第二部 サントステーラ大陸大動乱
第六章 僕は同じ轍を踏むつもりはない、だからこそ裏切り者は抹殺する──藤勢 知尋
第31話 大動乱への導火線
《サントステーラ大陸》は、僕たちが召喚された《
そして、その大陸のほぼ全域が、激しい戦火に見舞われることになった──
○
そんな、激動の渦中へと転がり落ちていく《サントステーラ大陸》の一角──《アレクスルーム王国》領内を駆け抜けて、僕たち《イオランテス軍》は、旧《リグームヴィデ王国》の領域内へと突入すべく軍を進めていた。
「このまま、《リグームヴィデ王国》の中を突っ切って、《魔帝領》へ帰ろう」
僕は戦場用の
《
「《リグームヴィデ王国》内を最短距離で抜けるなら、《
そう言って、僕の横から身を乗り出し、地図上に線を引いたのは、この国──《リグームヴィデ王国》出身のクラヴィルだ。
僕はクラヴィルの説明を聞きながら、少し考え込む。
「……正直、ちょっと情報が足りないんだ。《リグームヴィデ王国》には敵の《アレクスルーム王国軍》が
「ならば、いったん軍を
イオランテス将軍が、部下たちを呼び集める。
「
特に、現状は
それらの問題点をできるだけ多く解消するように準備しましょう、と、将軍が表情を引き締めた。
その将軍の言葉に、フローラとフルックが僕に向けて
「確かに急ぎたい気持ちはあるが、焦りすぎても足もとを
「ええ、優先度から考えても、ここで情報収集は必要でしょう」
僕も同意見だった。
「うん、そうしよう。最初は、敵軍に遭遇しないように《魔帝領》へ急ぐつもりだったけど、状況によっては、一戦仕掛けてもいいと思うし」
重要なのは、常に
先の《城塞都市カリスターン》の戦いで、《アレクスルーム王国軍》の一軍を壊滅に追い込んだこと、さらには《勇者》を一人討ち取ったことは、すでに大陸全土に広まりつつあるだろう。
さらに、こちらから勝負を仕掛けて勝利を重ねることによって、《魔帝領》の首都《
──だが、この時、僕たちはまだ知らなかった。
その《魔王城》を中心に、戦乱の動静が大きく変化を見せようとしていたことを。
◇◆◇
「──さあ、今日から、この城は僕たちのものだ」
《魔帝領》の首都である《魔王城》──その、最上部にある大きなバルコニーから、城下町を指し示したのは、《
そのバルコニーには、藤勢を含めて三十三人の《勇者》──《都立青楓学院高校1年A組》の生徒たちが集合していた。
「さっき、正式に《連合六カ国》すべての国から、僕たちがこの城と街を管理することを認める決議が承認された」
藤勢はそう言うと、手にしていた書類をクラスメイトたちに広げて見せた。
だが、実のところ《召喚勇者》たちは、この《異世界ノクトパティーエ》の住人と会話はできるものの、文字の読み書きはできない。
何人かの生徒は、積極的に文字を学習していたりもするが、そんな彼らでも、まだ実用には、ほど遠い状態だった。
そのことは、当然、藤勢も理解しているので、書類の末尾に押されている《連合六カ国》それぞれの印を指さして、各国に認められた正式な書類であることを強調する。
「と、いうわけで、すぐにでもこれからのことを決めるミーティングを開きたいんだけど……?」
そう会議室に移動するように促す藤勢だったが、その時、他のクラスメイトたちの様子が、いつもと違うことに気づいた。
そして、次の瞬間、クラスメイトたちの大半──《アレクスルーム王国》所属以外の生徒たちが、一斉に《
「これはどういうことなんだい?」
平静を装う藤勢に、髪の毛をポニーテールにした活動的な少女──《エターナヒストール大公国》所属の
「とりあえず、その書類はわたしたちが預かるわ。藤勢君たち《アレクスルーム》の人たちは、当面の間、行動を制限させてもらいます」
続けて、《アレクスルーム王国》所属の
浦神が
「無駄な抵抗はしないで、あなた方に危害を加えるつもりもないし、裁くつもりもない。むしろ、守りたいと思っている。でも──」
《連合六カ国》のうち、《アレクスルーム王国》を除く五カ国が、最近の《アレクスルーム王国》の動きに不信感を抱き、この《魔帝領》侵攻から排除する決定をした。
そのため、まずは旧《リグームヴィデ王国》領に
「それで、僕たち《アレクスルーム王国》所属の《勇者》を切り離したってわけ」
感情を押し殺した様子で淡々と語る浦神に対し、藤勢は、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「そう、なので、藤勢君たちの外部との接触は絶対に禁止です──そして、もうひとつ」
浦神が顔を上げる。
「藤勢君たちにも
すると、浦神の後ろから、《鉱山都市アクリラーヴァ》所属の
「そうだ! 大澄が
ひとりだけ《連合六カ国》に所属せず、行方不明になっていた《はぐれ勇者》
その叫び声の主は、同じ《アレクスルーム》所属の
だが、彼は完全にパニックに陥っており、誰の問いかけにもまともに答えようとはしなかった──いや、できなかったのだろう。
「一方的に《遠距離思念通話》を停止させたのは藤勢だよな! しかも、なんの説明もなく!」
食ってかかってくる楠葉に、藤勢がため息をついてみせる。
「國立くんは、完全に取り乱してしまっていたからね。状況を聞くにしても、落ち着いてからと思ったんだ。もちろん、そのことも含めて、このあとキチンとみんなと相談しようと思ってたんだよ」
さらに、藤勢に詰め寄ろうとする楠葉を浦神が制した。
「とにかく、藤勢君たちは、それぞれ自室で
──そして、鷹峰君からも事情を聞くために。
浦神は口にこそ出さなかったが、その場にいる誰もがそう受け取った。
ひとつため息をついてから、浦神が合図をすると、それぞれ事前に役割分担を決めていたのか、生徒たちは手際よく藤勢たちを部屋へと連れていく。
去り際に、藤勢が全員に対して声をかけた。
「前にも言ったよね、このままだとクラスメイト同士で殺し合いになる、って」
「ええ、忘れてないわ。だからこそ、これはそうさせないための措置だと思って。藤勢君ならわかってくれると思うけど」
浦神が正面から藤勢を睨みつけた。
そんな彼女から藤勢は自然に視線を
「わかったよ、最悪の状況にならないことを祈ってる──」
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