじさん!」
保護者のマスターも賛同してくれた。
そして彼女は引きこもりみたいだ。
彼女は恥ずかしそうにこちらを見る。
「コ、コンビニくらいは行きます、から…、後ここにも」
「う、うん、そうかい。」
僕は苦笑して彼女の言葉を肯定した。
外を見ると既に暗くなっていた。
時計を見ると20時を指していた。
「今日はもう遅いし後日にしようか。」
「あ、明日はどう、ですか?」
「そうだね、あ、ごめん。明日は僕が今組んでいる人たちと夕方から一緒に行動するんだ。終わるのも早くて18時ぐらいだろうし…、だからまた連絡するね。」
「え、えっと朝とかは…?」
「えっ、多分、彼らと一緒に潜るのは16時とかからだから朝は問題ないけど、伊藤君は大丈夫なの?その時間は…」
「大丈夫だ、そいつ引きこもりで学校行ってないから」
「おじん!余計な事言うな!」
「は、はは、じゃあ朝一緒に行ってくれるかな?」
マスターに怒る彼女に僕は苦笑しつつお願いをした。
彼女は赤みがかった顔で目をあらぬ方向に向けながらこくりと頷いた。
こうして、僕と伊藤君は出会い、ダンジョンに一緒に潜る事となった。
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「じゃあ、行こうか」
「は、はぃ…」
「おう、怪我すんなよ。」
次の日の朝、喫茶店で待ち合わせをした僕と彼女はマスターに見送られながら出発した。
僕の乗用車の助手席に彼女を乗せる。
「ありがとうね、付き合って貰っちゃって」
「い、いえいえ、大丈夫です、はい。」
「ここから車で30分ちょっとで着く東京都小規模ダンジョン18番に行くからね。そこは、モンスターも少ないし探索者も全然いないから丁度いい筈だ。」
「は、はい。」
ガチガチに緊張している彼女に苦笑する。
まあ、知らないおっさんと車内で二人きりでいつも通りしろいうのも難しいだろう。
あのマスターもよく許可したものだ。
何とか道中で緊張を解けないものか。
「………伊藤君はダンジョン探索者だったんだね。」
「………」
「伊藤君?」
「ひ、ひぇい!わ、私!?」
「う、うん」
ここには君と僕しかいないから僕の頭がハッピーでない限り彼女以外に僕が話しかける人物はいない。
「そ、そう、です。私は探索者、です。」
伊藤君は壊れかけのロボットの様な口調で返答する。
「やっぱり最近の子は、皆、探索者になるのかな?」
「えと、言われている程多くはない、と思います。中学校を卒業してすぐに取ったのも私達以外はクラスでいなかった、です。」
「私達?」
「い、一緒にパーティを組んでいた友達です。い、いや元友達…か、ふ、ふふふ」
暗い感じで笑う彼女に僕は二の句を継げなかった。
しかし、逆に彼女は何かのスイッチが入ったのか暗いオーラを纏いつつ引きつった笑いを零しながら喋りだす。
「小学校からの幼馴染でと、とても仲良かったのに、高校デビューの探索者デビューでビッチに成り下がって私はお払い箱、ふ、ふふふ。」
「そ、そうだったんだ。」
「一緒に追放物のアニメだって見てたのに、あんな破滅ムーヴをするなんて馬鹿としかお、思えない。へ、へへ。………うぅ」
「追放物?」
断片的な情報で彼女の話は見えてこないがとても辛い記憶なのだろう。
頭を抱えだした。
「え、えと、パーティのお荷物が仲間に追い出されて、でも実は凄いチートを持っていてざまあ!するお話の事、です。」
「へ、へぇ。」
あまり聞いた事がない話だった。
元々そういったエンタメ関係は僕は疎いけれど今はそういうのが流行りなのかな?
