第48話 血に染まった手が向く先は……
「……僕は、すでにクラスメイトをこの手で殺しています」
そう告白する僕を、二人の先生は責めたり問い詰めたりはしてこなかった。
むしろ、同情するような表情を向けてきたことに僕は少し驚いた。
「……そうか、どういう事情があったのか、イヤじゃなければ聞かせてくれるか?」
小さく
──この世界に転移した僕をあたたかく迎え入れてくれた《リグームヴィデ王国》の人々。
──僕を
──その後、クラスメイトたちは《
──そして、クラスメイトの一人を手にかけた僕。
──僕はクラスメイトたちが所属する《
「似ているな……」
不意に漏らした織原先生の言葉に、
似ている、って、何に似ているんだろう。
そう僕は問いかけようとしたが、急に強い眠気が襲ってきて
水瀬先生の声が聞こえてくる。
「大丈夫、《回復術》を強めに発動させてるから眠くなってるだけ。目が覚める頃には動けるようになると思うわ」
「うん……」
《神器》の杖を掲げる水瀬先生に、僕は素直に従った。
目を閉じて、ゆっくりと呼吸を整えていく。
「大丈夫、今まで、よく一人で頑張ったね。これからはわたしたちも協力するから……」
優しげに語る水瀬先生の言葉が、心に染み入ってくるように感じた。
僕は
「……ひとりじゃないですよ、リオンヌさんもいるし、フローラやフルック、イオランテス将軍も頼もしい味方です。それに……クラヴィルも……」
その言葉を最後に、僕の意識は闇に沈んだ。
◇◆◇
「どうしたらいいの……私には止めることができない……」
小高い丘の上に立つ少女──
彼女が見下ろす先では、複数の国の軍隊が激しくぶつかり合おうとしていた。
活発に動いているのは紫色の《
一方で、その攻撃を受け止めているのは《イクイスフォルティス騎士団》だった。
抵抗する《騎士団》に《神国》の軍にいる聖職者たちは口々に
「《イクイスフォルティス騎士団》は《商業都市シンティラウリ》から降伏した《勇者》の
何を馬鹿なことを──《ルナクェイタム神国》の
だが、逆に、何人かの《勇者》は精神的に追い詰められもしていた。
そして、その双方が戦場で出会ってしまった時、残酷な現実が描かれる。
──《勇者》による《勇者》殺害。
事態は、混迷と残酷さを深めていった。
○
「
肩で息をしながら剣を構える《ルナクェイタム神国》の《勇者》──
「俺は女子たちを守らないといけないんだ! 吉泰の方こそ降伏してくれよ!」
泣きそうな表情で叫ぶ護良に、吉泰は子供をあやすかのように穏やかな口調で諭そうとする。
「とりあえず、落ち着け、な? ここでオレたちが戦っても、事態は解決しないぞ?」
「ゴチャゴチャうるさい! 降伏しないって言うなら、動けなくして引きずっていくまでだ!」
上段から大振りのモーションで《
「ちぃっ!」
大きく舌打ちをして、吉泰が《神器》の力で光の障壁を展開し、護良の衝撃波を粉砕する。
「だから、ヤメロって、ちょっとだけで良いからオレの話をき──」
「うああああっ」
今度は《神器》の剣を直接、吉泰の障壁に護良が叩きつけてくる。
護良の《神器》の力が勝ったのか、ジワリジワリと光の障壁が切り裂かれていく。
それを目の当たりにした吉泰の口から焦りの声が漏れた。
「護良、ヤメロっていってるだろ!」
《神器》の剣を振り上げる吉泰。
吉泰はとりあえず、護良の剣を弾き飛ばすつもりだった。
だが、吉泰が光の障壁をいったん解除したせいで、護良が大きく体勢を崩すことは想定していなかった。
「うあっ──!?」
「やべっ!!」
護良の剣に向かって勢いよく振り下ろされたはずの吉泰の剣は、体勢を崩した護良の肩を砕き、そのまま胸へと達していた。
「ぐぼぁっ!!」
口から
慌てて、剣を引き抜こうとする吉泰だったが、肉に食い込んでしまったせいか、どうすることもできない。
むしろ、護良の苦痛を強める結果に終わった。
「そ、そうだ、《回復術》を使えば……」
震える手で《神器》の杖を取り出して、吉泰は護良の傷口に回復の光を当てる。
吉泰は攻撃、防御、遠隔攻撃、回復術、すべての《神器》を扱えるオールマイティな才能を持っていた。
だが、それは裏を返せば
実際に、この護良の深手に対して、吉泰の《回復術》は望むような効果を発揮しなかった。
「くそっ、おい、しっかりしろ! 護良、しっかりしろ!」
だが、すでに天を仰ぐ護良の瞳からは光が失われつつあった。
口から血とともに弱々しい声を押し出してくる。
「……よ……しやす……あい……つら……たすけて……やって……」
「アイツらって、《ルナクェイタム神国》の女子たちのことか!?」
弱々しく頷く護良、そして、その身体から力が抜け落ちた。
「くそっ──!」
吉泰は護良の身体を地面に横たえ、あらためて剣を引き抜いた。
「オレたちは、このまま《ルナクェイタム神国軍》の本陣を目指す! 囚われている《勇者》たちを救出するんだ──いいな、騎士団長?」
いつの間にか近くに来ていたこの騎士団の指揮官に吉泰が怒りに満ちた顔を向ける。
「もちろんですとも。この勢いなら、このまま《ルナクェイタム神国軍》の
「ああ、助かる」
自らの剣についた元クラスメイトの血を振り払い、吉泰はゆっくりと歩みを進めていく。
この状況に自分たちを追い込んだ《ルナクェイタム神国》の指導者たちに、激しく深い怒りを向けながら。
──こうして、《イクイスフォルティス騎士団》と《ルナクェイタム神国》両国軍の間で勃発した戦闘は次の段階を迎えることとなる。
そして、ここに来て傍観を決め込んでいた《鉱山都市アクリラーヴァ》や《商業都市シンティラウリ》、《エターナヒストール大公国》も再び軍を押し出してきたのだった。
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