「え、えと、だからその、私は最初の友達と一緒に高校の人達とパーティを組んで、………私はそこを追い出されて、今は私は彼らにざまぁする為に虎視眈々と牙を鑑定士として研いでいる、感じです。」
「…そうなんだ。」
彼女の話を要約すると高校入学とともに組んだパーティで彼女は酷い経験をした様だ。
それで傷付いた彼女は引きこもりに。
僕は学校に通った事はないけれど、ああいった閉鎖空間での人間関係は一度拗れると面倒そうだ。
でも辛い経験がありながらも鑑定士として社会と関わり続けようとする彼女は立派だと思った。
「君が鑑定士として大成するのを祈ってるよ」
「へ、へい、ありがとうござい、ます。」
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車を走らせる事、数十分。
僕たちは目的のダンジョンへと着いた。
本来の正しい手続きは最寄りのダンジョン管理室に申請後に潜るのが決まりだ。
しかし、こんな貴重な資源も最早なく、危険生物もいない場所に潜るのに態々許可を取る人はほぼ皆無といってもいい。
ダンジョン前で見張っている人間なんかもいない。
僕らはそのダンジョンに潜ってすぐの広い空間へと来た。
「じゃあ、試してみようか。お願いします。」
「は、はい。」
僕は着ていたジャージを脱いでタンクトップに短パンの姿になる。
「うほ、良い筋肉…」
「伊藤君?」
「な、なんでもないっす。」
「?、じゃあちょっと見ててね。」
僕はその場でシャドーボクシングをしてみたりして身体を動かす。
「ど、どうですか?」
「…うーん、それ程、実感は無いかな。」
そもそもこれくらいの軽装なら過去にも経験がある。
仕方がないか…。
僕はタンクトップを脱いで上裸になる。
「ごめんね、ちょっと見苦しい物を見せることになるけど。」
「………」
「伊藤君?」
「わ、えひゃい!大丈夫です!問題ないです!」
彼女は時々フリーズするが大丈夫だろうか。
僕は彼女を心配しつつもう一回動いてみる。
んん?
「ちょっと、動きのキレが良くなったかな?」
「お、おおー」
彼女はパチパチと拍手してくれた。
「よし、伊藤君。一度僕を見るのを止めてくれないか?」
「え!?…す、すすすすみません!」
「伊藤君?」
「気持ち悪い目で見てすみません!視姦してすみせん!許してください!何でもしますから!」
「伊藤君?落ち着くんだ伊藤君!」
何故かテンパる彼女を落ち着かせて後ろを向いてもらって僕を視界から外してもらう。
そしてもう一度動く。
ふむふむ、成程。
「ありがとう、もう良いよ。」
「は、はい!」
「やっぱり、僕らの想像通り装備、というより服を脱いで、そしてそれを見てくれる人がいれば僕の能力が上がるみたいだ。」
「ほ、ほぉ〜」
「しかし、うーん。」
僕は悩ましい声をつい出してしまった。
確かに身体能力の向上は実感出来たが、微々たるものの気がする。
これ以上となると下半身を脱ぐしかないのだがうら若い彼女に僕の全てを見せるのは流石に憚られた。
それにダンジョンの中でも犯罪は犯罪である。
鑑定結果を鑑みるに僕の肌色面積 × 見てくれる人で能力が向上するのだろう。
しかし、僕の変態特性を受け入れてくれる人を仲間に出来たとしても精々一緒にダンジョンに潜れるのは5、6人。
尚且つ彼らも僕をずっと見ているわけにも行かないはずだ。
「え、えと、大丈夫ですか?」
「………うん?ああ、大丈夫だよ。ありがとう、君の鑑定結果通りで僕の特性は間違いないみたいだ。」
彼女は僕の言葉に喜んでくれた。
まあ、マイナスな情報を彼女に伝える必要もないだろう。
僕には特性があった。
それが使い勝手が悪いものだとしても取り敢えずはそれで十分だ。
「じゃあ、帰ろうか。」
「えっ、下は?」
「えっ!?」
彼女はどうやら僕が下も脱ぐと思っていたらしい。
思わず彼女を二度見してしまった。
彼女はしまったという顔をした。
「あ、ひひ、いえいえ、そそりゃ私の様なキモいのがいる前で脱ぐわけないですよねお寿司。」
「う、うん、多分犯罪になっちゃうしね。」
どこか落胆した雰囲気を出している彼女を連れてダンジョンを出た。
この子は男の裸体に興味があるのだろうか…。
ーーーーーーーーー
「検証に付き合ってくれてありがとね。助かったよ。」
「お、お役に立てて何より、です。」
帰りの道を車を走らせながら彼女と会話する。
しかし、特性【露出狂】か…。
いや、落ち込むな、ここ数年暗闇のどん底にいた僕の探索者人生に希望の光が差したんだ。
もっと色々可能性を模索してみよう。
まずは露出を許してくれる仲間を探さないとな…。
僕は久々に前向きな気持ちとなった。
「…本当にありがとう、伊藤君。」
「い、いえいえ、助けてもらった、お礼、です。それに、そんな大した事は…」
「僕はね、黎明期からずっとダンジョンに潜ってたんだ。地上にいるより地下に潜っている時間の方が長い年もあった。」
おっさんの自分語りなんぞ興味ないだろうが謙遜する彼女に感謝の気持ちを僕はしっかり伝えたかった。
「でもここ数年…、いやもっと前からか。僕はダンジョンの前線に行けなくなった。新たに見つかったダンジョンは国や地方自治体がまず調査する。所属の探索者や選ばれた企業所属の探索者やフリーの探索者を募ってね。ダンジョンは金脈であり、国家を形成する重要な物だ。だから僕の様な雑魚のおっさんなんかが新たに見つかったダンジョンなんかに行けるわけがない。何度か忍び込もうとして警察にお世話になったよ。」
「チャ、チャレンジャー…」
「まあ、でも捕まってよかったんだろうけど。どうせ僕がそんな所に入ったら直ぐに死んじゃうだろうし。最近はそんな無茶もしなくなったよ。…そうして新たなダンジョンの情報はそれが重要なものであればある程、新発見であればある程一般への公開は数年先となる、いや、もしくは公開すらされないかもね。」
昔は僕は生でダンジョンを冒険した、そして多くの神秘や化け物どもを発見して体験して殺してきて殺されかけてきた。
だが今や僕は週刊誌やテレビで数年前の情報を誌面越しに、画面越しに見るだけだ。
きっと前線では最早古ぼけた情報であるそれを馬鹿みたいに羨望の目で眺めている。
ダンジョンに僕は生かされてきた、ダンジョンと一緒に育ってきた。
でも僕はダンジョンに置いてかれてしまった。
そして今は死人の様に未練がましく古ぼけた遊び場で僕を置いて先に進んでいく子達の雑用をしている。
それが今の僕だった。
「僕はね、この歳になっても、まだダンジョンに挑み続けたいんだ。冒険し続けたいんだ。そんな気持ちが未練がましくいつまでも残っているんだ。だからSNSで君の広告を見た時は正直期待してなかったんだけど、一縷の望みを掛けてみたんだ。」
「あ、あー、あれから来ていただけたん、ですか。」
「うん、10万円ポッキリで特性を調べるって書いてあったからね。正直相場の十分の一だし怪しかったけど、でも君に鑑定してもらえて良かったよ。」
数日前に彼女の広告を見た日を思い出す。
SNSでいつもの様にダンジョンの情報を流し見していたら流れてきたのだ。
正直僕に貯金なんてものはほぼ無いに等しい。
だから特性を調べたいと言う気持ちはあっても無理だった。
そこに彼女の広告が僕の心にヒットしたんだ。
「本当にありがとう、僕は君のおかげで前向きになれた。」
「………はい、お役に立てて光栄、です。」
長々と話したが彼女に僕の感謝の十分の一でも伝わっただろうか。
久々に僕は本心を曝け出して人に感謝した。
何だか小っ恥ずかしい気持ちになってその後暫く車内は無言だった。
「あ、あの、わ、私が鑑定士を始めた理由なんですけども…」
もうすぐマスターの喫茶店に着きそうなタイミングで彼女が話し出した。
「私、パーティを追い出されてから、その、まあ引きこもりになりまして、長い時間何にもせずに過ごしてたん、です。でも、ある人と出会いまして」
話すことが恥ずかしいのが何処かもじもじとして、たどたどしかった。
「す、凄い元気をもらって、私も、彼女みたいに自分の出来る事で人を助けたい…って思えて………、だから鑑定士を初めてみたんです。な、なんで、お客さんにそう言って貰えると私も嬉しいです、はい。」
やっぱり彼女は強く、優しい子だ。
詳しい経緯は分からないが、引きこもりから立ち直るのはとても難しいと聞く、それを短期間で克服し社会活動に精を出しているのはとても立派な事だ。
「凄く素晴らしい事だと思うよ、…そのある人もとても素晴らしい人なんだろうね。」
「え、えへひ、面と向かって褒められると照れ、ますね。そうです、あの御方には今でもとてもお世話になっていて、もう本当に尊いっていうか日々の活力って感じ、です。」
彼女は褒められて照れたみたいでくねくねとしながら不気味に笑いだした。
あの御方というのが何者なのか分からないがその人がいなければ彼女は鑑定士を始めなかったので僕にとっても間接的に恩人である。
心の中で僕もあの御方に感謝した。
「最近もぉ、長時間ホラゲ実況とか凄い神回だったし、投げ銭する手が止まらなくて、正直推しにお布施する為に鑑定士している所もあってぇ」
彼女かくねくねとしながら早口でずっと喋り続けている。
神、お布施
彼女のいうあの御方とは宗教の教祖なのだろうか。
僕はマスターにそれとなくその事を伝える事に決めた。
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「じゃあね、今日はありがとう。またお店に今後も寄るよ、マスターの美味しいスパゲッティも食べたいしね。」
「は、はい。ま、待ってます。」
僕はマスターに挨拶をした後に伊藤君にお礼をいって車に乗り込んだ。
さて、これからやる事、考える事が沢山あるな。
とても良い事だ。
バックミラーを調整する時にチラッと見えた僕の目は久々に活力があった。
そして今日の夕方に加川君達とダンジョンに潜った際、僕のタンクトップ、短パン姿を見た澁谷君に汚物を見るような目で見られたのだった。
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